第2話:チュートリアル
NPC - None Player Character
つまり、冒険者(プレイヤー)か否かで言うと否の存在。
神(GameMaster)のお告げで決められた運命をたどるはずだった僕たちは、神の気まぐれ(バグ)で意志(AI)と記憶(Memory)を与えられた。
簡単に言うと、ここはファンタジーゲームの世界、冒険者さん達に遊んでもらう為の設定された存在。
でも、この世界のバグで、ほとんどのキャラクターが意識を持ってしまった。
そのうちの一人が僕でもある。
この世界の冒険者は神界と言われる現実世界から使わされた使者で、各国に気まぐれで訪れては、その国の人々を助け、他国との緩い争いも時にはあるけど、基本的には僕たちは彼らと共存している関係だ。
そして僕、NPCジョナサン・グリーンリーフはここ、オーフェン・ベルツの城下街に住んでいる。
名前の通り、オーフェン・ベルツという王様の国の中心にある、冒険者やらNPCの商人やらが集う街。
王の顔は馬車での移動の際と記念パレードでしか見たことが無い。
そんな街で、僕は父の残してくれた武器屋オルス・フラの店主をやっている。
父さんは流行病で亡くなり、母さんは離婚でもう何処に行ったか解らない。
一人で小さな武器屋に訪れる初心者冒険者さんを相手に商売をしている日々を過ごしている。
僕も折角商品を買ってもらうんだから、武器の使い方や手入れの仕方を丁寧に説明(チュートリアル)したり、時々戻ってくる冒険者さん(復帰ユーザー)にサービスでおさらいをしたりとそんな日々を過ごしていた。
事業を拡大したりしないのかって?
王宮お抱えの武器屋が顔の幅を効かせて、有名な鍛冶屋や良い物を作る鍛冶屋は僕みたいな小さな店に商品を下ろしてはくれない。
だからサービスでカバーして薄利多売をしているんだ。
こんな小さいな店でも初心者冒険者さんには気に入られている。
それに強い武器は、過去の英雄達が冒険の末に亡くなった遺跡の中とかに置きっ放しになっているとかで、今や武器屋はランクの高い冒険者には用済み。
でも僕は僕でプライドを持って仕事をしている。
若い冒険者さんに怪我なく、無事に帰ってきて欲しくてやっていることだから。
早くみんな高ランクなってくれれば、そのうち偉くなって僕の店の評判も上げてくれるかな?とは思っていたんだけど、最近、新規の冒険者さんはめっぽう少ない。
うだつは上がっていないね。
こんな地味な商売で細々と暮らしていて、仕事以外には楽しみは無いのかって?
そうだね、僕の唯一の楽しみは一応ある。
それは早朝、お店の開店準備をしていると、宿兼居酒屋カルヒルブの看板娘NPCカレンちゃんに会える事かな?
話をすれば今日も明け方まで続く仕事終わりの彼女が店から出てきた。
ショートの赤茶で少し大人びてはいるけど、まだあどけなさも残る。
身長も僕よりも少し低い。
「おはよう!」
僕はすがすがしい朝にふさわしい元気な声で彼女に声を掛ける。
「あ~おは・・・」
今日もお疲れ感でいっぱいだけど、一応、手をふって返事は返してくれる。
彼女とは幼なじみで、お互い裕福では無かったけど、城の外れの牧場で遊んだり、勉強なんかも一緒にしてきた。
あの頃はただ楽しくて、自分の心に気がついていなかったけど・・・
少しお酒が入ってふらつきながら帰る彼女の背中を見ながら思う。
そう僕は彼女が好きだ!
でもある時、僕の気持ちを伝えたら・・・
「あんたみたいな地味な武器屋の跡取りなんか相手にしてられないの!私は立派な冒険者のお嫁さんになって、王都中心部の高級住宅街に家を構え、王様主催のパーティーに毎晩通って楽しく過ごしたいの!だからあんたは私にこれ以上話しかけないで、そういう関係と思われたくないの!」
とまぁこっぴどく振られました。
その後、暫くは合う事はなかったのだけど、気がつけばうちのお店の前で働いていた。
もちろん最初は期待したよ。
でも改めて声を掛けて話を聞いてみると。
「立派な冒険者さんと出会いの切っ掛けを見つけるべく日々、この店、カルヒルブでウェイトレスの仕事をながら、将来有望そうなお客(冒険者)を物色しているのよ」
だって。
なんか、暫く会わない間に下世話な感じになってたけど、それでもいつまで経っても綺麗な彼女への思いは変わらなかった。
そう、変わらない(設定だ)と思っていたんだ。
『あの日』の告知が来るまでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます