カルトナージュに入れた恋~春のお目覚め編~
押見五六三
全1話
これは誰でも知ってる事だけど、春休みって一番プレッシャーが掛からないから最後まで楽しいよね。
夏休みや冬休みは必ず宿題や課題が有るから、僕の場合どうしても最終日に宿題を拒否った理由を考えなくっちゃいけない。正直宿題や課題をやらなかった言い訳を考えるのが毎回課題になってるんだよね。
「しまった!この世界の僕は、宿題をやっていなかったのか?!」とか「宿題帳の答え…闇に…闇に消されました。消された答えを見るには復活の呪文と伝説のアイテムが必要です。先生…それを僕と一緒に探しに行ってもらえませんか?」とか、毎回もっともらしい言い訳考えるのは大変なんだよね。
先生には大概「その言い訳が通用するのは中二までだ」って、返されるけど…
洒落の通じない先生には、切り札のオフクロウさん…ああ、いちびった言い方だった、マイマザーを呼び出されて三者面談させられた事も有るし、リスクはかなりデカいんだけど、こっちには「休みなのに勉強したく無い」って、ちゃんとしたポリシーが有るからね。
あっ、決して宿題をやらない事を推奨している訳ではないんだ。
これはあくまでも僕なりの宿題の答えで有って、世間一般的にはルール違反なんだろうけど、一応『言い訳を考える』という想像力を働かせるから、全く勉強をしてないわけじゃなく…
えっ?!どうでもいい?
本題に入れって?
ごめん。そうそう、春休みだね。
そう世間一般的には、春は恋も芽吹く季節だ。
そうなんだ。だから春休みに入る前にあの子の連絡先を勇気を振り絞って聞き出す事にしたんだよ。
女の子のメアドを聞き出す…
それがこの本物のシャイな僕にとって、どれ程大変なミッションかは君には分かるだろ。
えっ?!分かんない…
君、本当に僕がシャイか疑ってるの?
じゃあ本物のシャイと偽物のシャイの見分け方教えるね。
まず「僕はシャイです」って、言う奴は100パーセント偽物。
本物は「ぼ、僕ひゃ、シャイィィイ……です」って言う。
ポイントは〝どもる〟〝噛む〟〝声が甲高くなる〟〝変な間が空く〟この四つ。
初見の相手には、このうち最低二つはクリアしないと本物のシャイな人間とは言えない。
勿論〝赤面〟〝震え〟などの基本動作も込みだよ。
多分皆は本物のシャイな男子と、偽物のシャイな男子は区別がついてないと思う。
女子にはくれぐれも〝なんちゃってシャイ〟や〝オレオレシャイ〟に騙されて欲しくないよね…
ん?分かってくれた?!…と、いうよりその顔は早く話を進めて欲しいんだね。
分かった。
結論から言ちゃうと、教えてくれなかったよ。
うん。これは当たり前だ。
今言った通り僕は本物だから、〝どもる〟〝噛む〟〝甲高くなる〟〝変な間が空く〟これら全てを繰り出しながらメールアドレスを聞いたんだ。だから向こうは何言ってるか聞き取れなかったと思う。
なんせ言ってる本人が何喋ってるか分かんない位だもん。
何喋ってるか分からないなら、そりゃ何の発展も生まれ無いよね。
とりあえず『恋愛』ってキーワードを意識したら、僕は会話が成り立たない事が全力で分かった。
だから次なる二番目の作戦に移ったんだ。
それは〝紙〟と〝ペン〟と〝勇気〟を用意すること。
そう、手紙にメアド教えて欲しい旨を文章で綴ったんだ。
だが、ただ封筒に入れても味気がない。だから僕は自分で作ったカルトナージュに入れて渡した。
えっ?!何でカルトナージュかって?
思いの強さを表すためだよ。
例えば君は箱に入ったハムと、ビニールパックに包まれたハムを見た時、どっちが高級そうに思える?
そう、箱入りだよね。
綺麗な箱に入っているというだけで、中に入っている物は神秘性を増すんだ。
箱は女性の心を
これはこの間、電子書籍で読んだ恋愛攻略本に書いて有ったから間違い無い。
もし、この恋が上手くいかなかったら、その本のレビューにボロクソ書いてやるけどね。
まぁ、そういう訳で手紙が入ったカルトナージュを渡したら、次の日そのカルトナージュを無言で返されたんだ。
……何?君、
イヤイヤイヤ。勝手に駄目だったと決め付けないでよ。
返されたカルトナージュの中には手紙が入ってたよ。
あの子のメアドが書いてある手紙が…そうだよ。ちゃんと連絡手段はゲットしたよ。
ああ、喜んでくれて有難う。
けど本当の闘いはここからだ。
流石に用事も無いのにメールは送れない。僕はそんな無神経で面の皮が厚い男では無い…
いや、そんな猛スピードで首を横に振らないでね。
いや~どう誘うか迷ったよ。最初は複数でどっかに遊びに行こうか悩んだけど、君も知っての通りあの子は殆ど喋れない子だから、場から浮いちゃう可能性が高いんだよね。
ならハードルは高いけど二人きりで遊びに行く方が良い。しからばあの子が興味を示す物の手掛かりが必要と考えた。
それが、この便せんだったんだ。
おっと!メアドは見せないよ。
ほら、この便せんの下に
緑のツインテールのキャラが…
そう、あの子はボカロ好きなんだ。
そういえばあの子のカバンにもボカロキャラのマスコットが付いてたの思い出したんだよ。
だからボカロに関する事で誘ってみる事にしたんだ。
けど正直僕はアニメや漫画はそこそこ分かるけど、ボカロは余り知らなかったんだ。
色々調べたんだけど近場でボカロに関するイベントとかが無い。
そこで思い切ってカラオケに誘ってみる事にしたんだよ。いや、いきなりハードル高すぎなのは分かっている。棒高跳び並みだよね。けど断られたら断られたで一か八かの勝負に出たんだ。
『最近ボカロにハマっちゃって、カラオケボックスで歌いたいんだ。一緒に行かない』
ってメールしてみた。
僕も流石に断られるだろうから、直ぐに『そうか…だったらボカロの事を色々知りたいから、ボカログッズ一緒に買いに行こうよ』って、返信メールを用意して待っていた。
けど意外な事にみカラオケ一緒に行くのオッケーのメールが返って来たんだよ。
いや~逆に焦った。すんなり日にちも決まっちゃたのは良いけど、メジャー所なら少し位分かる程度の知識しか無いボカロ曲を、ずっと一人でカラオケ店で歌うわけだから流石にヤバいよね。
当日まで毎日動画見たり、スマホで聞いたりして覚えたよ。ほんと曲数が半端じゃないし、あの子が誰のファンで、どんな曲調が好きかも分からないから大変だったよ。
とりあえず〝ツカミ〟は大切だから、どれを選ぶか悩んだんだ。
そして選んだ曲は『誰でもいいから付き合いたい』って曲にしたよ。
えっ?チョイス間違ってる?
分かってるよ。そのまま歌ったら初デートでは絶対歌ってはいけない曲ナンバーワンの歌だ。
だから僕は『誰でもいいから』の所を『〇〇さんと』って、その子の名前の替え歌にして歌う事にしたんだ。
ん?マジで歌ったのかって?
結論から言おう。
全く歌え無かったよ。
前日リハーサルを繰り返して、めちゃめちゃ練習したけど、当日女子の前では豆腐メンタルに成るシャイな僕が全開して、カラオケボックス内は唯々曲が流れる沈黙の惨状だったさ。
もう、その曲が流れている時空は、この世の終わりみたいな地獄の3分間だったね。
その曲は3分も無かったけど。
けどあの子は意外にも声を出しては無いけど、大笑いだったよ。教室では、あんなにはしゃぐあの子を見た事が無かったからビックリしたよ。
それから僕は真面に歌えた曲が一つも無かったけどボカロ曲を歌い続けたさ。あの子は全曲ノリノリで手拍子をくれたよ。
いや~一曲目は〝このまま死のう〟って思ったけど、残りの時間は楽しかったな~。
初デートはボロボロながらも成功…かな?
これ、後日あの子の友達に聞いた話なんだけど、あの子が音声障害で殆ど声が出なく成る前は歌が大好きで、夢は歌手に成る事だったんだって。親としょっちゅうカラオケボックスに行ってたらしいんだ。けど、声が出なくなり大好きな歌が歌え無くなって落ち込んでたらしいけど、ボカロに出会って励まされたらしいよ。自分は歌え無くなったから夢と声をボカロに託して、今はボカロソングを作っているんだって。
そんな話聞いたら僕も黙っていられないよね。普段から黙っていられないけど…
僕は曲は作れないけど、手先は器用だからあの子の曲に合わせたイラストやCGを作成する事に決めたんだ。
今、色んな曲を聴きながら毎日色々と描いてるよ。
そう、僕もすっかりボカロに目覚めちゃったんだよ。
そうだね。この春休みの僕の課題は、あの子と二人で創ったボカロ曲を動画にあげることさ。
カルトナージュに入れた恋~春のお目覚め編~ 押見五六三 @563
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