【KAC4】紙とペンと小説の女神様

牧野 麻也

何も出てこない

 私は、机の前に座っていた。

 椅子なんだけど、椅子に胡座をかいて座るのが私流。

 と、いうか、もともと畳生活が長かったので、椅子に普通に座るより、胡座をかいたり正座したりした方が楽なのだ。


 で。

 問題は、机の上だ。

 机の上には、何も書かれていないノートが広げられている。

 一応、ペンは離さずずっと右手に持っている。

 が。

 持っているからといって、文字が書けるとは限らない。


 だって、何にも思いつかないんだから。


 締め切りが近い。

 もうあと十二時間を切っている。

 焦りはある。

 なのに、全然筆が進まない。

 何故だ?

 何故だろうか?

 小説の女神様は、私には微笑んでくれないのだろうか?


『物書きには、紙とペンさえあればいい』


 誰だ、そんな妄言吐いたのは。

 紙とペンが揃ってたって、何にも思いつかないんじゃ一文字も書けねぇよコンチキショウ。

 そんなの、才能ありふれた天才だけに適応される言葉じゃコラ。

 こちとら三十六時間(※睡眠込み)で悩んでるのに、全く、何にも、全然、これっぽっちも書けやしねぇわ。


 と。

 悪態をついたところで時間は止まらない。


 取り敢えず、色々考えていたネタで、オチもボンヤリと考えつつ、全く気が進まないけれど取り敢えず書き進めてみた。


 ***


 ──三時間後──


 3500文字程書いたところで、ペンを投げた。

 文字通り投げた。

 壁にかかったコルクボードにバインと跳ね返ってデコに当たる。

 なんでこんな時だけこんな奇跡が起こるんだよ全くもう!!


 書いてはみたけど、今の精神衛生状態を反映してて、グロくて暗くて、面白くない。

 書いてても面白くない!

 ハマった時は『キタコレ!』ってなって、スルスルするする筆が進むのに!


 何故今日に限って全然書けないんだ?!

 小説の女神様は私のことが嫌いなのか?!

 そうなのか?!

 そうなのか!!

 小説の女神様は私の事が嫌いなんだ!!


 ……。

 と、やさぐれていても仕方がない。

 書けなくても書かなければ。

 さもないと、【カクヨム3周年記念選手権~Kakuyomu 3rd Anniversary Championship~】の、皆勤賞全員への500円図書カードがゲット出来ない。


 何が悪いのだろうか?

 紙か? 紙がダメなのか?

 目の前にあるのは、紙──というか、ダ◯ソーで買ってきたノートだ。

 ダイ◯ーだからダメなのか?

 ◯善で買ってくれば良かったのか?


 いや。

 紙はきっと関係ない。

 最終的に書き込む媒体はWEB上だ。

 だから、走り書きをする程度の紙に対する質は無関係である筈だ。


 では。

 ペンか? ペンが悪いのか?

 ペンもダ◯ソーで買ってきたシャーペンだ。

 やっぱりダイ◯ーだからダメなのか?

 ◯善で買ってきた高級万年筆なら、スルスル筆が進むのか?


 いや。

 ペンもきっと関係ない。

 紙と同じだ。最終的にはWEB上なんだから、ペンもきっと関係ない。


 ではなんだ?

 何が悪いのだ?



 そこで。

 私は、とても重要な事に気がついた。

 紙でもない。

 ペンでもない。

 書けない、本当の理由に。


 それは、小説の女神様のせいでも勿論ない。



 私の頭がダメなのだ。


 枯れたんだ。

 もうネタが尽きたんだ。

 社会の底辺でIT社畜の私には、こんなに連続で単発のネタを絞り出せるほどの潤いがなかったのだ……


 なんだ。

 そうか。

 紙のせいでもない。

 ペンのせいでもない。

 ましてや、小説の女神様のせいでもない。


 私のせいだったのだ。


 なんだ良かった!

 私に才能がないせいだっただけで!

 大丈夫。才能ないのは最初から分かってるから。

 それなら何の心配もいらない。


 疑ってごめんね、小説の女神様。

 私の事が、嫌いじゃないよね? たまたま少し、今は機嫌が悪いだけだよね?


 機嫌悪いところ申し訳ないんだけどさ。

 少しだけでいいからさ。

 その微笑み、私に向けてくれないかな?


 ダメ?



 ……。

 ダメみたい。


 と、いう事で私は諦めることにした。


 紙と、ペンと、小説の女神様。

 今回は仕方ないとして。


 次は、是非、私に力を貸して欲しいな!!



 ***



 と。

 紙はおろかペンも使わず、スマホで執筆する今日この頃。


 アレかな。

 次は、ちゃんと紙とペンを使えば、素敵な物語が……書けるかな……?


 了

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