けものフレンズ2アナザー10話「すけっちぶっく」
@lemon-nomel
アバンタイトル
「まったく……」
夕暮れの暗い森の中、キュルルは不機嫌だった。
彼女が大事にしていたスケッチブックを、カラカルが失くしてしまったからである。
暗くてよく見えない中、木立の向こうをのぞき込んだり、地面を注意深く見ながら歩いたりして探す。
「どうして失くしちゃったのかなあ…… 結構大きなものなのに……」
思わず、カラカルに対する文句が出てしまう。本日二度目の喧嘩だ。
スケッチブックが大事なものであることは知っていたカラカルは、それを届けようとした途中キュルルたちを襲っていたビーストとの戦闘になり、その中で失くしてしまったらしい。
もちろんカラカルに悪気はない。
そしてキュルルもカラカルが善意でスケッチブックを届けようとしてくれたことも、ビーストに襲われた自分たちを助けるために全力でここまで来てくれたということも分かっていた。それでも、不機嫌は治らないのである。
(せっかく仲直りできたと思ったのになあ…… これじゃあ……)
キュルルがまだ不機嫌なのは、今のスケッチブックには「おうちの手がかり」のほかに、大事な意味が二つあったからである。
(もし、ぼくがおうちに帰れたら…… その時はサーバルやカラカルも自分のなわばりに帰るから、お別れなんだ)
(だから、あのスケッチブックに――――)
スケッチブックの最後の方、旅立ったときにはまだ真っ白だったページたち。
そこに今描かれているのは、おぼろげな記憶をもとに描かれたたくさんの「おうち」と、何度も何度も描き直した二種のネコ科のフレンズ、そしてヒトだった。
「おうち」にたどり着くまでに、もっともっと絵を上手になる。
別れるときは本物の「おうち」と、一緒に旅した三人組を上手に上手に描いて、それを二人に渡す――――それが今のキュルルの大事な夢のひとつだった。
その絵を描くためのページは今も手を付けていない。
(それとあと、もう一枚描かなきゃいけない絵があるんだ。絶対に見つけなきゃ)
もう一ページ、手を付けていないところがあった。
ここにはおうちに帰った後に、絵を描くつもりなのだ。
今日の昼に出会ったフレンズ「イエイヌ」。
イエイヌはもぬけの殻となったたくさんのおうちの中で、かつてそこにいたという何人ものヒトが戻ってくるのを待ち続けている、ヒトが大好きなフレンズだった。
『ここはずっと昔、何人ものヒトがいたんです! わたしも一緒によく遊んでいました!』
キュルルに出会った時も「ヒトが戻ってきた」と喜んだのだが、キュルルはイエイヌが待っていたヒトとは違った。
つまり、そのおうちたちはどれも、キュルルの「おうち」ではなかったのだが……
その日、カラカルと一度目の喧嘩をし、一緒にいたくないとさえ思ってしまったキュルル。
ずっとヒトを待ち望んでいたイエイヌ。
二人は一度は一緒に暮らすことを考えた。お互いが本当に求めていたものではないのにもかかわらず……
しかし、サーバルの活躍により、カラカルとキュルルの一度目の喧嘩は終わった。
そして、イエイヌは――――
『キュルルさんは、旅を続けて、やはりご自分のおうちを見つけるべきです』
『わたしも、あのうちにいた人たちが戻ってくるまで、お留守番を続けます。それがわたしに課せられた、使命ですから』
『最後に、言ってもらえませんか? おうちにおかえり……って』
それがイエイヌが出した答え。キュルルもそれに応じ、二人は別れることになった。
(あの時は、『おうちにおかえり』って言ったけど…… ずっと一人ぼっちは嫌だよね)
イエイヌは、あのまま待ち続けるのだろう。ずっと。元いたヒトが帰ってくるまで……
(そんなおうちは、明るくも、優しくも、あったかくもない。一人ぼっちなんだもん……)
(記憶をなくす前のぼくはきっと、出掛けた場所を絵に描いていたんだ)
(もしおうちに帰ったら、まだ描いたことのない絵を描きたいな)
(明るくて優しくてあったかい、ぼくを待ってるはずの誰か。そのヒトたちと一緒に、まだ描いたことのない場所に出掛けて…… そこの景色と大切な思い出を描きたい)
(『何人ものヒト』には少し足りないかもしれないけど、また大切な思い出を作りに行くから…… 待っててね)
イエイヌがいた場所は、スケッチブックにはまだ描かれていなかった。
(サーバルとカラカルにも、イエイヌさんにも、絶対に絵を渡したい)
(だから……)
「だから絶対見つけないといけないのに~! どこにやったんだよカラカル~! もう描いてあげないよ!」
「描いてあげないって何をよ!」
「な、何でもないよ!」
「ふたりとも、そっちのほうはもう探しちゃったよ! こっちこっち!」
けものフレンズ2
うー がおー!
出発進行ジャパリパーク!
けものフレンズ2アナザー10話「すけっちぶっく」 @lemon-nomel
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