9. 世界で一番の嫌われ者 (1)
白い猫のフェアリスはケートスの上空を飛び回りながら、必死で一人の少女を探していた。
天空会議場から渡瀬邸に戻ったのだが、そこにはケイトの姿もナノの姿もなかった。
すでにケートスの周辺状況は戻るときに気づいている。この場所はもはや安全ではない。
もし、2人に万が一のことが起きていたら……。
ロストする可能性、捕縛されている可能性、いずれも考えただけでノウェムは言いようのない気分の悪い感覚に陥る。
無事であることを願いながら上空から探していると、飛空艇やプロームを整備していた基地、その建物から不安そうな表情で出てきたナノを見つけた。
「ナノ! どうしてここにいるのですか!?」
ナノの元へ降りるなり、安心したと同時に心配していた気持ちをそのまま叫ぶ。ナノがノウェムにびっくりしつつ、か細い声で答える。
「ノウェム、フェアリスのみんながいなくて。どうしたのかと思って」
ナノの言葉を受けて、ぐっとノウェムは言葉を飲み込んだ。
仲間のフェアリス達は出撃したのだ。
すでにユエルビアの軍に包囲されていることを感知して。
もうとっくにケートスはフェアリスだけでなく人も含めて世界の敵になってしまっていたのだ。
しかし、その事実を幼いナノにそれを言うことはできない。
「だいじょうぶです、ナノ、みんなすぐに帰ってくるのです。だから、戻りましょう」
何でもないようにノウェムがそう言ったときだった。
上空から、花火のような爆音が聞こえた。
視線を向けると、晴れ渡った空に何か、オレンジ色の炎が燃え上がっている。
それと同時に、仲間の叫びがノウェムの精神を打った。
この惑星にて人類に死はない。フェアリスにも死はない。
しかし、飛空戦艦でもプロームでも、その体を変えたとしても攻撃を受ければ精神が壊れるような痛みを感じる。破壊されればしばらくは行動できない。
ノウェムを打った叫びはケートスを守るために身を挺して散った仲間の叫び。心の痛みだった。
「そっか……」
胸を抑えながら、痛みを感じてナノが涙を流す。
ノウェムが感じるなら、感応能力を共有しているナノにわからないはずがない。
「私たち、家族みんな、本当に世界で一番の嫌われ者になっちゃったんだね」
戦火が咲く空の下、11歳の少女は正しく、自分と家族の状況を理解していた。
◇
キナイ島の森で、青いプロームと黒いプロームが激突する。
B3が黒曜の大刀を回避するが、切り返しが早い。重い得物なはずなのに、回避した先に大刀の軌跡が追いかけてくる。
(押してダメなら……!)
ぎゃりっと金属がこすれる鈍い音とともに軽く火花が散った。
青い刀身で大刀を受け止めるのではなく、衝撃を受け流す。
勢いを利用することで、ようやく距離をとり、連撃から逃れることに成功した。
だが、気を抜く間もなく、距離を取った先で今度は白銀の矢がB3の足元に飛来する。
「っ!」
判断は一瞬。
甘んじて氷霜を受け止めると刃を地面に突き立て、ヒビをいれてから、脚部のスラスターを全力で真下に噴出させて、氷漬けにされた脚を即座に自由にする。
脚が自由になるための挙動はわずかに3秒程度、その間に黒曜がせまり、B3の胸部に大刀が襲い掛かる。
突き立てていた剣を支えにして体勢を低くして薙ぎ払いを回避。さらに、剣を軸にして低姿勢からの回し蹴りを黒曜に叩き込む。
(入った。だけど、浅い!)
黒曜の脚にB3の蹴りが入る前にスラスターの光がハルカには見えていた、わずかに動いて蹴りの衝撃を緩和したのだ。
バランスが崩れるまでいかない。そう判断して追撃が来る前に慌てて距離を取った。
数秒以上、緊張で止めていた息を吐きだす。
「……な、何なんですか、これは」
ノインがわずかな時間の攻防に驚愕の声を漏らす。
対して、ハルカは驚くでもなく、この攻防を当然のものと捉えていた。
プロームの性能ではこちらが上であるが、相手の技量が高ければ有利にもならない。おまけに相手は2人、油断していい相手ではなかった。
一方で、わずかな攻防に緊張したのは相手方も同じだった。
「なるほど、やはり半端な技では仕留められないか」
シュウが黒曜のコクピット内で戦意を高めるようにつぶやき
「……」
サキがエヴァーレイクのモニター越しに、無言でB3をにらむ。
「た、隊長、我等はどうすれば……」
「わ、私にもわからない」
戸惑うのは、ノトス側のプロームだ。別次元の戦闘に手出しができないでいる。
「技量が高いことは知っていたけど……」
ユイが戦況を見て感嘆する。
黒曜とエヴァーレイクが相手取って連撃を単機で凌ぐなど見たことがない。何といっても2機はサザン陣営の最強戦力なのだから。
B3が真っ直ぐに刀身を構え直し、黒曜が大刀を下に向けて構え、エヴァーレイクが矢を引き絞る。
3機に緊張が走り、再び臨戦態勢となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます