希望の夢路

愛原 夢音

第1章 繋がれた糸

第1話 太陽と僕

 こんなに世界が眩しいのは、最愛の彼女が隣にいるからだ。

 僕の、僕だけの太陽―。


 見上げた空は、青く澄んでいる。

 前日に雨が降ったとは思えないほどの、見事な快晴だ。

「なんて良い天気なんだ」

 ―雲一つない青く澄んだ空を見上げながら、僕は目を細めた。

 隣にいる彼女も眩しそうに目を細め、空を見上げている。

 目の前には北海道大学と書かれた正門。

 北大の敷地に入るのも歩くのも今回が初めてだ。

 僕も、彼女もー。

「私、北大の中に入るの、初めてなんです…!楽しみだなあ~!」

 彼女がそう呟く。

 まさか北大の中を歩けるとはー予想外の展開に心は躍る。


「ねえ、博人さん。私ね、北大に行きたいの」

 今から一か月前、彼女が急にそう言い出した。

「えっ、どうしたんだい、急に」

 僕は驚いた。彼女はとても大人しく、あまり自分の考えや想いを強く発することはない。

 しかし、この時は違った。

 僕の目をじっと見て、強く訴えかけてくる。

「私、北大に行きたいの」

「えっ、いや、ちょっと待ってよ。北大に行きたいってどういうこと?

 北大で勉強したいから受験するってこと?」

 僕は彼女を見た。

「あっ、違うんです。そうじゃなくて…。北大の敷地内を歩いてみたいなって。

 今の時期だと銀杏並木がすごく綺麗だって、友達が楽しそうに言うものだから

 行ってみたくなって…」

 ―なんだ、そういうことか。

「紛らわしい言い方、しないでくれよ。

 びっくりしたじゃないか」

「ごめんなさい…」彼女は消え入りそうな声で言った。

「いいんだよ。早合点した僕が悪い。」

 彼女は地面をじっと見つめた。


   *


「行こうか、来月」

「えっ、いいんですか?」

 彼女は驚いてぱっと顔を上げた。

「もちろん。いいに決まってるだろ」

「でも…博人さん、お仕事…」

「大丈夫。その心配はない。」

「本当、ですか…?」

 彼女は僕の目をじっと見つめた。

「うん、本当。」

「ドタキャン、したりしませんか…? 私、そんなことされたら…」

「しないよ、絶対に」

「でも、でも…。仕事が入ったってー」

 彼女は目を伏せた。

 彼女の言いたいことは、痛いほどよくわかった。

 だけど、僕は彼女にこんな、悲しい顔をさせたくはない。

 それに、絶対にドタキャンなんてしない。

 彼女と過ごす時間は、何にも代えがたい大切なものだから。

 だから、その先の言葉は言わせない。


 僕は、彼女を優しく抱き締めた。

「博人、さん…?」

 彼女は驚いて僕を見た。

「仕事は入れない。絶対に。」

「そんな、そんなこと…」

「入れないから。僕はね、心愛ここあちゃん。

 心愛ちゃんとの時間が、とても大切なんだ。何よりも、心愛ちゃんが大事。」

 僕は、彼女の両手に自分の両手をそっと重ね合わせた。

「博人さん…」彼女は潤んだ目で僕を見つめた。

「行くからね、来月。いいね?」

「はい!楽しみにしてます…!」彼女は笑顔になった。

 僕が一番見たかった、太陽のような笑顔がそこにはあった。

 僕はこの笑顔が、大好きだ。

「良い天気だといいんですけど…」

「良い天気になるよ、きっと」

「えっ?」彼女は首を傾げた。

「当然だろう。心愛ちゃんとのデートなんだ。晴れないわけがない」

「ふふふ、そうですね」

 僕と彼女は、顔を見合わせて笑った。

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