飛ぶ列車

ナナシイ

プロローグ

Cは船着き場に着いたが出発までは間があった。所在なく辺りをぶらいついていると、防風林の中に小さな朽ちかけた小屋を見つけた。入口の上部には看板が掛かっており、美術館と書かれていた。

 Cはこんなものが美術館だとは思えず、中に何があるのか興味が湧いた。

 中に入ると、薄暗く狭い部屋の壁一面に、何枚もの絵画が貼りつけられていた。部屋の隅には管理人とおぼしき老人が椅子に座ってじっとしている。

「じいさん、ここは何だ。」

「入館料二百円。」

 老人はかすれた声でつぶやいた。しぶしぶ、Cは財布を取り出し、硬貨を二枚老人に渡した。

「それで?」

「ここは美術館だ。絵を見給え。」

 Cは訝しがりながらも絵を見た。貼ってある絵は全て食事を描いたもので、それぞれ全く別の場所、別の献立であった。

「……爺さん、これらの絵は何が言いたいんだ。」

「それらは全て朝食だ。だが界が異なる。故に差異がある。場所が変われば差が生まれる。家庭が変われば差が生まれる。人が変われば差が生まれる。それが大事なことだ。」

「はあ。」

「お前の目の前にある絵には何が書かれている。」

「みすぼらしい食卓だ。皿にはひびが入っているし、食べているものも質素だ。まるでこの建物みたいな場所だ。」

「その左は。」

「さっきとは打って変わって豪華だ。座っている人の身なりも整っているし、食卓に置かれた皿の数が段違いだ。」

「その上は。」

「これは電車の中だな。おにぎりしか持ってない。」

「その左は……。」

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