第6話:憂さ晴らし
片手に酒、片手に冒険者から貰った剣、そしてもらったアイテム袋をひっさげた出で立ちで王都を出た。
見つけたモンスターにただひたすら八つ当たりをしてみる。
僕たちの世界では厄介なモンスターだが、冒険者さんの世界では動物愛護法とかがあるらしい。
どんな生き物でも無闇な殺生が出来ないようだ。
だからある意味、憂さ晴らしが出来る僕たちの世界は気楽なのかもしれない。
冒険者さんも自分たちの世界では出来ない事をする為に、僕たちの世界に来ている人もいる。
『憂さ晴らして生き物に八つ当たりをしている僕は最低だな・・・』
僕達NPCと違って、モンスターには意識が無い。
だから無闇に倒しても心が痛む事はなかった。
そもそも意識がなければこんなに辛い思いもする事も無かったはず。
ふらふらとした足取りと酔っ払った思考だけど、武器の基礎的な戦い方を身につけているので、王都周辺のモンスターでは全く相手にもならなかった。
「はぁ・・・」
アルコール臭い僕の深いため息が周りのモンスターをおびき寄せる匂いとなるが、ひと薙ぎで倒されていくので、羽虫を祓うような物だった。
「こんなもんか・・・こんなもんかよ・・・・」
うさを晴らせるどころか少し面倒くさくなり、再び酒をあおる。
モンスターもすぐに居なくなり、この場でやる事もすぐに無くなった。
「あ〜もう!つまらないぃぃぃ・・・」
周りを見渡してもただの草原。何もする事が無い。
王都に戻っても誰かに八つ当たりに攻撃を仕掛ける事も、そもそも僕達NPCにはできない。
酔いのせいか、急に背中から肩へ脱力感が襲い、それは頭にかろうじて保っていた意識を一瞬遮断させた。
膝から地面に崩れ、背中に持っていたアイテム袋が地面に落ちた。
口をしっかりと閉じてなかったアイテム袋は、中に入っていた物をいくつか地面に転がした。
僕はそのまま脱力し仰向けになって空を眺めた。
夕刻の空のオレンジと青のグラデーションが僕の心に反して美しく、夜が訪れる事を風がその冷たさを持って僕の体に教えてくれた。
『そういえば子供の頃、ここら辺でもカレンちゃんと遊んだ記憶があるな・・・』
僕はそんな懐かしむ思い出を頭を振ってすぐに消そうとした。
すぐには思い出の回想は消えなかったけど、目線の先にさっき転がしたアイテムの中の一つ・・・
あまりお目にかかる事が無い石のような鉱物、少し光を受けて輝いている魔法アイテムが袋から出ていた。
この世界でも魔法のアイテム石は貴重だけど、この石は他の場所へ移動出来るワープアイテムだと言うのは、手に取ってみて感じて分かる。
僕はそれを空に掲げると、それのガラス質のような箇所が空の光を通して禍々しい紫の光を見せた。
強く引っ張られる感覚がある。すぐにでも使えと言っているような感覚だ。
少なくとも都市までのワープじゃなさそうなそれは、ここではない何処か遠く、離れた場所へ連れて行ってくれそうだった。
「はっ、はははは・・・」
王都から一歩出たら、何処も彼処も思い出の場所。
あそこの城壁も、向こうの森も、その先の河原も、みんなカレンちゃんと一緒にいた思い出の場所。
もう、こんな場所に居たく無くなった僕は、どこでも良いから遠へ現実逃避をしたかった。
だから何も考えずにそれを使ってみたくなる。
この場所、小高い丘から見える王都はまぶしく、いろんな思い出が少し蘇ったけど、もうどうでもよかった。
『ここに帰る事も無いだろうね』
そう思うと、そのワープアイテムを何も確かめずに、頭上に掲げ効果を発動させてみた。
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