第7話:何処か
景色が歪んだと思ったら、強い力で体が引っ張られた。
これが魔法石のワープか。なにかを考える前に到着したらしい。
手に持っていた魔法石は砕けて粉々になった。
一度しか使えないものらしい。
そしてあたりを見渡すと、ここは、暗く広い廊下にろうそくの火が柱に灯っている場所だった。
その光に照らされた廊下の造形は、いかにもお金と労働力を掛けて作った威厳に満ちた凝った装飾。
きっと、オーフェン・ベルツの城内でもこれほど豪華な作りはなさそうだ。
ただ古くぼろぼろになっている。
埃も積もっている。
「おい、あそこにNPCが・・・」
不意に後ろから声が聞こえた。
「あれ、オーフェン・ベルツ武器屋のNPC」
「うそ、なんでそんなのがここに?」
「そんなイベント在ったか?」
「いや。知らない?ちょっと待って調べてみるから」
12名程の冒険者が僕の後ろでバトルを始める前のキャンプをしていた。
いきなりこんな所にやってきた僕(NPC)に驚いている。
冒険者さんは不審がっているが、僕も飛んだ先がモンスターも何も無い場所だとは思わなかった。
ただボス戦か何かがこの先、この目の前にそびえる大きな扉の中にでもあるのだろう。
いかにも大物が居る感じする重厚な扉。
これも装飾が施された物だが、全体的に暗い。
冒険者さん達のこれから向かおうとしている先がこの中だって事は想像が付く。
でも、扉は手で押しても開きそうになかった。
こんな暗いダンジョンのような場所だ、向こう側にお願いしても開けてくれる人は居ないだろう。
きっと特殊な道具(キーアイテム)が無いとこの奥には入れなさそうだ。
『ちぇっ期待はずれだ』
ふてくされるように剣とアイテム袋を扉にぶつけると袋の中の何かが光り反応した。
袋の中を覗くと、それは変な形のアイテムだった。
取り出し手に取るとそれはさらに光って熱を持ち出す。
小さなそれは、複数の円状の線を束ねたを複雑な造形物で光り輝いていた。
何となくそれを扉に近づけると光が強くなり、遠ざけると弱くなる。
明らかにキーアイテムだ。
『あの店に来た冒険者さん、この先に行く為に持ってたのかな?』
自分の仲間と共に来る予定があったんだろうか?
でも可哀想に仲間を置いて冒険者を辞めてしまったんだ。
『もう返してって言っても、返してやらないから』
僕は酔っ払った意識にでふらふらになりながら、投げやりにそのアイテムを扉に投げつけた。
パシャン!
薄いガラスを割るような音と共に扉にぶつかり光が弾けた。
扉もその光を受けるようにぶつけた箇所から輪になって光彩を描いた。
ギッ、ギギギ。
鈍い音と共に扉が開いたら後は自然と足がそちらに向く。
「おい!おい!おい!NPCが中に入るぞ!」
「大丈夫なんか?これ?」
「知るかよ!」
冒険者さん達は意図しない僕の行動に混乱が続いているようだ。
「まって、彼、シャドウエクスカリバー持ってる!」
「はぁ!?なんでNPCが!?」
そんな声が聞こえた。
『ああ、僕が持っているこの武器の事か?』
初心者向け武器屋の僕でも聞いた事はある。闇族討伐の為の世界で1本しか無い武器らしい。
でも、失恋で自棄になっているうえに酔っ払っている僕にはそんな事どうでも良かった。
とっとと部屋に入りさくっと憂さ晴らしを済ませたかった。
「ひとまずついて行こうぜ!」
「うそ!あぶないよ!」
「状況把握しないと!」
冒険者さん達は及び腰ながら、僕の後を付いてきたようだった。
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