幕間

 ノインとノウェム曰く、首長というフェアリスに案内され、渡瀬家の4人と墜落した飛空艇に乗っていた子どもたちは、住居が点在する村のような場所に案内された。

 渡瀬家に案内された家は、首長が気を遣ってくれたのか、地球で住んでいた時の4LDKの我が家を模していた。

 かれこれ2週間以上ぶりの久しぶりの家である。気が緩んでいたのか、ハルカもナノも案内されるなり、自室にて眠ってしまったようだった。

 2人の様子を部屋の外から確認してきたイツキが夫婦の寝室へと入る。先に寝ているかと思いきや、ケイトがベッドに横座りしてどこか不服そうに顔をしかめていた。


「ケイトさん、どうしたんですか?」

「イツ君、ごめん、ここにかがんで」


 真剣な声で言われ、指示通りケイトの前に立って膝立ちになる。座ったケイトに見下ろされる形だ。


「こう、ですか?」


 イツキが問いかけると、突然ケイトがイツキの頭を撫で繰り回し始めた。


「ちょっ、ケイトさん!? どうしたんですか?」


 イツキが驚きの声をあげるか、ケイトは無言でわしわしと頭をなでる。

 しばらくされるがままになっていたイツキだったが、考え込み、少し経ってから声をかける。


「もしかして、欲求が消化不良だったんですか?」


 問いかけると、ケイトが撫で繰り回す手を止めた。


「ハルもナノも自分で重い決断をして、行動したんだよ。えらいね、ってきちんとほめてあげたかったんだけど、ナノは早々に寝ちゃうし、ハルカはあんなこらえるような表情されたら、こんな感じで撫で繰り回すわけにはいかないし」


 不機嫌なケイトの返答にイツキはようやく合点がいった。


「ナノはまあ、明日ほめるとして。そろそろそのほめ方はハルの男としての沽券とか色々壊れるのでやめてあげてくださいね」

「わかってる! だからこうして我慢してるの!」


 ケイトにされるがまま撫で回されつつ、やれやれとイツキはため息をついた。


「ただ、そうなると僕の沽券はどうなるんでしょうかね?」


 抗議するイツキ言葉にケイトはぴたっと手を止めると目をきらん、と光らせた。


「イツ君さえよければ、今日示してくれてもいいよ?」


 思わずイツキが振り向く。

 誘うケイトの目は妖艶でありながらどこか豹とか獅子といった肉食獣を思わせた。

 妙齢の美女な上に、30半ばでも凹凸のはっきりとした魅力的な体型。それで誘われたら、いや、誘われなくても気持ちがどうにかなってしまいそうなものだ。

 イツキが生唾をごくりと飲み込む。と同時に自分の衝動も合わせて強引に深く深く押し込んだ。

 さすがに今はそんな状況でないのはわかっている。


「狼になるのはまた今度にさせてください」


 ようやく落ち着いたところで丁重にイツキが断ると、ちっ、とケイトは舌打ちをしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る