第11話 停滞
「…もう、諦めようかな」彼女がぽつりと呟いた。
「どうしたんだよ、急に」僕は俯く彼女を見つめた。
「うん、なんか…私には無理な気がして」
彼女は弱気になっている。
「気を強く持たなきゃ、だめだよ」
「私に、叶えられるのかな…」
彼女は、深く溜息をついた。
―どうしたんだ。あんなに楽しそうに夢を語っていたのに。
どうしても叶えたい夢がある、って目を輝かせながら話していたのに。
あの輝きは、既に消え失せていた。彼女の目は、輝きを失いつつある。
「心愛ちゃん、だめだよ。そんな簡単に諦めちゃ」
「うん…」彼女は力なく頷いた。
「どうしても叶えたいって、諦めきれない夢だって言ってたじゃないか」
「それはそうなんだけど…」
「諦める必要はない。叶えたいんだろ?」
「うん、そうだけど…」
「けど、はなし。自分と自分の夢を信じて、前進あるのみ!」
「うん…」彼女は最近、元気がない。
どうしたのだろう。一体、何があったんだ。
ノロッコ号が急停止した。それも、不具合ではなく謎の、急停止。
突然、一歩も動かなくなったノロッコ号。
―停滞。
「どうしたの?何かあった?」彼女は首を横に振った。
「そう…?どんな小さいことでもいいから、何かあったらすぐ言うんだよ?」
「うん…ありがとう」彼女の声に、元気がない。心配だ。
最近彼女とデートしても、なかなか彼女は笑顔を見せてくれず、僕は悶々としている。
どうしたら彼女は笑ってくれるのだろう。
どうしたら、彼女の心にかかる霧を、晴らすことができるだろう。
どうしたらー。
僕の頭の中に、一つの考えが浮かんだ。
よし、これだ!これならきっとー
「よし!」
いきなり僕がそう言うので、彼女は驚いた。
「どうしたの、ひろくん」
「行こう」
「行く?行くってどこに?」
「着いてからのお楽しみ」
「えっ…?そんな…教えてよ」
「だーめ。その方が、わくわくするだろ?道中」
「それはそうだけど…ヒントちょうだい」
「…仕方ないなあ。美術館」
「美術館に行けるの…?わあ、嬉しい!どこの美術館?」
「秘密」
「え~、教えてよ」
「だーめ。はいはい、行くよ」僕は彼女の手を握り、彼女の家をあとにした。
心愛は博人と一緒に並んで、ホームで地下鉄を待っていた。
心愛はちらりと博人を見た。
博人の美しい横顔に、心愛は見惚れていた。
何と美しい横顔なのだろう、と心愛は思った。
「ん?どうしたの?」博人が前を見て言った。
「えっ?」
「そんなにじーっと、僕を見て」博人は心愛を見た。
「い、いえ、何も…」心愛は目を泳がせた。
「そんなに見つめられちゃ、照れちゃうな」博人はすぐに前を向いた。
心愛は床をじっと見た。博人は前を向いたまま、心愛の手を握る力を強めた。
心愛は自分の手を握る博人の手を見た。
とても大きく、温かい手だった。心愛は博人を見つめていた。
ビューンという音がして、地下鉄が目の前を通る。
到着した地下鉄のドアが、落下防止扉に送れてゆっくりと開く。
二人は地下鉄の中へと乗り込んだ。
「どうする?こっち座る?」博人が左側の緑色の席を指差した。
「ううん、こっちで大丈夫」心愛は、右側のオレンジ色の席を指差した。
「いいの?優先席座らなくても」
「うん。ひろくんがいるから…こっちでいいの」心愛は微笑んだ。
「そっか…それならいいんだ」
博人は、心愛とゆっくり腰を下ろしてオレンジ色の席に座った。
二人が座った向かい側のガラスには、行儀よくちょこんと座る心愛と、
背筋をぴんと伸ばして姿勢よく座っている博人が映っていた。
心愛の手を博人が強く握ると、それに応えるように心愛も手を握り返す。
二人はほぼ同時に顔を上げ、互いに見つめ合い、照れくさそうに微笑み合った。
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