戦場で武器紹介は止めましょう (容赦ねえなお前……)
「罠に嵌められた、か。ノア、どうやらその予想は大当たりだ」
「当たって欲しくはありませんでしたね……」
メイソンが俺達と離れてから屋敷に隣接している森の中から足音が聞こえる。
音の大きさと数、からして大体四人編成の部隊が二つ、と言ったところか。
吸血鬼の弟の方にまんまとやられた……。冷静になってみたら「吸血鬼の姉弟」がでたらめに強いとはいえ、いくらなんでも彼等だけで名門貴族の令嬢を誘拐しに来るわけがない。
「ハンク一正、フェイは血を飲んだ対象の能力を一部使用できると思われます。たぶんティファニーさんの血を飲んだのは……」
「自分が捕まらないように、長い時間おとりになるためか……!」
フェイの目的は戦力の分散だったのだろう。メイソンを挑発してスージー令嬢からあいつを引き離すこと、そして俺達の部隊が別れたところを叩く。
……あいつらは……ガーロの特殊部隊は敵の戦力を分散させて各個撃破するのが得意戦法だったな。
「おい、そろそろ出て来たらどうだ?かくれんぼに付き合っている時間はないんだ」
がさがさと何かが森の中で動く音。どうやらあいつらも我慢の限界が来たらしい。
「はっはっはー!ここで会ったが百年目よ!ハンク!」
森の中からガーロの特殊部隊の隊服を着た部下を引き連れて出てきたのは、短い金髪の馬鹿面をした、低身長の女だった。
「お仲間が全員ヘルメットにガスマスクって装備してるのに、お前だけ頭さらしてていいのか?レベッカ」
「ふん……こうでもしないと私だと分からないでしょう?」
「お前の馬鹿面を見るのは精神衛生上良くないから、黙ってガスマスクつけてな」
そういうと幼児体型の金髪の女は、湯で海老みたいな色になって地団駄を踏んでいた。
「友達ですか?ハンク一正」
「そうだったら最悪だな。幸いなことにあいつは赤の他人だ……ちょっと一年前に銃を向け合っただけだ」
「一年前……メイソン一正が婚活パーティーに参加できなくなった年と一緒ですが、何かかかわりが?」
シャーロットから聞いてたけどこいつマジで恐れ知らずだな。隣に立っている白髪の黒魔術師を見てそう思った。
「ああ、あるよ。こいつはレベッカ・チェスター。ガーロの特殊部隊の隊長……だと思ってるアホ娘だ」
「そこ!聞こえてるわよ!訂正しなさい!」
レベッカが大声で俺に対して抗議してきたが、とりあえず無視する。
「あの時は確かにただの隊員で特殊部隊ですらなかったけど、今や私はガーロの特殊部隊『墓場の夜』の第五隊を指揮する、立派な隊長よ!」
えっへんと無い胸を張るレベッカを横目にノアは
「金ですか?」
「金だろうな」
「ちがーう!」
レベッカはガーロではかなり有名な貴族家である『チェスター家』の三女と、前に司令部から渡された情報に書かれていた。恐らく、彼女の今の地位はチェスター家からの軍に対する『寄付金』によって手に入れたものだろう。
それをたぶん認めたくないのだ。今の俺のように。
「子供に銃を向けるのは忍びないですね」
「ノア、あいつは26だ。お前より一回り年上だ」
「子供って言うなー!」
それにしてもこんなのにつき合わされている隊員達可哀想だな……レベッカの後ろで銃をこちらに向けたまま、指示を待っているガーロの隊員達を見てそう思った。
「それに、今の私はこれがあるから最強よ!」
そういって彼女が腰に下げていたホルスターから抜いたのは普通の拳銃より一回り、いや二回りほど大きい、大型拳銃だった。
「私の愛銃、『R4・ソード』!普通の弾丸より多くの火薬を詰めた強力なマグナムを発射可能な最強のハンドガンよ!装填数は四発と少なくとも一発の威力が桁違い!さあ、これで膝を砕かれるか、自分から膝をついて私のマグナムをしゃぶりやすくするか選びなさい!ふへへへへ……周りに見られている状況でするってのも……なかなかこうふ……」
「うっさい!」
乾いた発砲音と共に衝撃を受けて後ろに吹き飛ぶレベッカ。え、俺撃ってないぞ……誰が一体レベッカを……
「すみませ~ん、お茶を楽しんでたらちょっと遅れちゃいました~」
「おせえぞジェシィイイイイイイ!」
俺の真後ろに立っていたのは緑髪に眼鏡のいろいろ酷い後輩、ジェシーが立っていた。遅れるなんてもんじゃないぞてめえ!
「ま、説教は後にして下さい、いまはこいつ等を片付けるのが先です」
「……相手は七人、そしてこっちは戦えるのが三人。しかもティファニーと令嬢を守る必要がある」
そういうとジェシーは眼鏡を外して、
「私なら余裕です」
そこからは一瞬の出来事だった。ジェシーが何かぶつぶつと呟いた瞬間、地面から大量の鈍い赤色に光る鎖が湧き出し、あっけに取られている特殊部隊員を縛り持ち上げて、地面に叩き付けた。
骨が折れる音、うめき声、血溜まり。……ってちょっと待て。
「え、お前ほんとにジェシー?」
「え、あ、はい。正真正銘ジェシー二正ですけど?」
「俺の知ってるジェシーはさ、いろんなことがテキトーで面倒ごとを部下に押し付ける、典型的な駄目人間な魔術師なんだけど……」
「?誰ですかそいつ?」
お前だよ!お前のことだよ!
「女の……子?」
「いや、違う、こいつはさっきまで確かにフェイだったはずだ。間違えるなんてことはありえない。それはお前と私がよく分かっているはずだ」
そうだけれど……今、私の目の前にいるのは何処からどうみても金髪の女の子だ。
「変身魔法を使ったのかも。解除を試してみます」
コリン君が右手に魔方陣を展開し、倒れている女の子(?)の顔にかざした。
しかし、一切変化は無かった。コリン君が悔しそうに魔方陣を解除する。
「駄目です、変身魔法を使ったわけじゃないのかも」
「むう……とりあえず、こいつを起こしてみよう」
メイソン一正が倒れてる女の子のおでこに触れた。するとさっきまで顔が青かった女の子にみるみる血の気が戻っていき、やがてうっすらと目を開けた。
「……うう、ここは?」
女の子が虚ろな眼で私達を見てくる。その目はフェイとよく似た赤色だ。
「その前に、聞きたいことが一つあるの。……金髪赤目の馬鹿面黒パーカーのガキ見なかった?」
あいつ、私のことを半分とか言ったの、許さないからな。
「金髪……赤い目?馬鹿面……?」
そこまで聞いた女の子は急に立ち上がったかと思うと、そのまま流れるような土下座を私達にかまし、
「うちの弟が!本当に申し訳ありませんでしたーー!!」
とりあえずおちつけ。
「ねえ、ちょっとスージーいい?」
「どうしたのシェリー?」
「私さあ……忘れらてない?」
「……気にしたら負けですわ」
「私……ノアといい勝負したのに……見せ場なしかよ……あの眼鏡が全部持って行きやがった」
闇魔術師が軍に入った結果 六枚のとんかつ @rokuton0913
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