6. 誓い (3)

 子どもたちの精神体を地球へと送り出した次の日の朝。

 イツキから呼び出されたカナタ達を含め、子どもたちが、村の中の格納庫に向かう。すると、そこには前よりも頑丈な新品同様の飛空艇が設置されていた。


「すげえ」


 ケンジが感嘆の声をあげ、そのうしろで同様に子どもたちも、すごい、など歓声をあげている。


「イツキさんは?」


 飛空艇の側のプローム用の作業台でイツキが作業をしており、ハルカが補助するように手伝っていた。


「あのー?」

「あ、皆さん来てくれたんですね、おはようございます」


 イツキが気づいて、5人へ声をかけると、それぞれ、おはようございます、ちーす、どうも、と各々の挨拶を返していく。

 カナタが飛空艇を見上げて指を指す。

 

「イツキさん、これって?」

「村長さんが保管してくれていた飛空艇です。放置されてたみたいなので整備しておきました」

 

 そう説明したものの、実際のところは、フェアリスの元素変換の力によって飛空艇を作り出しただけである。整備と言いつつも、耐久性の確認をしたぐらいで特にいじってはいない。

 それと、というと、イツキは作業台に置かれた、5人それぞれのプローム素体を示した。


「君たちのプロームも少し調整を入れておきました」


 こっちが本題であり、ハルカからそれぞれの戦闘スタイルの情報を受けて、それに合わせてプロームを強化、調整をしておいたのである。

 B3に近いスペックは出せるようになっており、他の所属のプレイヤーと戦ったとしてもそうそう劣勢にはならないようになっているはずだ。

 それぞれ手に取りつつ、確認しながらカナタが問いかける。


「それってB3みたいな動きができるようになるってこと?」

「ええ。ですが、その分以前と比べて動きづらくなっているかもしれません。そこは各自慣れていってくださいね」


 イツキの性分としては操縦者のレベルに合わせて調整したいところなのだが、あえて操縦者の方が合わせろと告げた。

 そうしないと他の派閥と戦闘になったとき、不利になる可能性が高いためだ。厳しく言うのであれば、慣れなければ生き残れないし、子どもを連れて旅はできない。


 事前にカナタらの意志を聞いたが、子どもを連れて旅をするのは変えないし、今までと変わらず虐げられている子どもを助ける、と語っていた。


 イツキとしては、その意志に同調したい気持ちもあり、ケイトとしては子どもを預かるのもやぶさかではなかったが、あくまで自分たちの目標はケイオスの打倒であり、違えることはできない。現状、4人でケイオスを打倒しながら、子どもたちの世話をすることは同時にはできないと判断した。


 だから、これはせめて彼らにできる、イツキとハルカからの精一杯の支援であった。


 カナタ達がそれぞれのプローム元である武装を確認する様子を見て、きっと彼らならば使いこなせるだろう、とハルカは思う。

 彼らも立派なトップクラスのプレイヤーであり、ツインハック戦の時に駆使した格闘術やワイヤーを使ったトリックはもともと彼らから教わった技なのだから。


「ありがとうございます。何から何まで」


 そう言い、カナタが頭を下げると他の4人も同じように頭を下げた。


「いえいえ。そうそうケイオスの素材を使ってるので、故障して補給したいときには素材を持ち寄ってうちのところに来てくださいね」


 イツキがそう言うと、カナタが前につんのめった。


「なんですかそれ?」

「そうすれば、ケイオス討伐協力してくれるでしょう? 人手は足りないのでいつでもほしいですし。素材持ってきてくれたら無償で修理、強化するんだから安いもんじゃないですか」

「うわあ、大人って汚い……」


 カナタがドン引きするように言うと、ハルカがそのやり取りを見て思わず微笑んだ。

 本当のところは、こう言えば、また来てくれるということをイツキは期待しているのだ。何だかんだで心配ではあるから。


「あ、間に合ったみたいだね」

「足りるかな?」


 そこへ、ケイトとナノが台車を押しながらやってきた。


「ケイ、トさん!?」


 ケンジががちがちに緊張しながら言い、その頭をルイがひっぱたいた。

 そう言えば、ケンジの好みは気の強い女性って言ってたことをハルカは思い出す。そう考えると、ケイトはもろにタイプなのだろう。


「行くんだったら、これ餞別」


 ケイトが台車に載ってたコンテナの蓋をあけると、そこにはぎっしりとパンが入ってた。


「ケイトさんこれって」

「食べないって言うんでしょ? けど、食べたほうが気力も沸くものよ?」


 そう言い、ケイトがにやりと笑った。

 そのうち、子どもの一人が台車に近づいて、ひょいっとパンを1個取り出すとほおばった。


「おいしーい」


 嬉しそうにほおばると、わらわらと子どもたちが寄ってくる。


「お前ら、きちんとお礼を言ってからもらえよー」


 カナタが呆れたように釘をさすと、思い出したように、ありがとうございます、と子どもたちはお礼を言った。





 そんなこんなでにぎやかなやり取りがあった後、いよいよ出発する段階となった。

 飛空艇のエンジンが始動し、温められていく。


『じゃあ、世話になったな』


 格納庫に備え付けられた通信用のモニターから、カナタの音声が流れる。


「「「「どういたしまして」」」」


 4人でそろって言うと、向こうから吹き出す声が聞こえた。


『何というか、本当に仲がいいな、あんたら』

「だって家族ですから」

「あははは……」

「ハル、その曖昧な返事はなにかな?」

「おにい、顔ひきつってるよー」

 

 それぞれカナタの言葉に対して、次から次へと言葉が返ってくる。

 にぎやかながらも、うらやましいことだ、とカナタは思う。

 自分たちを含め、家族がいなかったり、縁を切った者もいるこのご時世に家族で仲が良いのは当たり前のことではないからだ。

 あ、と思い出したようにカナタが声を漏らすと言いにくそうな調子で言葉を紡ぐ。


『そういえば、ハルカ。もしかしてなんだけど、さ。俺たち、どこかで会ったことあるのか?』


 カナタからの質問にハルカの表情が固まった。


「それって……」

『おかしいよな、そんなはずはない、と思うのに。お前の戦い方とか、話した感覚とか、やり取りをなんとなく懐かしいように思うんだよ』

 

 CosMOSで、チーム戦したときのことをハルカは思い出す。カナタとは総力戦の時、前衛として前線を一緒に駆け抜け、互いに助けたり、助けられたりしたことがある。

 ほんの数週間前の記憶なはずなのにそれがなんだかとても懐かしいことのようにハルカには思えた。


「奇遇ですね、俺も同じように思ってたんです」


 だけど、この記憶は今は共有する必要は、ない。

 今はそれぞれの道があるのだから。

 共有するのは地球に帰ったときだ。


『そっか、なら気が合うのかもな』

「ですね。また会ったときには共闘できるといいですね」

『そん時は、どっちが多くケイオスを狩れるか勝負だな』


 そう言うと、互いに笑った。


「じゃあ、気を付けて」

『そっちも。互いに良い旅を』


 エンジンの後部からジェットが噴射され、飛空艇が発進し前に加速、あっという間に機体が地面から離れると、空へと旅立っていった。

 遠くの空を見上げながらハルカは呟く。


「いつか、また……」


 空には飛空艇の残した白い線の軌跡が描かれていた。

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