6. 誓い (2)
首長に意思を表明したあと、イツキとハルカはヤナギ達フェアリス3人とともに集会所へと向かった。
集会所の前ではケイト、ナノと、それぞれ困惑、沈痛といった表情を浮かべたカナタたち5人が待っていた。
「イツキさん……」
カナタが悲痛な声でイツキを見る。
「何が正しいのか、俺にはわからない……。けど、俺にはこのままがいいと思えないんだ。自分に置き換えたら、きっと辛くてたまらない。あいつらも、きっと同じことを思っていると思う」
だから、と言うと声を震わせながらも言葉を続けた。
「あいつらを解放してやってくれ」
◇
集会所の中に入ると、奥の一室の方へと向かう、そこではイツキが昨日訪れた時と変わらずに叫ぶ子ども、自身を傷つける子どもがいた。
ナノは集会所の他の子どもたちが気づかないように外で一緒に遊んでいる。
子どもたちの凄惨な様子に、ハルカ、そしてカナタたちも目を背けてしまう。だが、ケイトはイツキと共にじっと子どもたちの様子を見ていた。
一人のこどもがイツキの足元に近づくと、その身体を叩き始めた。
イツキは屈むと、その子どもの体をそっと抱きしめた。
しかし、子どもの手は止まることなく、力いっぱい叩き続ける。
意識がないながらも、残ってしまった怒りや憎しみの感情を訴えかけるように。
「どうか、恨んでください。どうか、ぶつけてください」
静かにイツキが言葉を口にする。
「君たちを救えなかった大人のふがいなさを。
君たちを傷つけた大人の醜さを。
君たちに当たった大人の弱さを。
その口惜しさや理不尽さ、すべての怒りをぶつけてください」
子どもは叩く、叩き続ける。
言葉が届かないことはわかっている、もうこの子どもの心が折れてしまったことをイツキはわかっている。
それでも言わなくてはいけない。そうでないと、この子たちは何も救われない。
「今は眠らせることしかできない僕らを許してください。
僕らは、君たちが起きたときにもう一度チャンスが訪れるように歩みます。また起きた先で幸せになる保証はありません。約束もできません」
イツキが話していくごとに少しずつ叩く子どもの手の勢いが弱くなっていく。
「だけど、ここに君たちの心に幸せが訪れることを願った人間がいたことをどうか忘れないでください」
子どもの手が叩くのをやめ、イツキの服をぎゅうっと握り締める。
幼い手はわからないながらも、何かをつかもうとしているかのようだった。
「サコン、ウコン、お願いします」
静かにイツキが言うと、人型形態のサコンがうなずき、実体のない手で子どもの顔に触れた。すると、子どもの表情から険しさが消え、目が閉じられると眠りに落ちた。
他の子どももウコンとサコンが同様に触れ、眠りにつかせていく。
静かになった子どもたちの口から寝息は聞こえない。
ウコンやサコンが行っている処置は精神体をこの惑星の肉体から切り離すものだ。惑星で受けた精神体の傷をリセットし、地球の肉体へと戻って封印が解かれるのを待つことになる。
ただ、もう一つの故郷を知らないカナタ達5人には詳細を話すことができない。5人にはケイトから、精神体が回復する可能性に賭けて長い眠りにつかせるのだ、と説明していた。
安らかな寝顔を浮かべる子ども達を見てルイ、アヤメが涙を浮かべる。
そのとき、部屋に6歳ぐらいの男の子が入ってきた。ベッドで泣き叫んでいた子どもが目を閉じている様子を見て、首を傾げる。
「この子、このまえまでいっしょに遊んでたんだ」
「そうなの?」
寂しそうに言う子どもに対して、ケイトがかがみこんで問いかける。
「うん。けど、ぼくのことをかばって死んだあとからおかしくなっちゃったんだ。あついあついって言って、ずっと泣いてて辛そうだったんだ」
「そっか」
「ねてるってことは休めたのかな」
「そうね、長く休めるところに行ったのよ」
「じゃあお別れを言いたかったなあ。そして、よかったねって言ってあげたかいな」
ケイトは無言で男の子を抱きしめた。俯いた顔からはどんな表情を浮かべているかはわからない。
「ワリぃ……」
「ごめん、僕も」
そう言うと、ケンジとリュウが部屋を出ていく。
ルイとアヤメは泣き崩れて、床に座り込む。
カナタは目を背けつつも、部屋から出ようとはしなかった。
ハルカは、背けていた目を、眠りについた子たちに向ける。さっきまでの焦点のあっていない悲しい顔とは異なった、安心したような寝顔だった。
この先、この子どもたちが起きれるように戦わないといけない。
ケイオス、他のプレイヤー。いろんな戦いを経験して、負けて死ぬこともあるかもしれない。それでもまた起きて心が折れないように戦い続ける。
子どもに対して誓いの言葉を告げた父の背中を見ながら。
ハルカはその決意を新たにしたのだった。
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