許婚だってさ (ハンク一正、ボロボロ)
24時間後…
まだ薄暗い午前6時、私とコリン君とシェリーは城の城門の前に広場に立っていた。
「それにしても…先輩方とノアとティファニーちゃん…遅いわね…。」
「メイソン一正、昨日パトロール先の酒場で喧嘩に巻き込まれたみたいですよ?」
…あの人の喧嘩風景…人死にが出そうなんだけど。
「ノアは昨日いろんなとこ開発したから、まともに立てないでしょう♪」
何言ってんだろ…シェリー…。
「冗談だけどね♪」
「何がしたいのよ!」
広場の中央にある噴水の縁に座り、先輩方とノアとティファニーちゃんを待つ。
「すまん、待たせたな。」
最初に来たのはハンク一正だった。特殊部隊の服ではなく、普通の軍服だ。
「ちょっと!お兄ちゃん遅いじゃない!何してたのよ!バカ!」
「…言いたくない。」
あ、目元に泣いた痕だ…。…聞かないでおこう。
「すみません!遅れました…。」
「悪い、今回のミッションについて洗ってたら…もうこんな時間になっちまった。」
次にやってきたのはティファニーちゃんとジェシー二正。
「…珍しいですね、真剣に仕事するなんて。」
ジェシー二正の目元にはくまが出来ている。ジェシー二正の言っていたことはたぶん本当だろう。彼女はおそらく寝ないで仕事をしていたのだろう。
「それにしても…普段時間に厳しいメイソンが遅れるなんて…珍しいな。」
ハンク一正が私達を見てそう呟いた。確かにメイソン一正は他のミッションの時でも私達よりも早く集合場所に来るような真面目な人だった。
「何か…あったんですかね…。」
「だろうな…昨日酒場で一人飲むメイソンの姿を、非番の魔法部の三正が目撃している。あいつ…酒癖悪いからな…。」
うわ…想像したくない…。普段クールなメイソン一正が暴れてる所…。
でも…なんか面白いな、それはそれで。
ん?昨日魔法部の三正で午後非番だった奴って…
「!まさか魔法部の三正って!」
「ああ、ノアのことだ。たぶん…メイソンが起こしたトラブルに巻き込まれたな。」
「・・・。」
初めてノアに同情したわ。
「お待たせ…。」
「『吸血鬼の姉弟』を追ってたら遅れてしまったわ。」
集合時間から十五分も遅れてようやくノアとメイソン一正がやって来た。
ノアの方は少し魔力不足を引き起こしているようで、顔色が悪くぐったりとしていた。…何があったんだよ。
「お前…よくいけしゃあしゃあとそんな事を言えるな…。非番の魔法部の三正がお前が一人で飲むところを目撃してるんだよ!」
「ハンク、あの姉弟が酒場に入ったから追っただけよ。」
無理があるでしょ…。メイソン一正、鉄面皮もいいとこだな…。
「あの姉弟は情報だと17と19だぞ!?そんな子供が入るかよ!」
「ガーロでは15から飲酒が可能のはずだけど?」
「シャーロット!お前からもなんか言ってやってくれ!」
メイソン一正が「何も言うんじゃねえぞ…」というような目で睨んできたので、私は何も言う事が出来なかった。
「はいはい、先輩方そこまで。」
かなり混乱した空気を打ち破ったのはジェシー二正だった。この人、ちゃんとした人がいない環境だとしっかりするんだよな…働きアリの法則みたいに。
「そろそろ急がないと、護衛対象との打ち合わせの時間に遅れてしまいます。
コリン君、術式の準備は?」
足元を見ると、私達の足元には転送魔法の術式が描かれていた。…この環境でよく書いたな…コリン君。
「いつでも転送可能です。」
「OK。これからミッションの内容について説明します。
三日前、諜報部から隣国ガーロがミシェル家令嬢の誘拐を企てているとの情報が入りました。よって今回我々が行うミッションは彼女の護衛です。
今、コリン君に書いてもらったこれは、ミシェル家まで転送できる術式です。
行きは魔法で転送しますが帰りは、転送時に敵の妨害に会う可能性が非常に高いため、転送魔法は使用できませんし、公共交通機関も襲撃にあう可能性が高いです。
よって徒歩でこの城まで戻り、軍で彼女を保護します。
が、ミシェル家からこの王城まで直線距離で60キロメートルほどあり、夜での行動は避けたいので、大体二日ほどかかると思われます。以上です。」
「・・・。」
「・・・。」
メイソン一正…ハンク一正…ジェシー二正に役割取られてへこむのは分かるけどさ…
仕事しようよ…喧嘩してないで。
「それと…護衛対象は非常に虚弱です。注意してください。」
なんでそれを言う必要がある…。
「よし、コリン、転送して。」
メイソン一正、そこは命令したいのね。
コリン君が地面の式に手を合わせた瞬間、私たちの目の前に豪華な屋敷が現れた。
いや、屋敷が現れたのではない。私達が屋敷の前に現れたのだ。
屋敷の大きな玄関の扉の上にはミシェル家を現す紋章が取り付けられていた。
「転送、完了です。」
どんどんコリン君が最初のイメージからかけ離れていく。
「はいはいー!スージー!ひっさしっぶり~!シェリーが会いにきたよ~♪」
玄関のドアをまるで親友にでも会うかのようにガンガンノックし始めたシェリーの頭をハンク一正が力いっぱい殴った。
「痛ったいわね!なにすんのよ!」
「こっちの台詞だ!護衛対象になんて失礼な態度取ってんだ!」
「もうじき義理の妹になるんだからいいでしょ!」
何言ってるのか良く分からないな…。
「~~~~シェリー!」
突然屋敷のドアが開き、中から白いワンピースを着た白髪ロングの少女が出てきて、シェリーに飛びついた。そしてそのままハグ。…何みせられてるんだろ。
「久しぶりね!軍に入ったのね!…うらやましいわ…。私もこんな体じゃなければ…。普通に暮らせるのに…。」
少女は恨めしそうに自分の手を見つめた。彼女の肌は透き通るような白さで、目は血の色をそのまま表した赤色。
「…アルビノ…。」
ジェシー二正が言っていた虚弱と言う言葉の意味が良く分かった。
正しくは先天性色素欠乏症。この病気の人は光彩に色素がないか、少ないため、光を非常にまぶしく感じたり、紫外線に対しての耐性が極めて低いなどの症状が出る。
そのため、外出の際は日傘や日焼け止め、サングラスなどが欠かせないそうだ。
「そういえば…スージー…外、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないけど…親友が来たからにはちゃんと迎えないと!」
そういった刹那、シェリーは頭を手で押さえてよろめいた。
「うっ…外はまぶしくてダメね…早く中に入りましょう…。」
少女は目を押さえながらふらふらと歩き、私達に入るよう手をこまねいた。
彼女に誘導されながらついたのは、彼女の自室だった。
窓は閉められ、シャンデリアの火は消され、ノアの持っていた魔力を光に変えるカンテラだけがこの真っ暗な部屋を照らしていた。
「真っ暗だね…本当に何も見えない。」
ノアがスージー令嬢に対してそう呟いた。敬語使え。
「私、日光に弱いから…窓も開けられないし、炎にも微量に紫外線が含まれてるからいつも私の部屋は暗いの…。申し訳ないわ。」
確かにこの部屋に来るまでの廊下も窓は全て閉められ、厚いカーテンが掛けられていた上、蝋燭も足元が見える程度しかついていなかった。
今、このほぼ真っ暗な部屋にいるのは私とノアとシェリーとハンク一正。そして護衛対象のスージー・ミシェル令嬢だ。
メイソン一正とコリン君とティファニーちゃんとジェシー二正は屋敷の外を警戒中だ。メイソン一正いわく、
『転移魔法を使ったから魔力探知をされて、襲撃に来る可能性が高い。』
とのこと。じゃあなんで転移魔法使ったのよ。
するとジェシー二正。
『行きで襲撃されるリスクもあるからね。割と危険性はトントンじゃない?』
なるほど、納得。
「なんというか…外にも出れず、ずっとこの真っ暗な部屋から出られないのは死んでるも同然よね…シェリーが来るまではそう思ってたわ。」
「シェリー、一体どんな関係なの?」
気になった私はシェリーに二人の関係を聞いてみた。
「なんというか…家同士の古くからの付き合いね。私のお爺さんとシェリーのお爺さんが戦友だったそうよ。そして…スージーはお兄ちゃんの許婚よ。」
「ぶほっ!ごほっ!ごほっ!」
この言葉を聴いたハンク一正が思いっきり吹き出した。
「あ、あのなあ…あれは君の御父様と、俺の親父の冗談みたいなものだろう!それに年が全然違う!」
「そんな…私は本気でお慕いしていたのに…。ぐすんぐすん…。」
「だって俺、29だぞ!君、16だろ!」
うーん危険。たぶんハンク一正、捕まる。
(未成年に大人が手を出してはいけないのはどの国でも一緒。ジャルニ国では22歳で成人となっている。)
「恋愛に年は関係ありません!」
「法律は関係あるんだよお!」
「そうやってすぐ逃げて…うえ~~~ん。」
「あーあ、女の子、なーかせちゃった。年下の病弱女の子、なーかせた。
これがお兄ちゃんの良く無い所なのよね。その顔とスペックでその年まで恋愛経験ゼロの理由はそれよ。なんとか女の子から逃げようとするところ。自分の感情に蓋をして、女の子に何も見せないところ。自分の気持ちよりも人からどう見られるかを優先するところ。だからお兄ちゃんは信用されないのよ。」
シェリー…ハンク一正をいじめないであげて…。
「…どうすればいいんだ。」
「まず、スージーを抱きしめなさい。そして愛してるって言いなさい。」
「!そ、そんなことー」
「いいから!しなさい!」
何見せられてんだ?私?ノアにいたっては部屋の本を片っ端から読み始めてる。
ハンク一正は恥ずかしさと困り顔が混じったような顔でシェリーを抱きしめた。
「なんか…絵になるね。」
ノアがくすくすと笑いながらそういった。…むう、確かに絵になる。
「あ、愛してる。」
声がったがたやないですけえ…ハンク一正。
「…私もです。」
スージー令嬢の目から涙はいつの間にか止まってー…あれ?
「目が…濡れてない?」
濡れていたのは目の下だけで目、眼球そのものは全く濡れていなかった。
「シャーロット!この目薬すごいよ!命の花蜜が0.1パーセントも入ってる!高級品だね!」
「目薬…?」
スージー令嬢はかなり慌てた様子で、ハンク一正の胸から飛び出し、ノアから目薬を取ろうとしてるが、ノアは目薬に夢中で取ることは難しそうだった。
「泣きまね?」
そう聞くと彼女はへなへなと座り込み、ハンク一正の胸元に戻った。
…白い顔が赤くなってますよ…。
「…嘘だったのかよ…。」
ハンク一正は呆れたようなため息をつき、スージー令嬢を自分の胸元からどかした。
「ねえねえ、この目薬貰っていい?」
ノアの神経どうなってんだ?
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