第2話 彼女の秘密

「……け…っこ……ん…?」

「うんっ♡」

いや、いやいやいやうん??

ちょっと待って?聞き間違い?私の頭が悪いのかな??

無い頭をフル回転させて必死に考える。

「あっ!あー…あの…血の跡の…?」

「それは血痕」

「断る時に使う…?」

「…それは結構」

「敵の攻撃から身を守る…?」

「……それは結界」

まだ他に該当するものが無いか考えを巡らせる私を大きな溜息で制する華那ちゃん。

「遥さん、あたし本気だから。本気で結婚してほしいと思ってるから。」

あまりに真剣な顔つき、凛とした雰囲気に呑まれそうになる。

「結婚って……私たち昨日初めて会ったんだよ…?」

ようやく口から出た私の言葉。

「うん。でも遥さんは覚えてないんでしょう?だから、もう1回最初からやり直そうと思って」

しかし彼女はものともしない。

やり直すって…私…一体…昨日…この子と何が…

『湯はりが完了しました』

唐突に給湯器から無機質な声のアナウンスが入り、私は体をビクッと震わせる。さっきまでの真剣な顔が嘘のようににこっと笑う華那ちゃんは、

「さっお風呂入ってきなよ遥さんっ」

「えっ!?ちょ、いや、まだ話は…」

「いいからいいから、早く入んないとお湯冷めちゃうしっ!ねっ!」

ぐいぐいと腕を引かれ、脱衣所に連れ込まれた。

「じゃっごゆっくりー」

扉を閉めながら手を振る華那ちゃん。

なんという力というか、なんて強引というか…

「はー…」

考えが全然追いつかない。華那ちゃんはどうして私を…?

同性での恋愛を否定している訳では無い。でも、だからって私がそうな訳では無いのだ。ましてや相手は未成年の高校生。

たった一晩で…華那ちゃんに…あんなに若くて危うい子に。結婚を決意させるなんて…

忘れてしまっている自分に心底嫌気がさして深いため息を吐いた。

…お風呂で考えを落ち着かせよう。

着ていた衣服を脱いで体を洗う。

思えば、お湯をはったのなんかいつ以来だろう。いつもシャワーで軽く流してしまう程度ですっかり飾りとなっていた浴槽。

ゆっくりと湯船に体を浸けて伸びをする。

あったかくてきもちいい…

…はーっ……私どうしたら…

既に答えは決まっている。だって私にその気は全く無いのだから。いつまでもここに置いておく訳にもいかない。きっと、親御さんだって心配しているはずだ。

私からちゃんと連絡するべきよね…

というか今日ちゃんと帰ったのかな…服が制服だからわかんなかったけど…

………うん。やっぱり付き合うなんて考えられない。悲しませるだろうけど…だからってずるずる先延ばしにしてちゃダメだ。はっきり断ろう。

そう決意して、勢いよく湯船から立ち上がった。


「華那ちゃーんごめんね先に入っちゃって、華那ちゃんもお風呂入って――」

髪を乾かし終えて、リビングへ向かうとすでに華那ちゃんは私を背にしてベットに横になっていた。

寝てる……?

ゆっくりと近づき、そっと顔を覗き込むとすやすやと寝息をたてていた。

時刻を確認するともう2時になろうとしていた。

「ありがとう」

そう呟き、そっと布団を掛ける。

さすがにこんな時間に電話するのは迷惑だけど…心配されてるかもしれないし…。

LIMEだけでも送っておかないと…

机の上に置かれていた、華那ちゃんのスマホを手に取り、電源を付ける。幸いロックはかかっていないようだ。

勝手にこんな事するのは気が引けるけど…

連絡先をタップし、一覧から家族のものであろう連絡先を探そうとした。が。

「……あれ?」

LIMEはもちろん、連絡先にも登録されている番号は1件も無かった。

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