もう一つの顔 (ノア研究員)
作戦室にて
「あ!コリン君!どこに行って…」
勝手に会議中に抜け出したコリン君を怒ろうとしたけど、そんな気は一瞬で吹き飛んだ。なぜならコリン君は顔面蒼白で冷や汗をだらだらかいて、ガタガタと震えていたからだ。
「…何があったの?」
「…言えません。」
ホントに何があった…。
それからしばらくして、
「おーいシャーロット隊ー。」
作戦室のドアがガチャリと開き、ジェシー二正が入ってきた。
「ノアがお前等の事を呼んでいるぞ。研究部に来てくれだってさ。」
?何のようだろうか?
研究部・開発室
「いやあ皆さんいらっしゃい。そこの君もそこの彼女も、ようこそ我が研究部へ!」
そういって私たちを出迎えたのは黒髪ポニーテールの黒縁眼鏡をかけて、白衣を着た女性だった。
「えっと…どちらさまで…?」
「研究部所属のサンドラ・ライマン二正だ。私と同期で実力はあるんだが…見て分かるとおり変人だ…。」
…あなたが言うならそうでしょうね…ジェシー二正。
「ひど~い、友達になんてこというの~。」
…この人苦手。
「やあ、皆来てくれたんだね。」
声に驚き振り返ると、そこには白衣を着たノアが立っていた。
「シャーロットたちに来てもらったのは、サンドラ二正の紹介と…」
「君達に使ってもらう兵器の紹介なのだ~♪」
「そう、次のは危険なものになりそうだからね。サンドラ二正に武器をカスタムしてもらったんだ。」
この二人…なんか独特。
「はいはーい、じゃあ最初はそこの幼児体型!」
そういってサンドラ二正が指差したのはコリン君だった。…失礼だな。
「よ、幼児体型!?」
「うん。君には取っておきのものをあげよう。」
そういって彼女が「シャーロット隊」と書いてある赤いプラスチックの箱から取り出したのは、コリン君がちょうど着ているような黒いトレンチコートだった。これの何処が兵器なのだろうか。
「…ただのトレンチコートにしか見えないんですが…。」
「ばかやろうこのやろう!ただのコートじゃないぞい!」
「ええ…。」
「コリン君。魔法を使用するのに消費した魔力が、全て魔法の効果に変換されないことは知っているかい?」
ノアがコリン君とサンドラ二正の会話に割りこんできた。
「ええ…魔力を使った際に、少し魔力が体から放出されてしまうんですよね。」
「そう!でも私は天才だからその放出した魔力を体に還元しちゃう素材を開発しちゃったのだ~アイス作ろうとしたらできた~。」
「「!」」
この発言にはかなり驚いた。コリン君も目を見開いていた。
アイス作ろうとしたらできたは冗談だろうけど…
「凄すぎますよ…サンドラ二正。」
コリン君の発言に同感だ。無駄な魔力を消費しないようになれば、その分長い時間、戦闘を続けられることになる。
「えへへ~そうじゃろ~もっと褒めろ~。」
…性格こそあれだが、天才であることは間違いないだろう。
「凄いわね…私も着たいわ。」
普段は人を馬鹿にする様な口調のシェリーも珍しく感心してる。
「だーめ、可愛い女の子にはもっといいのを用意してるの!」
次に彼女が取り出したのは、黒いマントだった。しかもシェリーが使うものとしてはかなり大きい。
「黒…好きっすね…。」
シェリーの言う通り、さっきのも黒いトレンチコートだったな…。
「まあ、私の趣味だね~。魔法使用時の無駄に体から出ちゃう魔力を利用する点ではさっきのコートと変わんないけど、ちょっと趣向が変わってるね。とりあえず着てみなさいな、損はさせんよ。」
シェリーは言われたとおり、マントを羽織った。軍服にマント…格好いいな。
「じゃあ…とりあえずスキャン魔法使ってみ?」
シェリーは無言でうなずき、何かを詠唱した。
「うん、おけおけ。」
そういうとサンドラ二正は笑顔で…胸倉からリボルバーを取り出した。
雷のような発砲音と銃口から出る煙、火薬の匂い…。シェリー二正が発砲したのはしたのは確かなようだ。そして銃口の先には…倒れたシェリーがいた。
この場にいたサンドラ二正以外は全員青ざめてたと思う。
「サンドラ二正!どういうおつもりですか!」
「だーてろ、茶髪チビ。」
「チ…!」
「…!痛ったいわねー!バカじゃないの!人を撃つなんて!」
シェリーが倒れたまま、顔だけを向け、サンドラ二正の方を見た。
「!生きてる…!?」
「ほーだよ。これはさっきの魔力を還元する素材を元にして作られたマントだよ。
このマントは放出した魔力を利用して硬化する素材で出来ている。
スキャン魔法程度の魔力消費でも、至近距離から発射されたリボルバーの弾丸を止められる強度になる。しかも対爆、防水仕様だよ。」
「…確かに凄いみたいね。ありがとう…。」
「礼はあんたの彼氏に言いな。これ作ったの、ノア君だから。言ってたわよ~?
『彼女を守ってあげないと…。』て~?」
「い、言ってません!」
うん、白い肌が赤くなってる。
「…ノア…あとでベット…いこうか♪」
「行かないよ!シェリー!」
仲がいいな、もうくっついちゃえばいいのに。
「で、次は茶髪チビと金髪ロリね!」
「「やめてくれません!その呼び方、やめてくれません!」」
見事にティファニーちゃんとの台詞が被った。
「私、研究以外、ダメなので。」
「「格好よく言うな!」」
二回目の被り
「仲いいね~結婚したら~?」
「そんなわけあるかい!」
「なんだと思ってるんですか私たちを!」
疲れるよ!この人と喋ってると!
「おねロリ?」
「…ああ、もういいや…それで?」
面倒くさい…もういいや。
「それで二人に紹介するのはこの商品!サーベル・アタッチメントです!」
「…なんでそんな…実践販売みたいな口調なんですか…。」
「兵器開発者は営業と一緒、分かる?」
違うと思うけど…。
そう言って彼女が取り出したのは、私とティファニーちゃんが下げているサーベルにぴったりとくっ付きそうな金属製のグリップだった。
「ま、とりあえず付けてみなさいな。」
言われた通りグリップをサーベルに付け、構えた。
「二人のお嬢ちゃんはエンテャント…違う、エンチャント魔法って知ってるかな?」
「ええ、知っていますが。」
エンチャント魔法、武器に魔力を注入し、特殊な効果を付与する魔法だ。
例えば剣に雷を纏わせたり、切った相手に毒を盛ったり、実に多彩な事が出来ると聞いた。ただし、とてつもなく難しい上級魔法なので、私には出来ない。
「そう、出来ないのが普通よね。」
何この人、エスパー?バイオレット特監?
「だけどね、このサーベルアタッチメントをつけるとね…ちょっとイメージをしてみて。剣にどんな効果を付けたいか。」
…そうだな。剣に炎を纏わせてみるか。
「!」
私がイメージをした瞬間、サーベルには灼熱の太陽のような真っ赤な炎が纏われた。
構えたサーベルから凄まじい熱気が放たれており、とてつもなく熱かった。
「ね、簡単でしょ?」
この人…確かに天才みたいだ。
「変人だけど。」
「ハンク、起きろ…ハンク!」
自分を起こそうとする、聞きなれた声に反応し目を覚ます。
「なんだよ…メイソン…。」
「ジェシー二正から聞いたわ、ガーロからのスパイの話。」
「俺はもう聞いてるよ…それがどうした…。」
「なんでも吸血鬼の姉弟が来るそうよ。」
「!なんてこった…。」
「生きて戻れるかしらね、さっきまで私に甘えてた人が…。」
その瞬間、俺は眠る前の記憶を全て思い出してしまった。
「あ、ああ…あー!」
自分では見えないのに、顔が赤くなっていくのが熱で分かる。
「また…お前…人にそんな事…貴様ー!」
「あら、私がなにかしたとでも?」
青い左目は明らかにこちらを嘲っている様な目線でこっちを見ていた。口はニヤニヤと笑っている。
「ふっ…あなたのファン達はどう思うかしらね?」
「…黙っててくれ…。」
こいつ…30にもなって…何してんだ…。
「なあ姉貴、ターゲットはこいつだ。良く覚えろよ。」
「…………………………………………………。」
「…分かってるよ、だけど結局俺達は賞金稼ぎくらいしか仕事ねえんだよ。
まともな体じゃねえしな。雇ってくれるところなんて軍以外ねえよ。」
「…………………………………。」
「…見捨てればよかっただあ!?出来るわけねだろ!バカ姉貴!」
ボサボサな暗い金色の髪、尖った犬歯、ガーロの軍服を着た赤い目の少年は少女が写った写真を見ながら、誰もいない建物の屋上で独り言を呟いていた。
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