紙とペンと足跡
東苑
結論:部屋の掃除はこまめにしましょう!
大学進学を控えた三月、春休み。
四月から一人暮らしを始める僕は、実家で部屋の掃除をしていた。
やらないとお母さんうるさいから。
「うわぁ、懐かしい……」
僕は引き出しから出てきた代物に手を止めた。
筆記用具や学校のプリント……かなり日付が古い。
部屋の掃除をしているけど、思わず見入って、耽ってしまう。
この自分の部屋掃除してると、なんて言うか……。
ほんと自分の性格出る!
だらしないし、情けなくなるよ。
なんだ、このプリント。中学生……いや小学生のときのもあるぞ!
字も下手っぴだなぁ。美意識の欠片もない。文字でかすぎ!
あとこれは今も抜けない癖だけど、力入れ過ぎ!
文字が濃いよ、エブリデイ硬筆の時間!?
今度は壊れたシャーペン!? 捨てろよ……。
あ、でも、この指が当たるところのクッションが千切れたシャーペン、覚えてる。このクッション、今触ってもぷにぷにして癖になる柔らかさ。
だからなのか。
授業が暇過ぎてクッションを上下に扱いてたらなんか楽しくなってきて、そしたらふとした拍子に少し穴ができて、その穴があっという間に大きくなっちゃったんだよなー。なにしてるんだろうなー、我ながら。
自分の暗黒時代を振り返るみたいで恥ずかしい行為なのかもしれない……けど! なんか楽しくなってきた!
昔の自分だけど自分じゃない他の誰か、みたいな!
……なわけないな、これも一種の現実逃避?
そんな感じで、僕は次から次へとゴミのように湧いて出てくるプリントやノートで昔のことを思い出していた。
紙とペンって言うと、学生時代誰もが持ち歩くモノだと思う。
そして忘れたりすると困るモノだ。
毎日のように酷使するけど、どれも長持ちするし。
苦楽を共にする学生時代のパートナーのような存在だよなぁ。
だから、中学・高校生くらいになると、どんなシャーペンやノート買おうか拘り出したり。
使いやすいやつ、気に入ってるやつ、そういう思考を始めた自分……。
こういうモノを見てると、自分の成長というか足跡を感じられる。
小さい頃の写真が収められたアルバムと同じだ。
まあ、このペンやプリントは捨て損ねたゴミなんだけど。
そして掃除を進めていくと。
机の上や床に散らばっている比較的新しいプリントやノートの番が回ってきた。これらは最近卒業したばかりの高校で使っていたものがほとんどだ。
そして大量に出てきたのは、プリントを掌サイズに折りたたんだやつ。
その白い用紙が真っ黒になるくらい文字で埋め尽くされていた。
英単語や二字熟語、歴史の用語……etc。
とにかく書きまくって覚える僕らしい代物だ。
これを見た僕の姉ちゃんには「キモ!」と言われたし、クラスメイトからも「おぉ……」って引かれてたけど。
このやり方気に入ってたんだよなぁ。
暗記するのにノート使うのは勿体ないなぁって思って、要らない紙使ってさ。
センター試験を受けに行ったときも、この文字がびっしり書き込まれた暗記用プリントを持っていったっけ。
今やれって言われたらできるかなぁ。
ちょっと自分でも気持ち悪いくらい徹底して書き込んでたから。
まあ今となっては笑える思い出だ。
そしてこの真っ黒なプリントを見てると、なんだか勇気が湧いてくる。
四月からは環境が変わるけど、これだけやれた自分なら大丈夫って。
心配なことは勿論あるけど、なんとかなるって。よし!
さ、掃除に戻ろう。
まずはこの部屋片付けないと。
それにしてもまだ結構残ってるなー。高校教科書どうしよう……。
あ、さっき小・中学校のゴミ捨てたし、そのスペースに押し込めばいっか!
と、魔が差したのが運の尽きだった。
いつ使うかも分からない、高校の教科書を押し入れに捻じ込み。
それでも残ったものをとりあえず机の引き出しに入れようとしたそのとき、僕は気付いた。
この、机と合体してる三段ある引き出し。
その一番下の段。
引っこ抜くくらい引いてみると奥に空間があることに気付く……え?
エロ本が出てきた。
冗談です。
エロ本じゃなくて、アニメ系の雑誌に付いてきた美少女キャラの等身大抱き枕カバー。
下着姿の美少女が恥じらうように頬を染めて……ってやめやめ!
アニメは好きだけどこういうのには興味ない僕は、処理に困ってこの秘密の空間に隠したんだ。家族の目を気にして。
でも、まあこれはまだ可愛いもんだ……と思う。
世界は広い。色んな男性がいる。中にはきっともっとすごいものを隠してる男の人も……!
そして。
僕は気付いてしまった。この秘密の空間にもう一つ、隠されいるモノがあることに。この等身大抱き枕カバーなんて可愛くなるような、そのノートに。
なになに……。
「リーフと秘密の部屋……」
だと!?
ノートの表紙に書かれているのは見覚えのないタイトル。
……ん?
気になって、ふと開いてしまった。
それはパンドラの箱。
好奇心程度で足を踏み入れてはいけなかった。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
こ、これ、中学生の頃に書いてた小説もどき!
これアレか! 黒歴史! うわ、都市伝説じゃなかったのか、黒歴史! 例えあるとしても自分とは関係ない、他人事だと思ってたよ! 人生に汚点なんかないと思ってたようわぁあああああ!
……ふぅ。落ち着こう。そして受け入れよう、現実を。
秘密の部屋はアレだよな、元ネタ。
まんま過ぎるわ! 少しは捻れよ、僕!
じゃあリーフってなんだ……ググるか。
あ~、デルト○クエストの主人公! なつかしい、デルト○!
まんま過ぎるわ! 主人公の名前までパクリってどうなの!?
台詞も固い感じがするなぁ。
……と思うのは、高校生になってラノベをたくさん読むようになったからか。
でも、なんか楽しそうに書いてるな。
ちょっとやってみたい。
大学生になったら何をしようか、特に考えてなかったけど。
小説、書いてみようかな。
そしてまた紙とペンで足跡を残すために――
紙とペンと足跡 東苑 @KAWAGOEYOKOCHOU
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます