紙とペンと勇者様

風見☆渚

成功確率の低い勇者召喚の儀式

突如現れた闇の住人に侵略され、世界の全てが混沌に包まれてしまった。

こんな時は、伝承にある異世界の勇者様を召喚し闇の住人を倒してもらうしかない!

こうして、国中の魔導師や魔術師、魔法使いなど高位の存在として魔力の高い者達が続々に集められた。そして新月の夜、国を超えた勇者召喚という一大プロジェクトが開始されたのだった。


勇者召喚は古代魔法を用いて魔力の全てをつぎ込んでもたった数%の確立でしか成功しない。そんな一か八かの賭けにすらすがらなくてはならなくなった人類は、無我夢中で召喚の呪文を唱え続けた。その結果、数百名編成でなる高位魔力の持ち主達の中心に描かれた魔法陣から神々しい光と共に、一人の少年が召喚され勇者召喚の儀式は見事に成功したのだった。


「おー!!勇者様が降臨された!!」

「これで世界の平和は守られた!!」

「王達を集めてくれ!勇者様が行くと今すぐに伝えてくれ!!」


魔法陣を囲む魔導師や魔術師、魔法使い達は口々に安堵の声を上げ、勇者召喚の成功を喜んだ。神々しい光が落ち着き、光の中から現れた勇者の姿は、頭に水玉模様の蒼いバンダナを巻き、赤と白で彩られたチェック柄のシャツをよれたジーンズの中に入れ、筋肉かどうかはわからないが頼もしいほど肩幅だけでなく全体的にふっくらとした体格をしている。さらに、背中のリュックには聖剣ではないかと思われる2本の白く丸い筒状のモノが刺さっていた。


「コレが勇者様か!なんと気高く立派なお姿だ!」

「さぁ勇者様、王達がお待ちです。急ぎ閲見の間へとお連れ致します。」


大司教の中心人物が、慌てた様子で勇者を王達の元へ連れて行こうとするが、勇者は魔法陣の中心から動かず周りを見渡していた。


「拙者、先ほどまで後の伝説となるであろうアイドルの美浦響子ちゃんのイベント会場にいたはずなのだが。ここは何処ナリか?」

「勇者様、今世界は危機を迎えております。どうか勇者様のお力で、世界をお救いください。」

「ぬぉ?・・・少々お待ちくだされ。」


大司教の言葉がしっくりこない様子の勇者は、おもむろに背中のリュックから何かを取り出した。


「ここに取り出したるは、至高の存在魔法少女ぷりてぃマヤの劇場版公開記念会場限定シャープペンと、ぷりてぃマヤの敵キャラでありながら最終話直前に見方の存在となった魔法少女ぷりてぃミヤの非売品超絶レアな限定ノート。こんなコトもあろうかと、特別な瞬間と感じた時のために持ち歩いていた紙とペンでござる。まずは、世界の状況から説明するでござる。」


そう言って召喚された勇者は、紙とペンを両手に持ち大司教の説明を事細かくノートに記した。さらに、王達が待つ閲見の間に通された後も、ひたすらノートに書き込んでいた。

しかし、大司教や王達の話を一通り聞き終えた勇者は自分が書いたノートを見ているだけだった。そんな姿に不安の色を隠しきれない大司教が勇者に近づいていった。


「勇者様、これから闇の住人と戦って頂くのですが、今の装備では心許ないかと思いますので、一先ず装備を調えに参りましょう。」

「いや~拙者のノート記入術は見後でござる。しかし拙者中二病属性は持ち合わせておらぬ故、この後の展開が上手く書けるかわからんでござる。友人のラノベ作家を目指している神谷どのなら、もう少し上手いエンディングに繋げられるのであるが、どうやらここは圏外のようでござるなぁ。」

「いや、勇者様?何をおっしゃっているのかわかりませんが、これから闇の住人と戦ってもらわなくては・・・」

「拙者ヲタ芸なら少しは打てるが、戦いとなると無理でござる。」


自分の発言に凜々しく自身に満ちあふれた表情を見せている勇者の姿に、その場にいる全員が同じ事を思っていた。


『これ、絶対失敗だよ・・・』


「拙者の持つ数少ない得意技は、紙とペンを用いて美しくノートをまとめるコトと、麗しのアイドルを追い求めるコト!それこそがアキバクオリティ!!」

「もう、帰れーー!!!」

「あ、もしこの国に限定レアな紙とペンがあったら欲しいでござる。拙者、限定の紙とペンの収集には他に負けない自信がアルでござる!」


こうして国中の魔導師や魔術師、魔法使いなど高位の存在として魔力の高い者達が再度集められ、苦労に苦労を重ね召喚した勇者をやっとのことで元の異世界になんとか帰還させるコトに成功した。そして次の新月の夜、国を超えた勇者召喚という一大プロジェクトはもう一度開始されたのだった。


勇者召喚の儀式は2度の失敗を経てようやく3度目の正直としてなんとか成功し、神々しい光の中から新たな異世界の勇者が召喚され、その姿を現した。


「また拙者を呼んだ出ござるか?いま大事なイベントの先行抽選の列に並んでいて、あと5人という所でこんなところへ召喚するとは・・・酷い人たちでござる。」

「またおまえか!!」

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紙とペンと勇者様 風見☆渚 @kazami_nagisa

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