4. 曇天の空、初めての対人戦 (5)
『隊長、エースとドュエの機体がロストしました!』
雨雲を越え上空を飛んでいたブラボー小隊、トレスがツインハックとドュエからの信号が失われたことを察知して即座に報告する。
『知っている、こちらのレーダーからも確認した。そして、所属の不明な機体反応があることも』
『急ぎ戻って救援を!』
『トレス、このまま帰投する』
『しかし、隊長!』
『落ち着け、トレス! エースとドュエを倒した機体に我らが敵うと思うか!』
ウノの叱咤する声にトレスが歯噛みする。
『このまま帰投する。戦闘データは得られなかったが、無所属の脅威が存在すると報告しなければ。そして、ロストから復活するドュエとエースのフォローにまわるぞ』
『了解』
隊長の命令にトレスは渋々ながらも応じると、3つの機影は上昇し、雲海の下の列島から離れていった。
◇
夜のはじめに突入し暗い雨が降りしきる中、プローム燃料の燃焼によって消えない橙炎が滑走路を煌々と照らす。
戦闘を終え、滑るように滑走路を移動し、飛空艇に近づいたところでハルカはB3の復元を解除した。
地面に降り立ったと同時に少年の体がよろめく。
飛空艇の救助をしていたイツキが気づいて駆け寄り、倒れる寸前でハルカの体を抱きかかえた。
「父さ……ん」
「ええ、見ていましたよ、よくがんばりましたね」
「人を、殺し……」
「守ったんです、君は僕らを、そして彼らを」
何かを堪え、
父の身体ごしに飛空艇から降りてきた子供たちを見て、ハルカの目に涙があふれた。
視界が、雨と涙でにじむ。
プローム越しで、敵にとどめをさした時の手の感触は生々しく残っている。
ただ一方で、父の服を握り締める手から伝わる温かな感触も、確かに感じ取っていた。
ひとしきり泣いたところで顔をあげる。
「ごめん、救助の方は」
「それは……」
「無事に時間を稼いでくれたから完了したよ」
ハルカの問いかけにイツキが答えようとすると、傍らからケイトが答え、そしてハルカの頭をなでた。
温かい感触にまたハルカの目に涙がこみあげるが、舌を噛んでなんとかこらえる。
息子の様子を見て、ケイトが苦笑し頭をなでるのを止めた。
ハルカと共に降りてきたノインにノウェムが声をかける。
「姉さん」
「ノウェム、ナノは?」
ノウェムが視線を向けると、ナノが戸惑いがちに立っていた。ノインがそっと近づくと、ナノに頭を下げた。
「どうか、感謝を。あなたは同朋の力になり、そしてみんなを助けてくれた」
「わたしは何もしてないよ。がんばったのはウコンだし」
「いやいや、姫君の力がなければ逃げることもままならなかった」
プロームとの接続を解除し、人型の状態で抜け出てくると、がたいの良い身体を揺らして笑った。
「ええ、姫君はその決断を誇るべきです。これで我等の選択肢が増えたのですから」
同じく、人型の姿をとっているサコンが、狐目を細めて上品に微笑んだ。
「なんだ、お礼合戦をしてるのか。それなら、混ぜてくれないか」
穏やかに会話を交わしていたところへ、新たに声が混ざる。
そこには高校生ぐらいの5人の少年少女が立っていた。
ハルカが5人を見て驚く。正確には、5人が持っているプロームの元である、大剣や槍などの素体を見て、だ。
「アストラルに清澄……」
「なんで俺らの持ってるプロームの名前を知ってるんだ?」
ハルカの漏らした言葉にリーダー格の少年が問いかける。
「あちこち逃亡生活してるから名前広まってるかもしれないよ、カナタ?」
「リュウの言う通り、まあ、それもそうか」
側に居た少年リュウから指摘を受け、リーダー格の少年・カナタは頭をかいた。
「えっと、だけど、会うのは初めましてだよな。初めて見たけど、すごい戦闘だった。アストラルの操縦者のカナタって言うんだ、よろしく」
その言葉にハルカの表情が固まった。アストラルとカナタという名前の組み合わせは間違いない、チームメイトのものだ。実際に会うのは初めてだが、リアルもおそらく高校生なのだろう。前にログで話したときも、よくチーム内の5人でリアルでもつるんでいると聞いていた。
「B3の、ハルカ……です」
おそるおそる言葉を発する。
名前と機体名の組み合わせさえ話せば気づくはずだと期待して。
言葉を受けてカナタはああ、とうなずいた。
続く言葉は半ばハルカが予想していたとおりであり、同時に聞きたくない言葉であった。
「初めてきく機体名(コード)だけど、すごいスペックだなあ。操縦技術(テクニック)もすごかったし」
カナタの言葉は素直に賞賛するものであったが、“CosMOS”で共闘していたことを知らないという証明であった。他の4人もうんうんと感心したようにうなずくが、その反応に記憶のあるような素振りはない。
ハルカのショックを受けた表情から、イツキとケイトが訝しそうな表情をうかべ、ナノが事態を飲み込めず首を傾げる。
「あ、あの……!」
いたたまれなくなって、ノインが声をかけようとすると。
「もしや、遭難者かな?」
一同に対して話しかける新たな声。
全員が驚いて視線を向けると、そこには一人の、顔を白い毛でうめた毛むくじゃらの老人が立っていた。
「まさか、首長!?」
ノインとノウェムが驚きの声をあげる。
対して老人はちらりとノインとノウェムに意味ありげな視線を向けると、意図を察してノインとノウェムが沈黙した。
「こんな夜更けの雨の中、難儀だったのう。幼い子供がたくさんいるようだし、よかったら屋根のあるところで休んでいかんかね?」
老人の提案を受けて、カナタ達が喜ぶ。
「じいさん、いいのか?」
「かまわんよ。ケイオスがうろうろしている中で、子どもたちを放置する方が問題があるだろうしの」
次いで、戸惑うハルカ等の方を老人が見る。
「あれだけの闘いのあとだ。お前さんたちも休みに来るといい」
老人が話した後で、渡瀬家の4人の頭の中に同時に声が響く。
<ついて来れば、皆さんの疑問も多少は解決されるでしょう>
その声に、4人とも表情を変える。カナタたちの方を見るが、老人の裏の声が聞こえた気配はない。
おそらく、ノインやノウェムの様子から老人がフェアリスであることは推測できた。
険悪な様子ではないし、悪いようにはしないはずだ。 何より、ケイオス、いきなりの戦闘と子どもたちが襲われていたことなど、様々な疑問に対する答えを知りたい。
戸惑いがある中で、イツキが家族を代表して決断するように頷いた。
「わかりました、お世話になります」
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