紙とペンと俺とあいつ

白川 夏樹

俺とペン

 紙。

 様々なツールで文字や図といった情報を書き込むことができます。

 主に学校や会社、広告などで使われとても汎用性が高く量産しやすい媒体と言えます。


 ペン。

 文字や図といった情報を紙に書き込むことができます。

 ペンは紙に書き込むことだけが役割です。

 ペンには紙が全てです。

 そして、俺にはあいつが全てだけれど、あいつにはたくさんの友達がいます。

 俺はペンです。


 気がつけば3月も中頃になり、クラスは春休みを迎え入れる準備が出来ているように思え、平素より心持ちざわめいているようだった。

 その騒ぎの中心にいるのは、男子とは付き合いがよく、女子には紳士に、教師には腰を低く、それでいて期待を裏切らないという完璧超人である住田晴人すみだはるとその人である。

 晴人を中心にクラスメイトは今日も生産性のない会話を続けていた。


 そんなクラスメイトたちを尻目に、ラノベを読んで始業までの時間を潰しているのは、南部友也なんぶともやこと俺である。

 俺は一人でいることを苦痛に感じない。

 だが、望む人と共に行動できないのは若干のストレスに感じるようだ。


 ……キーンコーン


 始業のベルがなり、クラスメイト達は会話をやめ、各々の席へと帰っていく。

「ともや、ラノベのヒロインどうなった?」

 俺の後ろの席に着いた晴人が小声で俺に尋ねてくる。

「モブと付き合ったよ」

 後ろを振り向かずに俺は答えた。

 晴人は大袈裟に悔しがった様子で、

「まじか!でも結局主人公と付き合うよな?」

 とリアクションして見せた。


 そう。晴人は根っからのラノベオタクである。

 小、中学校ではよく俺と読書会をし、ラノベの感想を言い合った仲なのだ。

 しかし高校入学の時、晴人が無事高校デビューを成功させ、一気に人気者に成り上がって僕の手の届かないところへ行ってしまった。

 今や晴人はたくさんいる友人との付き合いとかで、読書会も無くなり、前後の席どうしの会話をするのが唯一の接点という状況になってしまった。


 俺にはそれがどうにも気に食わない。

 友人である絆の強さとして友人強度というものがあるとしたら、俺はダントツで1位のはずなのだ。

 なのに、つい最近知り合っただけの有象無象に晴人を取られるのは我慢できない。


 やりきれなさのピークに達した俺は、前から回ってきた春休みのしおりに、晴人への思いを書いた。

[俺にはお前しかいない。俺にだけかまって欲しい。]

 それを後ろにまわす前にふと我に返った俺は、急いでそのしおりを机の中に隠し、なんにもない様子で残りを後ろの晴人にまわした。


(何やってんだ俺は…)

 あんなの、告白同然だ。

 男同士とかやっぱり無理だよな。

 回さなかったことに安堵したのもつかの間、ホームルームが終わって直ぐに晴人が後ろから呼びかけてきた。

「なぁ、今度の日曜読書会な」

 思いもよらない提案に、俺は情けない顔で振り返った。

「なんで……」

 そのといに答える代わりに、晴人はにやけ顔で春休みのしおりを顔の横でひらひらさせた。

 そこには、俺が書いた短文が綴られていた。

 きっと慌てていたから取り間違えたのであろう。

 だけどその間違いのおかげで、また共に過ごすきっかけを得られた。


 紙はたくさんのお供がいる。

 付き合いでペンとは疎遠になることもあるかもしれない。

 だけどペンが一途に想ってさえいれば、きっとまた一緒になれると信じている。


 あいつは紙だ。








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