アラサーOLの私がJKにプロポーズされました。

まかろに

第1話 プロポーズ

 頭痛い…っ

 ズキズキとした猛烈な頭痛で目が覚めた。

「昨日呑み過ぎちゃったかな…」

 カーテンの隙間からこぼれる朝日が丁度顔を照らしている。朝日を浴びても尚、頑なに閉じようとする瞼をこじ開けて、のそのそと枕元のスマホを付けて時刻を確認する。

 時刻は午前8時半、会社の始業まで残り30分。全身から血の気が引く感覚がした。

「やっっっっば!!!今日朝から会議!!」

 がばっと勢いよくベットから起き上がると、はだけた自分のスーツ姿が目に入った。ろくに着替えもせず、そのままで寝てしまったらしい。

 という事はきっとろくに化粧も落としていないだろう。

 あぁあ最悪だ!!会社のトイレでメイクはするとしてとりあえず着替えて行かないと!!

 ベットから出ようとしたその時、異変に気づいた。

「―え…?誰…この子……」

 決して広くはないシングルベッドに私以外にもう1人居る。すっぽりと頭まで布団を被っているせいで顔は分からないが。

 どうりで狭かった訳だ…

 なんて考えている場合では無い。

 きっと呑んだ帰りに同僚が泊まったのだろう。

「ねぇ!ちょっと、起きて!時間やばいよ!」

 彼女はゆっくりと起き上がる。

「―――――は?」

 同僚がだろうとたかを括っていた私の目に飛び込んできたのは、はだけた制服姿の女子高生の少女だった。

 え?待って???どういう事???

 この女子高生ダレ?

「おはよぉ……」

 ふぁーと呑気に大あくびをする彼女。

 え…私…酔っ払って部屋間違っちゃった…!?

 辺りを見回すと、脱ぎ散らかした見慣れた服や、ゲーム、机に並んだ缶やカップ麺の空。

 間違いない。ここは正真正銘私の部屋だ。

 という事はこの子誰!!!??私他所の子連れ込んじゃったの!?

ズキンと頭を殴られたような痛みが走る。

 ―痛…っ~~~ダメだ…っ全然思い出せない…っあぁ今そんな事してる場合じゃない!!

「これっ!鍵置いとくから!出たら鍵閉めてポストに入れといて!」

 バタバタと準備をしながら、彼女にそう言い残し、私は女子高生の返答を待たずに急いで会社へ向かった。



「はぁ~~………っ」

 案の定、部長の逆鱗に触れた私はいつもの倍の仕事量を押し付けられ、オフィスに1人残っている。ふと時刻を見ると、もう10時を回ろうとしていた。

 あの子…ちゃんと帰ったかな…

 ぶっちゃけあの子の事が気がかりで、仕事など手につかなかった。…二日酔いの頭痛のせいでもあるけど。

 安っぽい座り慣れた椅子に深く腰掛けて天井を眺めながら、ぼんやりと今朝の彼女に想いを馳せる。

 それにしても…かわいい子だったなぁ…

起きたてで癖のついたセミロングの少し茶色掛かった髪に、見つめられるとドキッとする様な、灰色がかった不思議な色の瞳――

「あーっもうやめやめっ!」

 とりあえず、キリもいいし今日は帰ろっ。

 自分の荷物をまとめて、会社の外に出ると大粒の雨が降っていた。

 最悪だぁ…今日に限って折り畳み傘も無いし…。はぁ…近くのコンビニまで走るかぁ…

 覚悟を決めて、走り出そうとしたその時。

「遥さんっ」

 急に呼び止められた。

「えへへ、一緒に帰ろ?」

「け、今朝の女子高生!?どうしてここに!?」

 不満そうに近寄ってくる女子高生。

「部屋で名刺見つけたからそれで…じゃなくて!もーっ!昨日名前で呼んでって言ったじゃん!華那だよっ?」

 ぷくーっと頬をふくらませる華那と名乗る少女。だめだ、全然思い出せない。それが伝わったのだろうか。不安げに顔を覗き込んでくる華那。

「もしかして…昨日の事覚えてない…?」

 うるうるとした瞳で見つめられる。こんな子に嘘つく方が不誠実だよね…。―いや、連れ込んでる時点で充分不誠実なんだけど…

 頬をポリポリとかきながら

「うん…ごめんね…本当に申し訳ないんだけど…お酒の勢いもあって…覚えてないんだ…本当にごめん」

 頭をさげる。

 長い沈黙。

 チラリと華那ちゃんの顔を見ると、明らかに顔が曇っている。あぁこんないたいけな少女になんて申し訳ない事を…っ昨日の自分を殴りたい…っ!

「顔…上げて、遥さん…」

 おずおずと顔を上げると、強がっているのだろうか…先程の曇った表情から一変、満面の笑みで微笑んでいる。

「あたし、ご飯作って来たんだっ

 お腹…減ってるよね?帰って一緒に食べよ?」

「…うん…っ」

 気まずさはあったが、あのまま追い返す訳にもいかない。2人で相合傘をして帰路に着くことにした。

 帰り道で、華那ちゃんは昨日のことを深く追求したり、怒ったりする事は無かった。



「はーーっ美味しかったーっ!」

「えへへ、気に入ってもらえてよかったーっ」

 ニコニコと微笑む華那ちゃん。

「じゃあ、あたし片付けちゃうね」

「あっいいよ私がやるよ!華那ちゃんは座ってて!」

 食器を持とうとした手を制して、食器を運んでいると

「じゃあ、あたし代わりにお風呂入れてきますね」

「あ、座ってていいのに…っ」

「ううん、この位させて?」

 そう言ってパタパタと風呂場へ向かう華那ちゃん。

 この位って…あんなに服とカップ麺の空で埋め尽くされてた部屋を片付けたり、溜まってた洗濯物、夕ご飯まで作ってくれてたのに…っ

 これじゃどっちが年上なんだか分かんないな…

「はーるかさんっ」

「わあっ」

 がばっと後ろから抱きつかれた。な、なにこの可愛い生き物…っ

「えへへーはーるかさーん」

 顔は見えないが、声色で嬉しそうなのが伝わってくる。

「もー、そろそろ終わるから、あっち行ってなさい」

「はーい」

 渋々離れてリビングへ向かう華那ちゃん。

 女子高生…というか人に触れてもらうのって久しぶり…あんなに温かいんだ…

まだどきどきしてる…

 なんて考えながらリビングへ戻ると、華那ちゃんは正座で待ち構えていた。

「ど、どうしたの…!?」

 さっきまでと違う、真剣な顔でこちらを向く華那ちゃん。

「遥さん、あたし、言いたいことがあるの」

「な、なに…?」

 …あ、今日使った食費とか返せって事かな!?やばい今財布にいくら入ってたっけ…

「あたしと、結婚を前提に付き合ってください」

「……………………………………え?」

思考停止したのは言うまでもない。

「…ていうかー…結婚しよ?」


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