1・車中

何一つ木々の生えぬ見通しの良い荒野の道路を走る車の中、後部座席でAが目覚めると、最初に思ったことはこうである。

 

――何度目だろうか。

 

車を運転している神経質そうな眼鏡の小男が物音に気付いた。

「おい、起きたか。もうすぐ着くぞ。」

「ああ。」

「先に朝飯を食っておけ。サンドイッチを買っておいたぞ。」

 後部座席に向かってコンビニ袋が放り投げられる。

 Aはそれをキャッチすると袋からサンドイッチを取り出し、封を切った。サンドイッチの具はトマト、レタス、そしてハムであった。Aが口に含むと、合成肉の味とトマトの酸味が舌を打った。

「早く食えよ。もうすぐなんだから。」

「ああ、わかったよ。」

Aは急かされるのを不快に思いながらもサンドイッチを素早く飲み下し、またすぐに口に放り込んでいった。急ぐあまりAは味が分からなくなった。サンドイッチは二三分で跡形もなくなった。

「食い終わったか。もうすぐだ。もうすぐ。」

「なあ、なんか飲み物はないのか。」

「ああそうだコーヒーも買っておいたんだ。ちょっと待てよ。」

 そう言って運転手が足元に置かれたビニール袋に目を落とした矢先の事。対向車線を走っていたトラックが急に車線を跨ぎ、二人の車に突っ込んで来た。

 Aが慌てて運転手に声を掛けた時には後の祭り。二人の車は正面からトラックに押しつぶされていった。

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