酷い作戦と吸血鬼の姉弟 (ふざけてるのか)

「あー…お二人が仲がいいことは良く分かりました。スージー令嬢、そろそろ移動をお願いしたいのですが…。」

私達のいる部屋のドアが開き、入って来たジェシー二正が珍しく丁寧な口調でそういった。この人、仕事の事になると真剣になんだよな。

「スージーでいいわよ。そうね…少し着替える時間を頂けるかしら…。」

「ああ、それでしたら申し訳ないのですがこの服に着替えていけないでしょうか。」

ジェシー二正が取り出したのは私達が着ている軍服だった。


「この隊には子供が多い。同じ格好をすればとてもあなたの護衛中とは思わないでしょう。」

だれが子供だ。

「確かに…その通りね。そうさせてもらうわ。ただし…一つだけ条件があるわ。」

スージーは少し、息を溜めて一言。


「ハンク様、着替えさせてください!」

「ぶふぉ!?」

うん、そら吹き出すよな。ハンク一正、見た目に反してもうアラサーだもんな…。


「ハンク一正、彼女は貴族です。軍服の着方などご存知ないでしょう。私達は失礼しますからその内に…ぷぷぷ…。」

「ジェシー、お前が男だったら殴ってる!」

「ほら、時間が惜しいですよ~。はやくはやく~。」

二人の喧嘩を遠い目で見ていたとき、悪魔は現れた。


「何をしている…。」

怒気をはらんだ声が聞こえ、恐る恐る振り返ると後ろには悪魔、鬼、もといメイソン一正が立っていた。

「時間が無いんだぞ!それなのにお前らはちんたらと…なにイチャイチャしてんだ!今もガーロの特殊部隊が迫っているんだぞ!」

メイソン一正、少し僻み入ってないですか?


「あ、メイソン一正来ていただけましたか。ではこちらの服に着替えてください。」

「ああ?なんだこの…はあああああああ!?」

そら絶叫しますよね。怒っている最中なのにミサイルぶち込まれたんですもん。


怒っているメイソン一正を無視するかのように、ジェシー二正がバックから取り出したのは…メイド服だった。


「ふざけてるのかあああああああ!」

「いえ…ふ、ふざけてませ…い、息が…けこっ!」

(注:ジェシー二正はメイソン一正に首を絞められているわけではありません。

笑いすぎて息が出来なくなっているだけです。)

メイソン一正のメイド服…ありだな…。


「なるほど、確かにメイソン一正のような怖い人が歩いていたら注目されますもんね。メイド服で印象を操作するのはいいアイデアだと思います。」

ノア、貴様はバカなのか?ねえ、ほんとにバカなのか?

「ほう…私が怖いか…。」

「はい!怖いです!」

満面の笑みで言う台詞じゃないぞ!お互いに!


「分かったよ…着てくるからちょっと待ってろ…。」

「着るんですか!」

メイソン一正がメイド服をひったくるように受け取り、部屋の外に出て行った。

そして、その直後だった。


「ぎゃあああああ!…あっ…ああ…」

空気を引き裂くような、ティファニーちゃんの悲鳴が屋敷の外から聞こえてきた。


「何事だ!」

「何でもう着替え終わってるんですか!」

「魔法を使った!急ぐぞ!」

メイド服でこの人戦うのかよ!




ちょっと前…


「あいつら…まだ話し合ってるのか!様子を見てくる!お前らは待機してろ!」


ハンク一正達が屋敷に入ってからまだ十分もたっていないのに、メイソン一正が怒ったような口調で私達、コリン一正もといコリン君と私を置いて屋敷の中に入っていきました。


「なかなか不安ですね…ジェシー二正もさっき入っていきましたし…皆さんが戻ってくるまで私達でなんとか出来るものでしょうか?」

コリン一正、違った、コリン君にそう聞くと彼は少しだけ笑ってこう返しました。

「大丈夫だとおもうよ、自慢じゃないけど僕もそんなに弱くはない。それはティファニーさんにも言える。」

「そう言っていただけるとありがたいです…。」

「なに、ただ事実を言っただけだよ。」


そういったコリン君はとても大人びて見えました。…年下なのに格好いい戸思ってしまいます。

いけません。お姉さんとしてしっかりしないと!


「今回のミッションは貴族の護衛と聞きましたが…なぜこんなに人が多いのでしょうか?一正が二人なんて聞いたことがありませんよ?」

「護衛対象がミシェル家だからね…軍としては信頼を失うわけにはいかないんでしょ。あと吸血鬼の姉弟って言うガーロの傭兵がいるらしいからね…。」

「本当に吸血鬼なのでしょうか?」

「さあ…血を飲む性癖でもあるだけじゃない?」


「俺の噂をしてるのか?」

コリン君が勢い良く振り返り、太もものホルスターからNTR-6Pを取り出し声の方向に数発打ち込みました。

雷の様な音がして、火薬の匂いと煙が周囲に立ち込めました。


(NTR-6P…拡散するペレット弾を六発装填可能なマグナム。反動がと隙が大きいが使いこなせれば強力な武器。通称「ナトリ」

強力な武器なのだが「寝取られ6P」と言われまくり、風評被害が凄い武器。

よって人にこの武器を送るメッセージとして「あなたを襲いたい」なんてものも出来てしまった。コリンがもっている理由は後ほど。)


「いきなり人に鉛玉を打ち込むなんて…この国のガキは教育がなってないな。」


黒いパーカーとジーンズについた砂埃を払いながら暗い金色の髪をした男、年は私より少し下くらいでしょうか、私達を馬鹿にするような表情をして赤い二つの目で見つめてきました。


「ここは立ち入り禁止だ。両手を頭の上に置いて跪け、怪我をさせる気はない。」

コリン君はいつもと違い丁寧な口調から、荒っぽい口調に変わっています。

銃を構える手も相手を睨む目も、いつもの彼からは考えつかないほど変わっています。一体なにが起こってるのでしょう。


彼の構えた銃の先は、黒いパーカーの男の頭に狙いを付けています。


「その程度の武器で俺を傷つけるのは無理だ。」

「試すか?」

「試したくはないがな。」

コリン君が引き金に指をかけた瞬間、黒いパーカーの男は目に留まらないスピードで彼に近づき、一瞬でコリン君の持っていた銃を奪いとりました。


「あー?使ったことねえ銃だから良くわかんねえな…まあいいや、ほいっ!」

黒いパーカーの男は奪った銃を両手でへし折り、残骸を地面に捨て、黒いパーカーのフードを脱ぎました。隠れていた顔が完全にあらわになり、その顔は私達をあざ笑っているかのようでした。


「化け物か…戦ったことは無いが何とかする、君は隠れてて。」

コリン君が腰に刺していたマチェットを抜き、黒いパーカーの男を見たまま、後ろにいる私にそう言いました。

「私も戦えます!一人にするわけにはいきません!」

「僕がやるのは戦うことじゃない!時間稼ぎだ!君は屋敷の中の皆を呼んで!」

「…了解!」

今やることはメイソン一正達の助けを呼ぶこと、コリン君だけでどれくらい持つ

かは分かりませんが…急ぎましょう、足の速さには自信があります。


「どこに行く。」

自分の背後から黒いパーカーの男の声が聞こえました。声の位置からしてすぐ後ろにー…え…?

「逃がさねえぞ。」

後ろから腰に手を回され、身動きが出来なくなりました。そして彼はもう片方の手で私の目を隠し…視界が暗闇に包まれました。


「ミシェル家令嬢は何処にいる。」

「言えるわけ…無いでしょ…離しなさい…。」

「…分かったよ。」

その瞬間、首元に刺すような激痛が走りました。

「ぎゃあああああ!…あっ…ああ…」

痛みはすぐに麻痺しましたが、首筋を流れる暖かいものと、吸われるような口の感触でということはすぐに分かりました。


少しづつ体が火照ってきて何も考えられなくなってきました。蒸し暑い暗闇の中に閉じ込められている感じです。


あ…押し倒された…跨って…さらに…意識が…




「…レ…」

「その後に続く二文字を言ったら許さんぞ、ノア。」

そう見えるけどさあ…言うなよ…。


「不味いな…こいつが吸血鬼の姉弟だ…。」

メイソン一正はいつになく焦ったような表情をしている。


「あー?…てこの姉ちゃん去年俺達を襲撃してきた奴じゃねえか!軍からメイドになったのかー?」

え?顔見知り?

「んなわけねえだろ!クソガキ!去年は逃げられたけど今回はぶちのめす!」

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