第2話・従う準備も出来ている
二人はエレベーターで地下へ向かった。
「ここは、他の捜査機関より変わったところも多いから戸惑うこともあるかもしれないけれど、がんばってくださいね」
そう言ってヘルミナ・パーカーはニコリと笑いかけた。
「ありがとうござます! がんばります!」
神成は、またもや敬礼してしまう。ここまでくると条件反射だ。しかし、何故ヘルミナさんにはこれがしっくりくると感じるのだろうか?
地下四階でエレベーターは止まった。
「では、行きましょうか」
ヘルミナの後ろ姿を追う神成は、彼女のうなじに目をやった。
アップさせた髪もいいよなぁ
見惚れる神成の耳元近くに何かの気配を感じた。
「何、見てんだよ。バカ」
またも聞こえてくる声。
「えっ?」
さっきの小人がどこかで見ているのか? 焦った神成は周囲を慌てて見渡した。
「どうかしました?」
ヘルミナが神成の様子に気がついて振り向いた。
「いや、ちょっと変な声聞こえて……いやテレビの音かな?」
テレビなどありそうもない場所だったが、そう言って神成は誤魔化そうとする。
一体、俺の耳はどうなったのだろう? これがエコノミー症候群と言うやつなのか?
「あの神成さん……」
そうヘルミナが神成に何かを言いかけた時、携帯電話の着信音が鳴った。
「はい……はい、わかりました」
ヘルミナは、電話を切ると申し訳そうな顔を神成に向けた。
「ごめんなさい。ちょっと緊急の用事ができたので少し離れます。そこを右に曲がったところに部屋があります。そこで支給品を渡してもらえます。この書類を渡せば貰えるようになっていますから」
そう言ってヘルミナは書類を一枚、神成に渡した。
「渡されるのは捜査官の標準的な装備品です。受け取ったら、とりあえずエレベーターの前で待っていてください。すぐ戻りますから」
そう言うとヘルミナは急ぎその場を離れた。その後ろ姿を見送ると神成は、指示された部屋へ向かう。
書類の内容に目を通そうと視線を落とした時だった。ちょうど通路の角を曲がろうとしたところで突然、誰かが現れた。
「おっ!」
反射的に身体を庇おうと手の平を前に出したが相手とぶつかってしまう。
ぶつかった相手は神成を睨みつけてきた。いや、そう見えただけなのかもしれない。
見ると凛とした表情ながら誰も他人を寄せ付けない雰囲気があった。見た目の良いショートヘアは黒髪で、それでいながら瞳の色は深いブルーが際立っていた。服装は黒いスーツに黒いネクタイを締めていたが何かの違和感を感じさせた。それは相手の胸に触れていた手の感触だった。
男にしては……なんだか柔らかい……ん? 柔らかい?
相手は頬を少し赤らめながらコホンと咳払いをした。
「え……?」
この人、女なのか!
次の瞬間、強烈な右ストレートが神成の顎にヒットする。
最後に記憶していたのは天上の蛍光灯だった。
意識が戻った時には相手は、すでにその場を去っていた。
「なんだよ! くそっ!」
神成は、いない相手に不毛な悪態をついた。
あごがズキズキと痛む。
気を取り直しながら神成は支給品管理室に入った。
愛想の良さそうな男が強化ガラス越しに神成を見た。
「あの……ここで装備品を支給してくれると聞いんですが」
「あんたが噂の新人さんかい?」
「はい。今日、来たばかりです。神成と言います」
「俺はガニーだ。よろしくな」
「よろしく、ガニーさん。ところで噂って?」
「あの捜査官の新しい相棒になるって話さ。賭けも始まってる」
「俺のパートナーになる人のことですか? それに賭けってなんです?」
「あの"黒髪の魔女"と組んで、どのくらい保つかを賭けているんだよ。前回のは一週間だった」
「黒髪の魔女?」
「ああ、何にも聞いていないんだな。あんたはの相棒、優秀な捜査官なんだがちょっとな……、まあ、気にしないでくれ。で、装備品の支給品だったな。書類持ってる?」
ガニーは話を打ち切った。
「おい、早く書類」
「あ、はい……」
急かす男に強化ガラスの小窓から書類を渡した。
簡単に目を通すと再び神成を見る。
「銃は選べるが何にする? 俺はグロッグ19をお勧めするが。軽いし精度もある」
「
SIGは即席のSATでの訓練で使用したことのあるハンドガンだった。ニューナンブしか使ったことのなかった神成がそれ以外に唯一使ったことのある拳銃だ。
「だったらP226がいいかな。
「じゃあ、それにしますよ。どうせ他は使ったことないし」
「OK、待ってろ」
神成は待つ間、他の装備品を眺めた。並んでいるあらゆる武器や電子機器。中でも一際、目を引いたのはガトリングガンだった。
「それも装備品ですか?」
「あ? ミニガンか? そうだよ。携帯用に改造した。トリガーはヘリのを流用した。一部の素材を変えて軽量化もさせているが、それでも重量はある。だから使うんならそこにあるのと組み合わせがお勧めだ」
男が指差す方にはロボットの様なものが置かれていた。
「ロボットですか?」
「いやいや、そいつは装着型のパワーアシストスーツだ。米軍のHARCを参考にして造った」
そう言ってガニーは自慢げにパワーアシストの外装を叩く。
「短時間だが百kgの物は持ち上げられるぞ。その気になれば3トンまで持ち上げられる性能はあるんだが、装着者の体重を合わせても120kg。逆に装着している方が持ち上がっちまう。ただし3トン位の自重さえ確保できれば車一台くらい簡単に持ち上げられるんだがな」
「まるでガンダムだ」
「そいつは知ってる。日本のロボットだろ?」
「でも、こんなもの誰が使うんです?」
「ここは変わったリクエストをする連中が多いのさ」
そう言ってガニーは肩をすくめた。
「仕事が仕事なんでね」
変わったリクエストって……
そう思いながら他を見渡すと、最初は気が付かなかったが他にも随分と風変わりな物が置かれている。中世の剣や鎧。それに日本刀や手裏剣まで置いてあった。確かに海外の人はニンジャ大好きだが近代兵器と一緒に置かれているのは違和感があり過ぎだ。
さらにその横の壁には、十字架や気味の悪い仮面。変わった形の短剣が飾られていた。
「まさか、そっちも装備品?」
「ああ、あれな。そうだよ。立派な装備品だ」
「潜入捜査の変装用とか?」
「おいおい、新人さん。なんにも知らないんだなぁ。あれは特別任務専用装備だ」
「俺にも使える?」
「あんた、魔術を使えるなら、
「魔術ですか? 魔術はちょっと……トランプの数字当てならできますよ」
神成はガニーが冗談を言ってるものだと思ってそう言い返した。
「面白いやつだな。まあ、あんたの組む相手が相手だ。何かそっち系のものを持ってた方がいいかもしれないな」
男は、SIGとホルスター、それと予備の弾倉を3本取り出した。
「ほら、これも持っていけ」
いびつなコインが一枚が神成に放り投げられた。コインは顔を象った奇妙なものだったが、それが人なのか獣なのかよくわからない。
「そいつは貴重なドルイドの御守だ。それさえあればお前を災難から守ってくれるぞ」
神成は半信半疑でその奇妙なコインを見た。
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