第4話 初めてのデート

「遥さーーんっ!」

会社から出てすぐ、聞き馴染みのある声に呼び止められ、足を止める。

声の方を向くと小走りで駆け寄って来た華那ちゃんは、私の腕にするりと自身の腕をを通し、流れるように腕を組んだ。

「行こっ遥さんっ」

にっこにこな笑顔での誘いをを断れるはずがない。

半ば無理矢理の約束ではあったが、私達はこれからデートをすることになっている。

「よしっじゃあ今日は華那ちゃんの行きたいとこ行こっか」

「えっいいの…!?」

「最近お世話になりっぱなしだったしね、どこか行きたいとこある?」

デートの間くらい華那ちゃんを帰す事とか、親御さんの連絡の事とかは忘れておこう…

「わーっ嬉しいっじゃあえーっとねー…クレープ!食べてみたいっ」

「もちろんっ」

ぱぁっと表情が明るくなると、

「あたし、他にも行きたいお店があるの!あと映画も見てみたいし…あとっ、あとはえーと…っ」

「あはは、まだ時間はあるんだしゆっくり決めたらいいよ。明日は休みだから今日はとことん付き合うよ。じゃあ…まずはクレープからでいい?」

「うんっ!!」

余程嬉しいのだろうか、こんな華那ちゃんは見たことが無い。


「わぁ~~~~~っ!」

クレープなんて何年ぶりかな…

「華那ちゃんはどれにする?」

「こんなに種類あるんだ…うーーん。

生クリーム納豆かツナクリームチーズか…」

「そんな悪ノリで考えたみたいなクレープでいいの!?」


勢いよく頬張る華那ちゃん。

「んんんークリームがツナと合ってておいひー」

選ばれたのはツナチーズでした。

「美味しいならなによりだよ」

「次…行きたいお店があるんですけど…」

「いいよいいよ、好きなとこ言って。今日はお礼のつもりだから」

「ありがとうっ遥さんっ」



「…………来たかった所って…ここ……?」

こくこくっと首を上下に振り、キラキラとした瞳で店内を見回す華那ちゃん。

華那ちゃんから案内され、たどり着いたのは、庶民の味方の低価格ショップ。しまはらだった。

「うわぁ~~~っすごい…っあ、あの服可愛い…っ」

いや、私は全然助かるんだけど…こんなとこデートじゃなくてもいつでも来れそうなのに…。私の財布事情を気使ってくれたのかな…

キラキラとした顔つきであちらこちらを見て回る華那ちゃん。

「遥さーんこっちこっちーっ!」

「はーい、今行くよー」

まぁ、楽しそうだしいっか。

「これ着たいんだけど、どこで着替えるの?」

「あー、あそこで着替えるんだよ」

「わ…本当にあんな感じなんだ…」

華那ちゃんはぼそっとつぶやき

「じゃああたし、着替えてくるねっ」

そう言い残し、試着室へ向かった。

試着室ってだいたいあんなもんじゃないのかな…?…まあ確かにしまはらのはほかに比べると狭いかも…?



試着室のカーテンが勢いよく開く音がし、

「じゃーんっこれ、どう?似合ってる?」

いつもの膝上の制服と違い、色白な太ももが露わになったショートパンツ姿は、彼女のスラッと伸びた足と相まってとてもよく似合っている。

「うんっ!いつもと雰囲気違っててすごくいいと思う。可愛いっ」

ぽっと頬が赤く染まり、

「なっ…も、もー遥さんそういうとこだよ…」

試着室のカーテンで恥ずかしそうに顔を隠す華那ちゃん。

…?私何か変な事言ったかな?

「じゃ、じゃあ次のに着替えるから遥さんちょっと待っててっ」

そう言って再び完全にカーテンを閉ざす。

「うん、近くにいるね」

華那ちゃんが着替え終わる間、付近にある小物売り場に目を通す。

あ、このバレッタ…華那ちゃんに似合いそうかも…

丁度色違いで2つあるし、お揃いで買ったら、華那ちゃん、喜んでくれるかな…

ちらりと試着室の方を確認すると、まだ華那ちゃんが出てくる気配は無い。

急いでレジへ向かい、会計を済ませる。

わ、なんか…っ人にプレゼントするのなんか久しぶりだから…急に恥ずかしくなってきた…。

試着室に戻る途中、ふと向かいのビルの街頭モニターが目に入った。ニュース番組を放送しているようで、アナウンサーの男性がしきりに口を動かしているのが聞こえるが、何を言っているかまでは聞き取れない。

次の瞬間、私は目の前の映像に目を疑った。

『朔月ホールディングス社長令嬢 行方不明』という字幕と共に映し出された写真は、今この場所に一緒に来ている華那ちゃんその人だった。

「…華那…ちゃん…?」

目の前の映像が理解出来ず、立ち尽くしてモニターを食い入るように見入っていた。

やっぱり、見間違いなんかじゃない、あの写真の子…どう見たって華那ちゃんだ。…よく考えたら、華那ちゃんが来てからは全然テレビのニュース番組なんか見てなかったから知らなかった…

「…遥さん…」

声に驚き振り返ると、華那ちゃんが立っていた。

「…あーあ、心配しないでって伝えてたのに…」

後ろの街頭モニターを睨んで吐き捨てるように呟く華那ちゃん。

「華那ちゃん…あの…あれって本当に華那ちゃんなの…?」

「…遥さん…今日はありがとう、楽しかった。あたし行かなきゃ」

笑顔でそう言い残し、背を向け走り出す華那ちゃん。

「あ…っちょ、ちょっと華那ちゃん!?――痛…っ」

急いで後を追おうとするが、ヒールが折れて一瞬目を離しているうちに、華那ちゃんの姿はどこにも居なくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る