1-3 ~至る所で因果だらけ~

「しっかし、あんたも色々やらかしすぎ。しかもなんで退学処分にリーチかけられてるわけ?」

「自分だって杖で半殺しにしたくせに。暴力事件とかもっとアウトだろ」

「あら、あれは正当防衛だってば。それに今どきの治癒術は簡単な骨折程度なら一日で完治するし」

 場所は変わって喫茶『カルネージ』。学園前通りに面した店で、その立地条件と値段の安さで生徒達に大人気。さっきアリーシャが立ち寄ろうとしてやめたのもこの店だが、今はジャナルもいるしあのまま家に帰ってもすっきりしないということで結局立ち寄ることにした。

 ジャナルにとってもアリーシャにとっても放課後ここは暇さえあれば訪れる場所なので、店の雰囲気から裏メニューまでこの店の事は大体把握している。

そして大体座るのは店内にある大きなカウンターの角の席。というより勝手に常連用の席と決めていた。

「だいたいさっきの連中は何だったんだよ? 俺、帰る途中でお前が何かヤバそうなの召喚しそうなの見つけて焦ったぞ」

「知らないわよ。なんかいきなり絡んできて、こっちがびっくりだわ」

「そのびっくりした結果がアレだからなあ……」

 戦士科と魔術科。学科は違うもののこの二人は古くからの知り合い、つまるところ幼馴染にして腐れ縁でもあった。

 だからジャナルは、アリーシャがさっきのような身の危険を感じる状況に陥ると過剰なまでに凶暴になることも知っているし、アリーシャも、ジャナルがろくに勉強をやらなさ過ぎて周囲から問題児だと認識されていることも知っている。

 そして互いの行動パターンも大体把握しているため、たまに人から「付き合ってるの?」と言われることもあるのだが、そこに関しては二人ともきっぱり否定する。恋愛的な好み、という意味ではお互いの趣味からは外れているようだった。

「まあ、それはそれとして。冗談抜きで追試に落ちたら処分とか、俺、マジ絶望的状況ってやつ?」

「どう見ても自業自得じゃない。ま、とにかく死ぬ気でやることね。付き合いの長い友人としての忠告はそれくらいしかないから。」

「忠告でどうにかなるんだったら苦労しないっての。俺だってニー何とかって言う総会長まで敵に回したくないんだぞ」

「ニーデルディア、じゃなかったっけ?」

「そう、それ! 俺はその人に試されたんだ!」

 ジャナルの拳がカウンターを叩く。グラスが揺れるほどの震動に、周囲の客は嫌そうな顔をしたが、無視した。

「試されたって、どういうこと?」

 ジャナルは学園でニーデルディアと遭遇したときの出来事を、状況の一つ一つまで細かく話した。

「総会長は危機察知能力がどうのこうのと言ってたけど、もしあのまま俺が気づかないままだったら本当に殺されてたかもしれない。いや、マジで! しかも俺の愛剣をチキンの武器とか言っちゃうしさあ」

 今度は頭を抱えてカウンターに突っ伏す。感情の起伏が激しい奴である。

「まあ、あんたの武器の性能の話はともかく、あの人ちょっと変わってるよね。そもそも男か女かも分からないし。それにちょっと、ね。」

「ちょっとって、もしかしてお前も何かあったのか!?」

 ジャナルが頭をがばっと起こした反動でカウンターにあったグラスがひっくり返った。バイトの店員が困った顔をしながらそれを片付ける。

「あ、ごめんごめん。で、何だっけ?」

「うん。面談に呼び出されたけど雰囲気も喋ってる内容もつかみどころがないというか何考えているのかさっぱりわからない。なんかこう、まとってる空気が普通の人間じゃないような」

「普通の人間じゃないって!?」

 今度は勢いよく立ち上がった反動で座っていたイスがひっくり返った。周囲から嫌悪感のこもった視線がジャナルに集中する。「ふざけるな」と言う非難の声も上がった。

「あんた、声大きすぎ! 私はただ単にあの人は得体の知れないって言いたいだけで深い意味なんかないって。とにかくそんなことよりあさっての追試の心配をしなさい」

「はあ……追試……」

 現実に引き戻されてジャナルのテンションは急降下し始めた。

「大体さ、絶対不可能って分かってて無理難題押し付ける辺りが陰謀だよな。……いや、むしろこれは陰謀だ。俺の実力を総会が嫉妬してわざとああいう罠を仕掛けてるんだ。そうだ、きっとそうに違いない!」

 ボンッという音と共にジャナルの頭に衝撃が走った。

「いい加減にしろ」

 いつの間にかジャナルの背後には長身でがっしりした男がトレイを片手に立っていた。店名である『カルネージ』とプリントされたエプロンをしているが、筋肉質でかなり鍛えられた身体にはかなり不釣合いである。だが、そんな体型でも顔が割と美形のカテゴリに分けられるせいか、暑苦しい雰囲気は感じさせない。

「あ、フォード」

「がたがた騒ぐとつまみ出すぞ。しかも注文せずに居座ること事態が迷惑だ」

 フォードと呼ばれた男は、呆れ顔でカウンターテーブルの方に目線を送る。ジャナルとアリーシャの陣取っているカウンターには水の入ったグラスしか置いていない。そりゃあ店側にとっては迷惑極まりないだろう。

「いや、騒いだのは謝るけどさ、俺だって死活問題なわけだよ。ああ、フォードはいいよなあ。学校にいたときは成績良かったし、料理もうまいし、俺よりちょっと(あくまで「ちょっと」)顔がいいからモテるし。つーかお前みたいな完璧超人がいるから俺のような奴が苦労するんだ」

「……自分で言っててむなしくないか」

 フォードことフォード・アンセムはジャナルたちより二つ上だが、在学していたときからの付き合いだ。ジャナルの言うように優秀かつ人望のあるよくできた人間という評判で、卒業後は家業でもある喫茶店の店長代理を勤めている。今でもジャナルやアリーシャの相談を受けたり愚痴を聞いてやったりしていた。

「で、いつになったら勉強する気になるんだ?」

「なっ! なんでそんなこと知ってるんだよ!」

「あれだけ大声でしゃべっておいてなんでも何もないだろ」

 それからフォードは少し考えてから、ポケットから鍵を取り出してそれをアリーシャに渡した。

「二階の右の部屋を勉強部屋として使ってくれ。こいつは誰かが監視してないと何も行動しないような奴だからな。どうせ暇そうだし俺が休憩入るまでアリーシャ、お前が見てやってくれ」

「ま、しょうがないか。実際暇だし数学くらいなら見てあげるわ」

「ちょっと! なんで俺抜きで話進めちゃうわけ? ってアリーシャ、腕引っ張るな! 首も掴むなー! 絞まる、絞まる!」




 それから2時間。アリーシャの指導により勉強を始めるジャナルだが、はかどる気配はなかった。本人曰く「身体が勉強を拒絶する」。何せジャナルは数学年下の生徒でも分かる一般知識ですら分かっているのかどうかも怪しい。

「で、AとBの相乗効果により導き出された答えは、って、聞いてる?」

「聞いてるけどさっぱりだっつーの」

「分かろうとしなさい。さもないともっとスパルタンに」

「ナルベクソウシマス」

 既に武器を取り出そうとしているアリーシャを見て、ジャナルはすぐに大人しくなった。


 ……のも束の間。


「だー! こんなの全然分からないって!」

 頭で理解する前に集中力の方が先に尽きた。ちゃぶ台返しの如くノートと筆記用具を放り投げるとジャナルは立ち上がった。

「あ! 何処行くのよ、ジャナル!」

「俺としてはこんな手段は使いたくなかったが、この際、仕方ない」

 どこかで聞いたような言い回しを、これまた芝居のかかった口調で呟くと、ジャナルは部屋のドアに手をかけた。

「ジャナル」

「止めるな、アリーシャ。男にはやらねばならない事があるんだ」

「別に止める気はないけど、学校に忍び込んで答案を盗もうとしても無駄だよ?」

 ドアノブに触れていたジャナルの手がビクリと止まる。

「えーと、あったあった。「第26条『生徒下校後は許可なく学園内立ち入り禁止。敷地内はセキュリティ魔法により強制的に侵入者を排除する』」、塀でもよじ登ろうもんなら怪我をすることくらい子供でも知ってるよ?」

 アリーシャが生徒手帳をパラパラと捲りながら読み上げる。ちなみに、例外的に教師や用務員などの学校側が許可した者に対してはこのセキュリティは発動しない。

「いや、ま・さ・か・とは思うけどね。そんな馬鹿なことをするのって」

「そ、そうだよな、はは、ははは」

 乾いた笑いがこぼれ落ちる。

「で、最後の手段とやらは何?」

 アリーシャが嫌味を込めた笑みを浮かべながら問いかけた極悪級の意地悪な質問に、ジャナルはただ笑ってごまかすしか出来なかった。




「なるほど。それほどまでに深刻なのか」

「うん。冗談抜きで。退学記念慰めパーティーの企画を考えたほうがいいくらいだわ」

 休憩時間に来ると言っておきながら、フォードが顔を出したのはそれからさらに一時間後。店は既に閉店していた。

 勉強場所として提供された机の上には、途中でアリーシャが家から持ってきたらしい古い参考書や昔使っていたノートも積まれている。

今日、学園に学園教育総会のお偉いさんが来たこと、ジャナルの追試の結果で退学になる可能性が出てきたこと、そして新しく学園教育総会の総会長になったニーデルディアとの奇妙な出会い。

「それにしてもまさかあのニーデルディアが会長になっていたとはな。時間が立つのは早いものだ」

意外にもフォードが一番食いついてきたのはニーデルディアの件だった。

「え、何? あの人そんなに有名なの?」

 確かに人目を引く容姿だが、既に2年も前に卒業したフォードがニーデルディアと言う人物を知っているという事はアリーシャにとっては意外だと思えた。

「いや、有名ってほどじゃないけどな。俺が学園にいた時に一度会ったことがあった、それだけだ」

「その割には嫌そうな顔してるけど」

「まあな」

 そう言ってフォードはアリーシャから視線を外し、窓の外を見た。星も見えない漆黒に染まった空の下、校舎のシルエットがぼんやりと浮いて見えた。



「________残念ですね。貴方にはすばらしい「素質」があったというのに。それを無駄にしてしまうとは大変愚かな行為です」

「何とでも言ってください。俺はその申し出を受ける気はありませんから」

「まあ、いずれにせよ貴方にはもう用がありません。ですがこれだけは言っておきましょう。「選ばれる」という事は人にとって最大の名誉なのです。そしてその名誉を手にしたものが世界を動かしているのです。あの子も例外ではないですよ。ほら、貴方と仲の良い錬金術科の女の子」

「な……!」

「彼女の才能はすばらしい。その才能もまた「選ばれる」にふさわしいでしょう______」




「________おい、フォード、フォードってば」

 ジャナルの大声によってフォードは現実に引き戻される。

「この問題とこの問題と、あとここからここまでが分からないんだけど」

「全部じゃないか! さっきアリーシャがこれ以上もないくらい細かく説明してただろーが!」

 何にせよ、ニーデルディアの話はこの際どうでもいいことである。今一番問題なのはジャナルの追試のことだ。

(何事もなければいいんだが、な)




 その後、ジャナルの勉強会はアリーシャ&フォードのスパルタ教育により、日付が変わるまで続いた。

 町全体が眠りに付いたかのように静寂に包まれ、ほとんどの建物からは明かりが消え、街灯だけがほんのりと周囲を照らしている。首都のような大都会なら深夜でもバーやカジノの煌びやかな光が輝いているのだが、地方都市コンティースではさすがに警備能力が都会と比べると格段に落ちるので、魔物を呼ぶ恐れのある夜間の不必要な照明は禁止されていた。

「なーんか今日のフォード、変だったよね」

 いくらアリーシャでも女性一人夜道を歩かせるのは危ないということで、ジャナルはアリーシャを家まで送ることになったのだが、道中の話題はテストのことからいつの間にかフォードの事に変わっていた。

「あれは絶対あの総会長と何かあったって感じだよね。まあ、聞いた所で答えてくれそうにないだろうけど。フォードって面倒見はいいけど自分のことはあまり話さないタイプだし」

「だろうなあ。結構俺らの知らないところで苦労してそうなのにさ」

「苦労?」

 アリーシャが首をかしげた。

「見ちまったんだよな」

「え?」

 アリーシャがジャナルの方を見ると、珍しくシリアスな表情をしていた。

「フォードの卒業式ん時、偶然、ほんっと偶然なんだけどやばいシーンに遭遇したんだよなー。なんか校舎裏でフォードとさ、当時付き合ってた元カノって奴? とにかく その二人がなんか言い合いしていて仕舞いには元カノがフォードに鉄拳かましてたぜ。あれはすごかった」

「ええっ! でもなんで?」

「知るかよ。それに状況が状況なだけに問いただすなんて命知らずな真似できるかって。奴はこの世界で二番目に敵に回したくない人間なんだからな」

 ちなみにジャナルが一番敵に回したくないのは他でもない、目の前にいる人物である。

 それからしばらく無責任な仮説を立てたり意味のない論議を繰り返しているうちにアリーシャの家が見えてきた。

「いーい? 私もフォードも付き合ってやったんだからたんだからそれを無駄にしないでよね!」

 アリーシャが、門扉に手をかけたその時、


「てめえ、ふざけんなよ!」

 男の怒鳴り声と同時に、ガシャンと何かが倒れる音がした。


 喧嘩だ! 


瞬時にそれを理解した二人はそれぞれの武器を取り出すと、音のした方へ一気に走り出した。

光精霊ルミエル!」

 アリーシャが短く叫ぶと、空中に白熱灯のような光を発する球体の毛玉が現れ、周囲を明るく照らす。

「あっち!」

 十数メートル先にあるごみ収集所の前で三人組の男を発見した。木箱やらビンやらが散乱した道路に誰かが倒れているのも見える。

「こらー! 弱い者いじめは男の風下にも置けねーぞ!」

 正しくは「風上」なのだが、とにかくジャナルは『ジークフリード』を片手に男達に飛び掛った。落下と同時に蹴りが男の一人に命中し、そのまま地面に倒れこむ。剣の意味は全くと言っていい程無かった。

「何しやがる!」

 よろよろと男が立ち上がる。

「こんな夜中にこんな騒ぎを起こして! って、あああっ!」

 それこそこんな夜中に近所迷惑とも言えるくらいのアリーシャの大声がこだました。

「あー! てめえは!」

 アリーシャの姿を認めた男が少し遅れて叫ぶ。

「「あんた達 (てめえ)は放課後にぶつかった連中 (女)!」」

 最後に見事とも言えるハモリが炸裂した。

 そう、この男達は夕方にぶつかったアリーシャに絡んできたものの、あっさり返り討ちに遭ったチンピラ三人組だった。

「な、何でてめえがこんなところにいるんだよ?」

「それはこっちの台詞だわ! こんなに悪党ならあの時始末しておけばよかった!」

 アリーシャの身体から魔力を含むオーラが湧き出る。長いポニーテールがゆらりと逆立った。

「ち、畜生!」

 再びコテンパンにされるのは目に見えている。そう判断したチンピラたちは一目散に逃亡した。

「なんだ、張り合いがない」

 どの道、夜中に派手に暴れ回るわけにもいかないので、穏便と言えば穏便に解決はしている。その場にいる人間は不満そうだが。

 二人は具現武器トランサー・ウエポンを片付けると、倒れている人物を助け起こした。幸い意識もあり、たいした外傷もないようだった。

「す、すみません、何と言っていいのか」

 光精霊ルミエルの光に照らされた相手は小柄、失礼な言い方をすれば貧弱なもやしっ子体型の少年だった。くしゃくしゃになった猫っ毛の下にある顔も童顔で、いかにも人畜無害な気弱そうな雰囲気。

「子供? てか、こんな時間に出ちゃ駄目だろ。だからあんな連中に狙われるんだよ」

「ご、ごめんなさい。でもお金もってこいって、あ、別にカツアゲってわけじゃ」

「どう見てもカツアゲじゃねーか!」

「ジャナル、彼が怖がっているからちょっと落ち着きなさい」

 今にも食って掛かりそうなジャナルを、アリーシャがドスのかかった声でたしなめる。

 そして、少年の方を向くと諭すような優しい口調で話しかけた。

「あのね、人からお金を巻き上げることはいけないことなの。それは分かるよね?」

「は、はい」

「君だってあんな連中にお金を渡すのは嫌でしょう?」

「……できることなら」

「大丈夫。今度あいつらが君にひどいことをしようとしたら跡形もなく消し飛ばしてあげるから」

 少年からの返事はなかった。むしろ、青ざめたまま震えていた。




 アリーシャを家まで送った後、ジャナルはこの不憫な少年を家まで送ることになった。

「わざわざごめんなさい」

「いいよ。気にするな。どうせ方向同じだし」

「でもジャナル君は強いね。やっぱり戦士科の人って勇敢っていうか」

「いやいやいや……って、あれ?」

「え? 君、戦士科のジャナル君でしょ?」

「ああ、そうだけど……俺って後輩の間でも有名なのか。まあ、二個下に弟がいるにはいるけど」

 すると少年はちょっと寂しそうな感情を含みながら苦笑いした。

「僕、一応同学年なんだけど。それにジャナル君とは何度も顔合わせているはずだし」

「え? 嘘? そうだったっけ?」

 この「え? 嘘?」が同学年だったことに対してなのか、顔を合わせているということに対してのことなのかはさておき、ジャナルはこの少年とどこで出会ったのか必死に思い出そうとする。

 無理だった。

「ほ、ほら前の追試のときも一緒だったでしょ? 僕、生まれつき身体が弱くて学校をよく休むからどうしても人より勉強遅れちゃうんだ」

「あ、あー。つまりお前も俺と同じ追試常連ってことか!」

 言っていることは正しいが、普通に学校へ行って追試というのと、やむを得ず追試というのではかなり隔たりがある。そしてそれ以前の問題として、追試で顔を覚えられること自体、不名誉だということにジャナルはまったく気づいていない。

「で、えーと、なんて名前だっけ?」

「あ、僕? 僕はカニス。カニス・アルフォート。錬金術科機工学コースの8年」

「錬金術科ってことはモノづくり専門のクラスか。やっぱ発明家みたいなことをするのか?」

「う、うーん、本当に頭のいい人ならそういう道に行く人もいるだろうけど、大体職人系が多いかな。ジャナル君たちみたいに武器を持って戦うことはさすがに苦手だけど、武器の作り方はいろいろ学べるよ」

「うおっ、それはそれですごいじゃん!」

「そ、そうかな……?」

 カニスが首をかしげる。そもそも武器の制作はカニスの所属しているクラスにとって、ジャナル達戦士科が戦闘訓練を受けているのと同じくらいに当たり前のカリキュラムだと認識しているので、それを「すごい」と称賛されるとは思ってもみなかったようである。

「で、もしかして次の追試も受けるのか?」

「うん。歴史と物理学。後は課題の提出かな。物を作る学科だからむしろそっちのほうが大変だよ。明後日までに剣を一本仕上げなきゃいけないから」

 明後日、いや日付が変わったので明日が追試の日である。劣等生が人並みの知識を得ることと、病弱の少年が剣一本を完成させること。それらを成し遂げるにはあまりにも時間が短すぎるように思えた。

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