8. 会議という名のゲーム (3)
会議場のスクリーンに映し出された島の様子を見て、イツキは内心焦る。
B3が帰る手段を破壊され、同等、あるいはそれ以上の手練れのプローム2機と戦闘していた。
(すでに、彼女のことが読まれていたとは……)
ユイを帰す判断が遅れた。いや、そもそも注意がエイジスに向いていたなら、飛空艇を飛ばそうが、B3を海上で走らせようが、補足されていただろう。
「あの2機はサザンのエース機。サザン側でも捜索隊を派遣していたならばノトスも協力したものを、ゴドー主席も人が悪い」
ねっとりとヤムナハが言うと、アナンは首を振った。
「娘の事情はサザン側の都合だ。身内で片づけるのが筋。先に発見してくれるものと期待していたが……。ノトスはどうやら優秀なセンサーをお持ちのようだ」
「いえいえ、偶然ですよ」
アナンの皮肉に対し、ヤムナハが薄く微笑んで受け流す。
おそらく、アナンの方はノトス側よりも先にユイを確保するつもりだったのだろう。だが、先に見つけたのはノトス側だった、それだけの話だ。
「ヤムナハ・アーブル主席、少し私からも話が」
2人が応酬する中、ユエルビア共和国の首相ガイナスが手をあげる。
「どうしたのかな、マクラミン首相?」
「いや、モニターに映っている青い機体、我が軍の偵察隊から報告のあったものと一致しておりましてな。火砲が発射される1ヵ月前にエイジスの列島で確認されたと」
「ほう……ならばあの青い機体はエイジスの武装勢力の所属である。ならば、ユイ嬢を攫ったのはエイジス武装勢力である、と線がつながりますな」
やはり、きたか。
決定的なところをつかれ、イツキが黙り込む。
「とすれば、要人を拉致し、軍を襲う犯罪組織ならば、早急な対処が必要。その保有している武力の危険度も高いというのであれば」
そう言うと、今度はガイナスが合図をし、自分の背後にスクリーンを降ろさせた。スクリーンにプロジェクターの光が当たる。
「な……!」
映し出された光景に、イツキも隠し切れない感情が声となって漏れ出た。
そこに映し出されたのはケートス、それもすでに、上空をユエルビア共和国の飛空艇艦隊、湾上を海上艦隊に包囲されている状態であった。
◇
青い機体と向き合いながら、黒曜を操るシュウは苦々しい表情を浮かべていた。
(完全に出遅れた)
決して、ノトスのレーダーが優れているわけではない。ノトスのジャミングによって、こちらの捜索活動が妨害されたのだ。
コクピットの通信機からは探知特化型のプロームを操るミナが申し訳なさそうに謝る声が聞こえる。
視点をわずかにずらせば、ユイがエヴァーレイクに乗るサキに何かを訴えている様子が見える。
必死な表情と口の動きから傷つけないでほしい、と懇願しているのだろう。
(だが、無理だ)
遅れて伝達される国際会議の情報では、エイジス側は犯罪集団扱いされている。そして、明確に被害を受けたとされているのは、サザン側なのだ。この流れで見逃すのは、逆に各国からの疑念を招き自国の立場を悪くしてしまう。
今、考えうる限りシュウができる最善の方法は、サザン側で青い機体を捕縛し、ノトス側に身柄を奪われないようにすること。次善案はノトスに捕縛される前に相手をロストさせること、だ。
相手は、こちらの斬撃および制圧攻撃をかわしてみせた。相当な手練だとわかる。ノトス側に捕縛されればどんな風に利用されるかわかったものではない。
睨みを聞かせつつ、コクピットの中でシュウは呟く。
「頼むから、激しく抵抗してくれるなよ」
ユイの懇願している様子からどんな風に保護されたかはわかる。正直、恩を仇で返すような真似はしたくない。
何より、
「あまり泣かせたくないんだ、こっちも」
ため息のように言葉を漏らすと表情を引き締め、B3へと攻撃をしかけるべく機体を前進させた。
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