9話 モンスターを召喚してやる!

(クロウ生後31日目)


本をエリーへ返すまであと1週間、クロウは全くと言っていいほど開いていなかった本を開いた


返す前にひと通りは召喚出来るようにしておきたい…


本を持って庭に出たクロウは初級の召喚から行っていくことにした

スライム、ピクシー、ゴブリンとRPGゲームの序盤に出てくるモンスターばかりだった


「コンニチハ!」

「コンニチハ!」

「コンニチハ!」


どうやら初級のモンスターは挨拶やお礼などしか話せないらしい。つまらん


だが初級のモンスターにも戦力として使えそうな物もいた。インプ、ゴブリンひと通りをクロウは気に入った


コイツらを上手く使えば奇襲を仕掛けられる


…母親には効くかもしれないが、父親相手だとむしろ返り討ちにあいそうだ


「クロウ、今日は5時くらいに特訓を辞めてね」


母親の声だ。5時…?なめているのかアイツは

俺は今日、4時半を過ぎたらこっそり庭を出て姿をくらませてやろう!


「分かった!」


俺は元気な返事をした。馬鹿め


俺は中級のページを開き始めた、やはり初級と比べると魔法陣の複雑さが違う


…まあ俺は描かないんだが


中級からは想像するだけでは駄目だったので仕方なく呪文だけは唱えることにした


「汝、そなたを求めるもの。我が魔力を引き換えにその姿を表せ、いでよバンパイア!」


そう叫ぶと目の前に魔法陣が現れた

どうだ!中級モンスターを呼び出したが…


「お初にお目にかかります、我が主よ」


ちっさ! ハーピーくらいの大きさしかないじゃないか!


「申し上げにくいのですが、この身体の大きさは主の魔力に応じての結果なので…」


自分で召喚したバンパイアにさえ馬鹿にされた!


「うるさい!帰れ!」


「しょ、正気でございますか!?今召喚されたばかりですが…」


「ああ正気だ、だから帰れ!」


「分かりました…ですがこれだけは覚えておいて下さい」


バンパイアは俺に近寄った


「主様、魔力は時とともに強くなってゆくもの。いきなり強くなりはしないのです」


バンパイアの話は謎の信憑性があったので俺は聞き入っていた


「なので弱いからと焦る必要はございません。また再び私をお呼びになる際には呪文は必要ございませんので、気楽にお呼び下さい。では」


そうバンパイアは言い残して消えた


焦る必要はない…そう言われても[両親を殺す]という野心のみで魔法の特訓を続けてきた俺には慰めにしか聞こえなかった


俺はそのまま中級のモンスターを召喚し続け

た、しかしどれもサイズは小さかった


それに


「焦る必要はない」、「召喚出来ただけでも素晴らしい」


と召喚したモンスターの殆どからそんな事を言われてしまったので、俺は気が滅入ってしまった


皆して…俺の使い魔のくせに…!


召喚したモンスターは自身の使い魔としていつでも召喚出来るようになる。でも俺はもう2度と、誰も召喚したくなかった


もういいや、きっと俺の将来を予言した誰かはパチモンだったんだろう


俺は庭を出てフラフラと辺りを歩き回ることにした


この行動は両親を困らせるためだったのか、それとも自身への失望からの無意味な行動だったのかは分からなかった


両親から馬鹿にされ、使い魔からは慰められ、俺は本当に上級悪魔と上級天使の息子なのだろうかと疑った。もしかしたら取り違えられた子なのかもしれないとも思った


とうに5時は超えていたが俺は帰ろうとしなかった。いや、帰れなかった

フラフラと歩き回り過ぎて迷子になっていたのだ


俺の見た目は高校生くらいにまで成長したのに魔法や精神は何ひとつ成長していない。それに加え迷子だなんて、誰もが鼻で笑うだろう


…雨が降ってきた


一刻も早く家に帰りたくなった。初めての感情だ


今まで家にいることが苦痛で、両親が大嫌いだったのに…今すぐ会いたい…


「何をしているんだ?」


後ろから聞き覚えのある、父親の声が聞こえた


振り返れなかった。振り返ったら転生する前の父親の様に殴られる気がしたから


しかし父親は


「帰るぞ、お母さんが心配してる」


と俺の手を握り、家の方向へと歩みを進めたので俺はそれに強制的に着いて行かされた


父親の後ろ姿を見ると黒いローブを着ていて、どんな顔をしているのか見えなかった


2人の間に会話は無かった

父親は何を話していいのか分からなかった

その息子も何と謝ればいいか分からなかった


ただ雨の音がひたすらに息子の泣き声を消していた

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