メイソン一正の因縁 (誰がBBAだ!)

「お前にはな…どうやっても許せないことがある…」

メイソン一正が腰に下げていたサーベルをゆっくりと鞘から抜き、決闘を申し込むように、黒パーカーの金髪少年を指した。

「へえ…俺に対する許せねえ事ねえ…そいつは一体なんだってんだ?」

金髪の少年があざ笑うかのように、両手をWの形にしてメイソン一正にふざけた口調で聞いた。


「分かった…一年前、お前がガーロの工作員じゃなく、賞金稼ぎとしてこの国の敷居をまたいだことは覚えているわね…」

「ああ、勿論だよメイドさん♪それがどうしたってんだ?」

金髪の少年が体を大きく曲げて聞いた後、メイソン一正の持っているサーベルが震え始めているのが確認できた。

…まさか…メイソン一正…大切な人をこいつに殺されてるんじゃ…


「ふざけないで…お前が面倒ごとを起こしたせいで…」

「…せいで?」

メイソン一正が荒々しい呼吸をした後、サーベルを強く握り、


「私は婚活パーティーに参加できなくなってしまったのよ!」


…………ええ……。

「お前のせいで…去年なら私はまだ29だったから…『二十代でーす☆』と言う詐欺まがいなテクニックもできたと言うのに…もう私は30の壁を越えてしまったんだよ…。年的にも去年がラストチャンスだったのに…責任を持ちなさい!」

いや…それは…

「…なあ、逆恨みって言葉知ってるか?使う頻度多い言葉だから知っておくといいぞ…。あと…29で『二十代でーす☆』は無い…。29はアラサーだ…。」

おい!吸血鬼!まったくもってその通りだけど!お前が言っちゃいかん!


「…殺す。」

メイソン一正が負の笑いをしながら、濁りきった目で金髪の少年を見つめた。

「あと…姉ちゃんとか言ってたけど…30かよ…やばい…死にたくなってきた…。」

お前は黙れ!吸血鬼!ほんとに死ぬぞ!


「メイソン一正!彼の言う言葉を言い換えるなら、実際より若く見えるって事ですよ!まだまだチャンスはあります!人の十倍ぐらい!」

「そ、そうか…?」

よし…少し元気出てきたみたいだな…濁った目に少しだけ輝きが戻ってきた。

この上司、めんどくさ!


「実際より若作りしてるってことですね!」

ん?なんかとんでもない発言が聞こえたぞ?声の方向を見ると…アホ面の白髪バカ黒魔術師が立っていた。

「スキャン魔法を使えば分かります!肌年齢とか、髪質とか…あら、髪染めてるんですね!青髪は人気ありますもんね!」

ノア、黙らないと漏れなく死が訪れるぞ…。


「…シャーロット…金と白って赤があうわよね…」

どういう意味だよ…メイソン一正…金髪と白髪のアホはここにいるけど…赤は何だよ…察しはつくけど…。

「…フェイ…だったかしら?」

「そうだよ、フェイ・ハワード、覚えていてくれて嬉しいね。」

メイソン一正にフェイと呼ばれた金髪の少年は、本当に嬉しそうに笑った。


「フェイ、私はいまからあなたを任務と称して、私怨で叩きのめすわ。」

任務に私怨は禁物だぞ!メイソン一正!

「ほーうそいつはいいが…さすがにこの人数相手に戦う気にはなれないな…なんせ一人潰したとはいえ…まだ五人と半分残ってる…。」

半分って誰だ、コリン君か、コリン君だな!?

「その半分ってこの子であってるー?」

ノアが急に会話に割り込んできた。…おい、なんで私を指差しているんだ!

「うん、そいつ。」

…よーしぶちのめす。


「ってわけでよ…じゃあな!」

そういった瞬間、フェイは嫌味の無い笑顔を浮かべて、全速力で逃げていった。

「…えっ…」

「…は?」

あまりにも一瞬のことであっけにとられる私達。フェイの背中がどんどん小さくなっていく。…ええ?そりゃ…ないでしょ。


「何やってんですか!追いますよ!」

「「はっ!はい!」」

私とメイソン一正は、一番年下のコリン君に背中をおもいっきりぶったたかれ、ようやく我に帰った。…駄目な先輩だな…私…。




「ハンク一正、シャーロット達…行っちゃいましたね…。」

「ここで部隊が分断されるのは避けたかったな…。」

シャーロットとメイソン一正、そしてコリン君が行ってしまった今、首元を押さえてうめき声を上げているティファニーさんと、護衛対象であるミシェル家の令嬢を僕とハンク一正で守らなきゃいけない。…相手によってはまずいかも…。


「あのガキを三人で追ったのは悪手だったかもな…メイソンかコリンだけで十分だ。

…メイソンだけだとあのガキが五体満足かは怪しくなるが…。」

ハンク一正が苦虫を噛み潰したような顔をした。けど…

「フェイって人、とんでもなく身体能力が上がってましたよ。」

「どういうことだ、ノア?」

「正確には…素早さと魔力量がとてつもなく上昇してました、スキャンを使ったから分かるんです。本来の能力ではないって。それに…能力がそっくりでした…まるで…に…。」

ここまで言ってはっとした。


「ハンク一正…もしかしたら…僕達は罠に嵌められたのかもしれない…。」




「くそ!全然おいつかない!てかジェシーの馬鹿は何をやっているのよ!」

長時間の追跡で息も切れてきたメイソン一正が私に聞くようにそういった。

…胸が…ゆれている。…私には…ない…。…はっ!憎悪に駆られている暇は無い!

「なんか『いい紅茶があるみたいだからご馳走になってくる~。』とか言ってましたよ!」

「私達が息も絶え絶えに走ってるのに…あいつはティータイムかよ!」

うわ!腹立ってきた!優雅に紅茶をのんでいるジェシー二正想像したら腸が煮えくり返ってきた!

「あんな…不真面目な奴が…なんで私より先に彼氏できるんだくそおおおおおお!」

うわ…メイソン一正の走るスピード…急に上がった…。あっという間にメイソン一正の背中が小さくなっていき、フェイとの距離も縮まっていっている。


メイソン一正が全力で走っていった数秒後、私の顔に何かのしずくがかかった。ぬぐってみるとその色は透明だった。なめてみるとしょっぱい…。

「…涙かな?」




「…まだ追いかけてくるのかあのBBA…。」

それにさっきよりも走るスピードがかなり上がっているように見える。

にしても今回の仕事は随分とチョロいな…これで五百万か…

「ただ、軍人と鬼ごっこすればいいだけなんてな…。」

今回の俺の仕事は部隊の分断、その隙に軍の奴等がミシェル家とか言う家の令嬢をさらうらしい。つっても関係ねえけど。


余裕だな~と思っていた次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み始めた。

「嘘だろ…。」

全身の力が抜けていき、立っていることさえも困難になった。情けなく両膝と両手を地面につく。自分の体から煙が出ているのが見えた。

おいおい…ここでのかよ!

意識がだんだんと定まらなくなり、やがて支えを失った人形のように俺は地面に倒れてしまった。




「どうなってるのよ…。」

「どうゆうことなの…。」

メイソン一正が憎悪の力で全力で追いかけていたところ、全身の力がぬけたかのように急にフェイが倒れた。

しかし、倒れていたのはあの金髪で生意気な顔をしていた少年ではなく、

「うう…。」

長い綺麗なブロンドによく整った顔立ちをした少女だった。



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