16話 全力で戦え!

1対5、その戦力差は変わることは無かった

レイは倒れ、使い魔のバンパイアは召喚出来ない。左手は杖に塞がれ右手の剣で大男の攻撃を受けるも押されている…!


俺は[死にたくない]よりも[殺す]という気持ちの方が強くなっていた


「さっきの男の方がまだマシだったぞ小僧」


大男は余裕そうにそう笑った


だがそんな挑発に乗ってはいけない、前から敵の攻撃魔法が止まることなく襲ってくる


先に魔法男どもを何とかしなくては…!


剣を交えながら魔法を使ったことはないがやってみるしかない!


俺は左手の杖を高く上げ、後衛の奴らの頭上に水の玉を沢山出現させた。コイツらが現れる前にレイに教えてもらった魔法だ!


俺が杖を地面に振り下ろすと水の玉は勢いよく男達の頭上へ落ちる


大きな威力は無いが少しだけ時間は稼げるはずだ


俺は大男の剣を避け、攻撃魔法男達の元へと走った


男達は未だ怯んでいたので


「死ね」


俺はそう呟き、奴らが背後から大きな剣で突き刺される想像をした


すると奴らの叫び声が大量の血と共に洞窟内に響いた。とても…心地いい!

ここまで魔法を使って快感を得たのは初めてだ、こんなに楽しいものだったのか!


俺は大男を思い出し、そいつの方を向いた。奴はこの世のものではない何かを見たような顔をして青ざめていた


「悪魔…いや、それ以上の化け物だ…!」


男の怯えきった声に俺は声を出して笑った。何を言ってるんだこいつは


俺はゆっくりと、盗賊の残りの[1匹]に近づいた


先程まで俺に剣を振り大口を叩いていた男と同一人物だとは思えなかった


こんな奴に俺は負けそうになっていたのかと、恥ずかしく思えてきた


「俺の事、悪魔って言ったなぁ…?」


腰が抜け、座りこんでいる大男の前に立ち


「残念でしたぁ、悪魔と…天使のハーフだ!」


俺は大声で笑い、大男に剣を振り降ろそうとした。すると


「やめろ、クロウ」


レイに後ろから右腕を掴まれた。いつの間に起き上がっていたんだ…?いや、それ以前に



俺は一体何を…?



俺は剣を落とした。自分は何故こんなに血まみれなんだろう…誰の血なんだろう…


「帰るぞ」


レイは再びフードを被っていた


傷だらけで、所々血が出ている彼の手の中には結晶が握られていた。ドリルが削り終えていたのだろう


「はい…」


俺達は盗賊達を残し、帰りの一本道へと足を進め始めた


「待ってくれ!」


と大男に声をかけられた気がしたが俺達は振り返らなかった



ある程度歩いたところでレイは


「どこまで覚えている?」


と聞いてきた


どこまで…?確か水の玉を落として、魔法を使ってきた男達の所へ走って…


「まあいい、お父様になにか聞かれても何も答えなくていいからな?」


はいと小さく返事をした。レイは俺の記憶が無くなっていた時のことを知っているんだろうか…


「レイさん…」


俺の声は震えていた


「僕は…悪魔なんでしょうか?それとも、天使なんでしょうか?」


俺は今にも泣きだしそうだった


「私には分からないし、決めることは出来ない。どちらで生きるのかはクロウ、君の選択だ。君の決定に、君のご両親は何も反論したりはしないよ」


「そうだといいんですけどね…」


悪魔か天使か、どちらを選んでも俺には強制ルートが待っている。卵か礎か、そんなのどっちも嫌だ


「生憎、君はとんでもないご両親の元に生まれてしまった。だがその結果、君は素晴らしい才能を得た」


才能…この人だけにはそんな事を言われたくなかった


レイなら俺の事を天才だの才能だの関係なく、ただのクロウとして見てもらえると思ったのに…


「だからこそ君はその才能を生かし、好きなように生きるんだ。君になら他人には出来ないようなことを何でも、いとも簡単にやってのける事が出来るほどの力がある」


俺は泣いた。1ヶ月、下手したら数十年分の涙を流した


「泣くな、男だろ?」

はいと答えるも、涙を止めることが出来ない


「自身の両親というのは、自身にとってのラスボスだ。だが、どんなゲームでも勇者という者はラスボスに闘いを挑む」


「ラスボスと闘わない勇者を、君は見たことがあるかい?私は無いね」


「私達は全員、物語(ストーリー)の勇者、主人公だ。闘いを挑もうともせずに勝てる敵なんていない」


「だからクロウ、全力でご両親と闘え。もし本気で闘って勝てなかったら、私やエヴァンスさんを呼べ。すぐに君のご両親を殴りに行く」


そうレイが言うと光が見えた、出口に着いたのだろう


「さぁ、ご両親のところまで送ろう」


洞窟から出ても涙が止まらなかったので俺は目をやや強く擦った


…両親に涙を見られる訳にはいかなかった

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