NPCが魔王を倒して何が悪い!
unu
第1話:プロローグ
「えっどうなってるの?」
「まじかよ!」
「これって・・・」
後ろからそんな声が聞こえる。
暫くは冷めそうにない僕の熱い腕の筋肉が、緊張を解いて良いか悩んでいる。
息もきれぎれで、思考がまとまっていない中、周囲のざわめきが聞こえてくる。
僕の後ろにいる冒険者さん達は明らかに困惑していた。
『まって、まだなにか・・・くる!?』
僕の目の前の黒い大きな塊は次第に傾き、次の攻撃にかかって来きそうだった。
僕はもう限界になった指先になけなしの力を入れて、重たい剣をその先に向けた。
だが、その必要は無かった。
ズズゥン!!
警戒した思いに反して地響きをあげてそれは倒れた。
ほんの少しの間、それは全く動く気配は無く、やがて霧のように散った。
『もう大丈夫か・・・』
そう思っていても、筋肉の緊張はすぐには解けなかった。
周囲のざわめきも聞こえなくなった。
やがて、その霧散した中から輝く武器が姿を現した。
『拾わなくちゃ』
そう、これは報酬。敵を倒したときに貰える報酬。
先程感じた『まだなにか』では無い。
ただ、何かが違う。
報酬なんて意識していない。
だがこれは今、倒した者だけが手にできる物で、権利であり義務でもあった。
考えなくても、手にしなければいけない。
何かの意思が告げている。
その意思に従って僕は、腕を伸ばしその武器を手にした。
見た目から普通では無い武器。それが掌からも伝わる。
僕はそれを当たり前のように天に掲げると、それはまぶしく天井の隙間から刺す光に反応して、さらに神々しく光った。
その場に居るみんな、まぶしいひかりに目を奪われたがやがて光は収縮し、吸い込まれていくように武器の中に収まっていった。
僕が先程感じた『まだなにか』も一緒に吸い込んでもらったように感じた。
沈黙が訪れ、先程までどうするか悩んでいた僕の筋肉もゆっくりと緊張を解いていった。
「おい、おわったのか!?」
後ろの冒険者(プレイヤー)の誰かが言った。
彼らはお互い顔を見合わせ、解らないっていった表情を浮かべる。
もうこの場には戦う相手も、この場を破壊されるような迷惑なトラップも発動する様子も無い。
だが、僕の後ろの冒険者は何かをもてあましていた。
目の前の敵からの緊張は解かれたけど、背後では別の緊張の糸が張られていた。
誰かがボソッと言葉を開いた。
「あのNPC!ソロだぞ!」
冒険者達はお互い顔を見合わせたが、再び僕の方に視線を戻すと各々口を開いた。
「おいおいおいおいおい!」
「ふっざけんな!」
「報酬をNPCに持ってかれたってか!!」
「この世界にたった1本しか無いと言われている最強の武器だぞ!!」
段々と声が多くなり、様々な罵声が僕に向けて響いた。
そりゃそうだ、こいつを倒すにはいくつもの条件をそろえなきゃいけない。
時間をかけて自己鍛錬をし、辺境の地に赴き素材を集め、専用の武器とアイテムを失敗して失いつつも、諦めずに製作して、仲間達を集め、何人もの冒険者が、切磋琢磨して、何度も挑んでも倒せはしなかった。
1回挑むのにも結構な時間がかかるのに、僕なんかに倒されちゃ・・・
と、のんきに自分の状況を確認していられなくなった。
「あのNPC!魔王倒しちまった!」
その言葉と同時に冒険者達(プレイヤー)の声から殺意が溢れて自分に向けられてきた。
どうしてこうなったか?
その場にいる騎士並びに冒険者達は皆そう思っているはず。
戦いであがった息はまだ整わないけど、まずはその説明からしなきゃ・・・
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