第4話 初めてのデート
「遥さーーんっ!」
会社から出てすぐ、聞き馴染みのある声に呼び止められ、足を止める。
声の方を向くと小走りで駆け寄って来た華那ちゃんは、私の腕にするりと自身の腕をを通し、流れるように腕を組んだ。
「行こっ遥さんっ」
にっこにこな笑顔での誘いをを断れるはずがない。
半ば無理矢理の約束ではあったが、私達はこれからデートをすることになっている。
「よしっじゃあ今日は華那ちゃんの行きたいとこ行こっか」
「えっいいの…!?」
「最近お世話になりっぱなしだったしね、どこか行きたいとこある?」
デートの間くらい華那ちゃんを帰す事とか、親御さんの連絡の事とかは忘れておこう…
「わーっ嬉しいっじゃあえーっとねー…クレープ!食べてみたいっ」
「もちろんっ」
ぱぁっと表情が明るくなると、
「あたし、他にも行きたいお店があるの!あと映画も見てみたいし…あとっ、あとはえーと…っ」
「あはは、まだ時間はあるんだしゆっくり決めたらいいよ。明日は休みだから今日はとことん付き合うよ。じゃあ…まずはクレープからでいい?」
「うんっ!!」
余程嬉しいのだろうか、こんな華那ちゃんは見たことが無い。
「わぁ~~~~~っ!」
クレープなんて何年ぶりかな…
「華那ちゃんはどれにする?」
「こんなに種類あるんだ…うーーん。
生クリーム納豆かツナクリームチーズか…」
「そんな悪ノリで考えたみたいなクレープでいいの!?」
勢いよく頬張る華那ちゃん。
「んんんークリームがツナと合ってておいひー」
選ばれたのはツナチーズでした。
「美味しいならなによりだよ」
「次…行きたいお店があるんですけど…」
「いいよいいよ、好きなとこ言って。今日はお礼のつもりだから」
「ありがとうっ遥さんっ」
*
「…………来たかった所って…ここ……?」
こくこくっと首を上下に振り、キラキラとした瞳で店内を見回す華那ちゃん。
華那ちゃんから案内され、たどり着いたのは、庶民の味方の低価格ショップ。しまはらだった。
「うわぁ~~~っすごい…っあ、あの服可愛い…っ」
いや、私は全然助かるんだけど…こんなとこデートじゃなくてもいつでも来れそうなのに…。私の財布事情を気使ってくれたのかな…
キラキラとした顔つきであちらこちらを見て回る華那ちゃん。
「遥さーんこっちこっちーっ!」
「はーい、今行くよー」
まぁ、楽しそうだしいっか。
「これ着たいんだけど、どこで着替えるの?」
「あー、あそこで着替えるんだよ」
「わ…本当にあんな感じなんだ…」
華那ちゃんはぼそっとつぶやき
「じゃああたし、着替えてくるねっ」
そう言い残し、試着室へ向かった。
試着室ってだいたいあんなもんじゃないのかな…?…まあ確かにしまはらのはほかに比べると狭いかも…?
試着室のカーテンが勢いよく開く音がし、
「じゃーんっこれ、どう?似合ってる?」
いつもの膝上の制服と違い、色白な太ももが露わになったショートパンツ姿は、彼女のスラッと伸びた足と相まってとてもよく似合っている。
「うんっ!いつもと雰囲気違っててすごくいいと思う。可愛いっ」
ぽっと頬が赤く染まり、
「なっ…も、もー遥さんそういうとこだよ…」
試着室のカーテンで恥ずかしそうに顔を隠す華那ちゃん。
…?私何か変な事言ったかな?
「じゃ、じゃあ次のに着替えるから遥さんちょっと待っててっ」
そう言って再び完全にカーテンを閉ざす。
「うん、近くにいるね」
華那ちゃんが着替え終わる間、付近にある小物売り場に目を通す。
あ、このバレッタ…華那ちゃんに似合いそうかも…
丁度色違いで2つあるし、お揃いで買ったら、華那ちゃん、喜んでくれるかな…
ちらりと試着室の方を確認すると、まだ華那ちゃんが出てくる気配は無い。
急いでレジへ向かい、会計を済ませる。
わ、なんか…っ人にプレゼントするのなんか久しぶりだから…急に恥ずかしくなってきた…。
試着室に戻る途中、ふと向かいのビルの街頭モニターが目に入った。ニュース番組を放送しているようで、アナウンサーの男性がしきりに口を動かしているのが聞こえるが、何を言っているかまでは聞き取れない。
次の瞬間、私は目の前の映像に目を疑った。
『朔月ホールディングス社長令嬢 行方不明』という字幕と共に映し出された写真は、今この場所に一緒に来ている華那ちゃんその人だった。
「…華那…ちゃん…?」
目の前の映像が理解出来ず、立ち尽くしてモニターを食い入るように見入っていた。
やっぱり、見間違いなんかじゃない、あの写真の子…どう見たって華那ちゃんだ。…よく考えたら、華那ちゃんが来てからは全然テレビのニュース番組なんか見てなかったから知らなかった…
「…遥さん…」
声に驚き振り返ると、華那ちゃんが立っていた。
「…あーあ、心配しないでって伝えてたのに…」
後ろの街頭モニターを睨んで吐き捨てるように呟く華那ちゃん。
「華那ちゃん…あの…あれって本当に華那ちゃんなの…?」
「…遥さん…今日はありがとう、楽しかった。あたし行かなきゃ」
笑顔でそう言い残し、背を向け走り出す華那ちゃん。
「あ…っちょ、ちょっと華那ちゃん!?――痛…っ」
急いで後を追おうとするが、ヒールが折れて一瞬目を離しているうちに、華那ちゃんの姿はどこにも居なくなっていた。
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