第8話:あの日 - あの時

先に中に入った僕は、部屋が暗くて何も見えず、酔いもあったので少し眠気が襲ってきた。

そんな所に後ろの冒険者さんがトーチを灯してくれた。

おかげて少しは周りがみえた。

まだ少し暗いけど、目が暗さに慣れてきた。

この部屋は結構広くて、さらによく前を見ると3階建ぐらいのサイズの大きな黒い人型のモンスターがこちらをにらんでいた。

目が合った。

黒く光る装飾があるが半分裸に近いその人型モンスターは、形こそ人に似ていても意識の疎通が出来る相手には全く見えない形相の顔。

酔っ払っていなかったらきっと怖いんだろうな。

その人型モンスターの背後には禍々しく紫のオーラが波打っている。

それを少し綺麗だなと思いつつ眺めていた。

やがてそのオーラは冒険者のトーチがいらないほど輝き出した。

開始の合図ポイ。

こちらの様子を伺いつつ力を溜めているように見える。

そして、そのモンスターは指らしきものを僕の方へ差し出すと、その先に禍々しい光が集まってきた。

僕はぼけっとそれをみていたが、目の前の黒いモンスターは、僕の頬にかすめるようにその禍々しい光を放ち威嚇攻撃をしてきた。

僕はよける気は全く無かった。

当たっても別にかまわない。

でも当たるとは感じなかった。

光が地面にあたるとその場所は大きな音を出し派手に砕けた。

小さな破片が僕の体に当たる。

挑発行為。それもどうでもいい。

だけど、そのモンスターの笑っているような顔が気に入らなかった。

「ざけんな・・・・・・」

お前まで僕を笑うのか?あの冒険者Aのように!

「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!」

段々といらだちが加速して、僕は普段言葉にしたことが無い台詞を連呼した。

「この野郎!なめんな!やけだ!くぉら!!」

僕はまだ酔いが残っていたが、目の前のモンスターに意識を集中すると、フラついた足もしっかりと力が入ったので全力で駆け出した。

もちろんそのモンスターも回避行動と僕への攻撃を繰り出す。

その一部が、僕の身体に当たる、だが一歩も引く気にはならない。

それどころか・・・

「上等!」

心が暴発している僕の口からは普段言わない様な言葉を叫んだ。

「ちょっと!あのNPC攻撃しかけたよ!」

「うわっ!こっちまで被害喰らう!防衛&回復魔法!」

「やべ!やべやべ!」

僕とモンスターの戦いのとばっちりが後ろの冒険者さん達にモロにふりかかっている。

「ちょっと、前衛(タンク)も薬(ポーション)使って!間に合わない!」

「あのNPCどうして戦えるんだ!?」

「そんなこと後!後!僕達がやられる!」

「ああっくそ!本戦用に用意したアイテムなのに!」

その声は『冒険者さんのくせに何弱気なこと言ってるんだ。冒険者さんのくせに!』と心で悪態をついたが、すぐに目の前のモンスターが僕に隙無く攻撃してくる。

物理攻撃はちょっと体をずらすだけで回避できるけど、モンスターの繰り出す魔法攻撃はダメージを受ける範囲があるから行動は詠唱の様子をみて大きく動き距離を取る!

初心者冒険者に武器を売るときに合わせてする説明(チュートリアル)を何度も何度も言ってきた。

それがやっと本当の意味がわかった気がする。

だんだん身体も温まり、力が剣や足腰の動きに載ってきた。

僕の剣の攻撃はモンスターの皮膚を簡単には貫けない。

でもモンスターのダメージを確実に削っているようだった。

「隙を見せろ!こんちくしょー!」

そう叫ぶと同時に、モンスターの長い腕から伸びる大きな手が僕を地面に叩き付けるべく頭上から勢いよく落ちてきた。

僕は回避し、剣でモンスターの手の端を切りつけ、難をのがれつつ、地面からに叩きつけた手からつながる腕、モンスターの頭部への道が見えたので、即、そのモンスターの手の甲に載るとまっしぐらに腕を駆け上った。もちろんその道となる腕を剣で傷づけながら。

痛がるモンスターが僕の足場となっている腕をはねあげる。

僕も一緒に簡単に空に跳ね上げられモンスターの上空に!

僕の身体はただ落下するだけの状態に。

モンスターのもう片方の手が大火炎魔法を詠唱し僕に向かって放った。

「やられるか!」

当たりそうなその一瞬で、その大火炎魔法を切る!

『ダメージは少しは喰らうけど、安い武器でも時々できるから覚えた方がいいよ。』とそれも初心者冒険者に教えたことのあるテクニックだった。

こんな場所でも仕事の事を思い出すとはと自分にあきれる。

だが、切った火炎魔法の中は熱く、体力を結構むしり取られたので、すぐに戦いに意識を集中させた。

くっ。

僕の身体は相変わらず落下中その下に詠唱が終わったモンスターの振り上げた手。

捕まって握りつぶされる訳にはいかない。

剣の性能を信じて接触の瞬間に十文字に切りつけた。

綺麗にモンスターの手が裂け、その振り上げた腕からモンスターの顔めがけて一気に駆け下りた。

口、目?頭蓋骨?いや!首!

突き刺すと、次の攻撃ができなくなる。

落下のスピードに駆け下りる勢いが付いた僕の身体は、モンスターの首を体重と重力を載せて切りつけた。

これでおわりじゃないだろう?

そう思った僕はモンスターの髭にしがみつき、落下と遠心力の勢いで反対側の肩に着地すると、モンスターの振り上げた腕を駆け上り、その腕からジャンプして首上から上体を切りつけた。

僕の体重は落下速度に載り結構な力が切りつける剣に掛かっていった。

地面!

それを認識すると、そのままの勢いだと叩き付けられるので、僕はモンスターを斜め下に蹴りモンスターの身体から一端離れ足先に軟着陸して、そのバウンドで地面に転がるように着地した。

勢いが収まり、すぐに立ち上がりモンスターの次の攻撃を警戒した。

だけど、モンスターの次の攻撃は来なかった。

激しい戦いの後急に静寂が訪れたが、後ろに居た冒険者が口を開き、その静寂を破った。

次の攻撃を警戒したけど、全く動かない。

よく見ると、切り付けた場所が良かったのか、勢いよく黒紫の血が吹き出していた。

「えっどうなってるの?」

「まじかよ!」

「これって・・・」

そうココから、冒頭の話に繋がる。

暫くは冷めそうにない、熱い腕の筋肉が緊張を解いて良いか悩み。

息もきれぎれで、思考がまとまっていない中での周囲のざわめく。

ズズゥン。目の前のモンスターが地響きをあげて倒れ、その中から輝く武器が姿を現した。

僕はアルコールと眠気で意識が飛びそうな中、それを拾う物だと、無意識に腕を伸ばし手した。

沈黙が訪れ、僕の筋肉もゆっくりと緊張を解いてた頃、後ろで観戦していた冒険者が声をあげた。

「おい、おわったのか!?」

そして続いてあの言葉。

「あのNPC!ソロで最強の魔王倒しちまったぞ!」

「おいおいおい、ふっざけんな!」

「たった1本しか無い最強の武器を、NPCに持ってかれたってか!!!」

段々と声が多くなり、様々な罵声が僕に向けて響いた。

僕は彼らが魔王と言うまでこのモンスターがこの世界で最強のモンスターだったとは気がつかなかった。

確か、冒険者さん達が何度も挑んでも倒せなかったと聞いている。

戦い終わってちょっと恐怖に震えそうになったが、それよりも筋肉の解いた緊張感と共に眠気が襲って抵抗できなかった。

僕は頭から崩れない様に足元を気にしながら床に突っ伏しそして、意識を失った。

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