第4話:リザルト
イベントが無事終了し、戦果報告(ランキングリザルト)がセレブレーション広場にて開示される日が来た。
最初の報酬の要望もあり、街中の人達(NPC)もどうなるか気になり、かなりの人がこの場に来ている。
特にNPCの女性達はメイク・衣装でめかし込み、自分も優秀な冒険者に見初められる可能性があるんじゃないかと、浮き足立っているのがよくわかる。
僕も浮き足立っていた。
あたりをきょろきょろと見渡す。
やっぱり。
綺麗に着飾った女性達の中に、普段では見せない姿のドレス姿のカレンちゃんが少し離れたところに居た。
彼女もこちらに気がつき、スカートの裾を持ち上げ、「どうよ」といった感じで胸を張り、よせば良いのに、ニンマリとした表情を浮かべた。
それをしなければ綺麗だよ、カレンちゃん。
服には品性を感じるけど、それに対してその気取らない振る舞いは彼女の魅力の一つだと僕は思っている。
ただ、今日の彼女の目的も知らなければ素直に駆けつけ、褒めまくったんだろうけど・・・ねぇ。
一先ず手を振って愛想笑いをしたリアクションの薄い僕にはすぐに興味がそがれたらしい。
すぐに隣にいた同じように気着飾った女性と話しを始めた。
そろそろ時間だ。
広報官が壇上に上る。
後ろから付いてきた広報官の部下数名が、布の掛かったパネルを壇上にあげた。
あの布の中に今回の結果が記載されている。
「皆の者、この度は、ご苦労であった。」
仰々しく、いつもの楽隊がファンファーレを鳴らし、威厳を醸し出す。
「発表まで長いわ!」
「スキップできないのかね。この演出」
という愚痴が冒険者中から出てきているけど、このやりとりもいつもの事。
その中で、僕はわりと楽しんでいる。
何も無い日常と比べて、メリハリのある雰囲気は良いもんだと感じていた。
「各国との激しい争いの中、最高位とはならなかったが、かなりの国威を示せたのは全て諸君ら冒険者のおかげである。
これにより、我が国の外交及び、貿易においても有利な交渉が可能となり国家の民にもその恩恵がもたらされることであろう。」
実際に大きなイベントがあった後、貿易の税率が変わり物の値段が安くなったり高くなったりする。
国威を示せる大きな都市には冒険者さんも沢山来て、宿屋、食費、必要経費を落とす。
そうなると都市の経済が回り、多くの税金が回収できるので、その分税金を安くしてくれたりもする。
それでも経済が回らないのはうちみたいな中小企業。
もちろん僕の店に卸す武器の値段も一部変動はするけど、大概の商品が初心者用なので値上げすることは殆ど無い。
価格の差分は全部、自分の店が持つ事になるので、正直懐が痛い。
そこら辺は、みんなにとってお馴染みなので、文官の話はとても長く感じる。
僕も途中の話は流して聞き、やっと本題!
その時が訪れた。
「さぁ皆の者、長らく待たせた。我らの国家、オーフェン・ベルツに貢献した者達の表彰である!」
楽隊のファンファーレ「栄光に満ちた喝采」が流れ冒険者も一斉に前に気持ちを集中させた。
後方で待機していた若い宮廷文官が、ボードに掛けた布を勢いよく剥いだ。
「第1000位~第100位まで冒険者の名前である。
順位が低いからと言って残念がることは無い。
君たちの小さな貢献が積み重なって我が国の繁栄となったのだ!」
「小さいとかいうな」
ある冒険者が後ろで不貞腐れながらつぶやくと周りの冒険者も愛想笑いで返した。
下の方の順位はまとめて報告され、そこそこ旅に約立つアイテム目録が配られ、次のイベントまでにしっかりと励むようにという意味合いを込めた景品だが、大概は店に売られて終わってしまう。大量に売られたアイテムをどうするか、いつもこの都市の大量廃棄ゴミ問題になっている。
そして順番に第100位から第11位までの発表は少し駆け足気味だったけど、順番に名前を一人一人呼ばれ文官の栄誉あるお言葉が添えられた。
意図しない順位で呼ばれた者達は落胆の叫び声を漏らし、報酬の使い道を検討し始めた。
そして、ここから報酬内容が一気に変わる第10位からの上位入賞者。
まだ名前を呼ばれていない者達は期待が膨らみ、側から見てもどの人がランキングに入ったかよくわかる。
僕のお世話をした冒険者さんもちらほら名前が上がっていた。
みんな大きく強くなったなぁと感慨深い。
段々と名前を読み上げる速度が順位が上がるにつれて遅くなり、少しづつ溜めるようになってきたが、遂に第1位の発表の時が来た!
報酬が未確定のまま、冒険者達の願いを(可能な限り)聞き入れてくれるという前代未聞の大サービスに出た報酬!
僕もどんな要求が出て、それが本当に叶えられるか楽しみだった。
「最近参加率(DAU)落ちてるみたいだしな、何かしら旨味のある報酬を用意しないとみんな頑張らないもんな」
横に居た冒険者も裏事情推測しつつ、どういう展開になるか、正面の壇上から目に釘付けになっていた。
ここに居る皆んなが同じように思っている。
一際壮大なファンファーレが鳴り響き、今回の最優秀者の名前を読み上げる準備は整った。
「最優秀賞は・・・」
もったいつけるようにドラムロールが鳴った。
「冒険者A!」
文官がコンサートの指揮者の様に大振りで腕を伸ばし、その最優秀冒険者を手の平で指した。
「見事であった!お主が今回の最優秀貢献度を納めた冒険者である!おめでとう!」
文官は拍手と共に彼を壇上へ招き入れた。
「はぁ!冒険者A!」
文官が呼んだ時、そこに居た皆んなは敢えて伏せた名前だと思っていた。
でも、僕は違った。
壇上に上がってくる冒険者の顔を見て僕は固まった。
僕はその冒険者Aをしっている。
この国の有名人?・・・商売上のお客の顔!?・・・近所や親戚の人間!!・・・
どれも違う。
ボランティアでやっている僕の初心者向け武器講座をブッチした(チュートリアルスキップ)した『冒険者A』だった。
初心者の冒険者は必ず受けなければいけない講座を完全に無視して、好き勝手にしてくれた冒険者。
彼の名前は個人情報の為、名前・顔は隠しているというわけでもなく、そのまま冒険者斡旋状に登録されているふざけた名前の男。
初めてうちの店に来た時も説明を鼻をほじりながら、つまんなさそうに話を聞き説明をしている最中に好き放題店の商品をいじり倒し、戸棚や引き出しをあさり、あまつさえ壺を割離まくった奴!
しかも、初心者ユーザーなのに、何故か所持金は良く、それでも店を出るときに商品を盗もうとしたのを覚えている。
そんな不真面目不良な『冒険者A』が今回ランキング上位に入賞!?
世も末だと感じたて、目眩がした。
そんな僕の思いとは別に、イベントの進行は進んでいく。
「さぁ冒険者Aよ、お前の叶えたい報酬を申せ」
冒険者Aは一瞬だけ、僕の方に顔を向け嫌らしい笑い顔をしたような気がした。
『?まさか!?』
ここのところ続いていた嫌な予感はついに実現する事となった。
冒険者Aは目線をすぐに僕の離れた方へ移すと、一人の女性を指さした。
そして、文官のにしか聞こえないように冒険者Aは耳打ちすると。
代わって文官が報酬をみんなに聞こえるように叫んだ。
「(NPC)カレンに婚約を申し込むと!」
会場はどよつきと、歓喜と悲哀の声が上がった。
冒険者はそれぞれ、思いの相手(NPC)がいたのだろう、その相手を取られなかった安堵のため息が聞こえ、抽選から外れたカレンちゃんに全く関係のない女性(NPC)は嫉妬の念をあらわにし、祭り終わったとちりぢりに散っていった。
カレンちゃんの彼女の横に居た女性は、カレンが選ばれた事を祝っている。
肝心のカレンちゃんは恥ずかしがっているように手で顔を隠している。
その態度・・・僕は知っている。
その隠した手の中で顔がにやけている。
彼女は結構素直に表情にでるから、品性を落とさないように手で隠したらと、子供の頃、彼女の母親と一緒にアドバイスしていた記憶がある。
その時は、ぶーたれつつ話を聞き流していたが、今日はそんな昔の言葉を素直に実践していた。
そして後ろを向き、他の人には見えないように決して淑女には見えないガッツポーズをしていた。
その姿は、若い頃よく色々彼女と競争して僕に勝った時のそのポーズと全く変わらない。
喜怒哀楽が入り交じる中、ステージ上で裁定が下った。
「よかろう!お前の願い聞き入れた」
広報文官の一言がさらに一層会場のどよめきを起こした。
「ただ、お主の報酬はお互いの意思の問題でもある。」
意思の問題。そう本当なら誰とも知らない人と結婚なんてとなるだろう、だが人一倍地位と名誉が欲っしている彼女にはもう答えは決まっている。
だけど僕は彼女がそんなにホイホイとその申し出を受けるとは・・・
・・・そう思いたかった。
「指名されたカレンよ。こちらに!」
広報文官はカレンを演上に呼び寄せた。
彼女は友達と腕を組みながらゆっくりとお淑やかに演台の袖に近寄り、友達からゆっくりと腕を話すとドレスのスカートの裾を持ち上げ
伏し目がちに広報文官と冒険者Aを見つめ恥ずかしそうに口に手を当てながらすぐには答えを出さなかった。
演技だ、カレンちゃんの僕以外の男子におねだりする時によく使う斜め45度に顔を傾けて自分の一番可愛い角度を見せる色目と勿体つけだ。
「あの・・・普段からこの街の為に危険を顧みず、ご尽力頂いている冒険者の皆さん。
とても尊敬しております。
そんな中、私を選んでくれた事には大変光栄に思います」
断る流れに導くようにしてよく使う彼女の会話術。
ああ、この後のもう展開はみえた。
「普段から生死を共にしている冒険者Aさんのお役に立てるとはおもいませんが、それでも私を必要としてくださいます?」
耳を塞ぎたかったが、最後の一言での希望もその一瞬まで捨てたくはなかった。
冒険者Aはカレンちゃんの前で膝まづき、言葉で答える代わりに手を取りキスをした。
「謹んでこの申し出、お受け致します」
言っちゃったみたいな表情を浮かべた演技をする彼女
そして、会場にはどよめきと祝福の歓声があがり、同時に後ろで待機していた楽隊が再度ファンファーレを流した。
「ちょっと待ってカレンちゃん!」
『愛のない結婚なんて・・・』
そんな言葉を遠くに居る彼女に掛けたが聞こえるわけも無く、周りの騒音にかき消された。
だけど、それで良かったのか?僕たち(NPC)に愛って。。。
壇上に上がったカレンちゃんを見ながら僕はそれ以上見ていられなくなり、押される群衆に追い出されるようにしてその場から離された。
「結婚の儀は、王都がすべて取り仕切って行わせてもらう・・・」
そんな声が最後に聞こえ後は雑踏中に消えていった。
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