第2話 黄色のカーペットと輝く紅葉



 目の前に広がる素晴らしい景色。そんな景色を前に、彼女はその場に立ち尽くした。

「わあー、すごい!」

 彼女は辺りを見渡したまま、その場から動かない。

 これじゃあ、先に進めない。

「心愛ちゃん、心愛ちゃん」

「ん…?はい。どうしたんですか、博人さん」

 首を傾げて僕を見る彼女が、堪らなく愛しい。

「ほら、行くよ」

「あっ、はい…!」

 太陽の笑顔を僕に向ける彼女。眩しい。

 そんな彼女の、細く柔らかな手をそっと握る。彼女は目をぱちぱちさせながら僕を見た。

 しかし、すぐに下を向いた。顔が赤く、照れ笑いを隠そうとしているが隠しきれてはいない。

 そんな照れ屋な彼女の手を引き、僕は歩き出した。


 正門を通り、真っ直ぐ続く道を歩いていく。道は、遥か彼方まで続いていた。

 道の両脇に数メートルごとに並ぶ銀杏の木々が、眩しかった。

 鮮やかな黄色に色づいているその銀杏並木は、とても綺麗だった。

 黄色の中に時折混じる、赤く色づく銀杏も見事なものだった。

 言葉では言い表せない程の美しい光景が、そこにはあった。


「わあー、すごく綺麗…!」


 彼女はきらきらと目を輝かせながら、輝く銀杏並木を眺めていた。

 さっきから同じことばかり彼女は言っている。

 そんな、同じ言葉を繰り返す彼女でさえも愛しいと思える。


 僕は、重傷だ。


 足元には、前日に降った雨で落ちたであろう木の葉が、

 小さな水たまりにぎっしりと詰め込まれていた。

 前日の雨はそこまでひどくはなかったようで、それほど道はぬかるんでいなかった。

「昨日、雨が降ったみたいですね。でも、晴れてよかった。こんなに綺麗な、青空…」

 彼女は、雲一つないからっとした青空を見て言った。

「言っただろ?晴れるって」

「ふふ、本当ですね。博人さんの仰ったとおりでした」

 彼女はふふふ、と笑った。

「心愛ちゃんとのデートの日は、決まって必ず晴れるんだ」

 僕は自信満々に言った。

「ふふふ」

 彼女は、にこにこしていた。

 どこまでも続いているかのように思えるこの道は、銀杏の黄色い絨毯で埋め尽くされていた。

 黄色い絨毯の上を、一歩一歩、ゆっくりと歩いていく。

 歩くたび、かさかさと木の葉の心地良い音がする。

「こんなに散ってしまったんですね。落ち葉がいっぱい…!」

「本当だね。でも、紅葉している木はたくさんあるよ。」

「そうですね…」

 彼女は目を細め、銀杏の木を見上げた。

 黄色に染まった銀杏の木の枝から差し込む太陽と、そこに散らばる澄み切った青空。

 とても綺麗だ。僕は彼女と、銀杏の木の前で立ち止まり、時間(とき)が経つのも忘れ、

 しばらくの間立ち尽くしていた。


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