少年の本性(外と中は一致しない)

パトロールのために王城の中にある軍の中央司令部から一歩足を踏み出せば、そこには活力あふれる城下町が広がる。

城内にいる時はよく分からないのだけれど、城門の外から見える城はとても大きく、優雅だ。建国当時、ジャルニ国はとても小さな国だったそうで、城も小さかったが徐々に領地を広げ、今は建国当時の16倍になったそうだ。

驚くべきは建国たった250年でここまで大国家になったことだ。


『だから回りの国から疎まれてる。国境沿いで争いが絶えないのは領地を広げた方法が不適切だったそうだ。

そのためにジャルニ国は自国を守るために、軍事国家になって魔法を戦争に利用するようになったって話だ。』

ジェシー二正の話を思い出す。そのため、軍人がパトロールをしてると高確率で他国の魔法使いや剣士などに襲撃を受ける可能性が高い。

…というのに。

「なんでこの人選なんですか!ジェシー三正!」

「二正だ。ついさっき昇進したんだよ。それにティファニーちゃんはひとまず置いておいてノアやコリン一正…いやコリンは実力は確かだろう。」

「先輩、パトロール任務とはいえですね…協調性ゼロに少年にあほの子ですよ!」


「…心外だね…。」

「まあ…13ですけど…。」

「あ、あほの子!?」

ほらー!一応階級が今回の隊の中で一番高い私に敬意の欠片も無い!あるのは憎悪の呟き!前から飛んでくる矢よりも、後ろから繰り出してくる槍の方が怖い!

「しょうがないな…メイソン一正に来てもらうか!」


ジェシー二正がその爆弾発言をした瞬間…私とコリン君、そしてティファニーちゃんつまりノア以外の全ての人間が凍りついた。

「…えーと…今日はメイソン一正は非番のはずですが…。」

ティファニーちゃんが顔面蒼白でガタガタと震えながらそう言った。

「大丈夫!あの人アラサーにもなって処女で独り身だから!それにって言ったらすっ飛んでくるでしょ!」

それを聞いたコリン君にいたっては頭を抱え込んでいる。


「?メイソン?一正?ってそんな怖い人なの?シャーロット。」

こいつが私より身長が低かったら頭に拳を振り下ろしていた。

そうだった…ノアは今日入隊だった…。

「メイソン一正に対して言えることは一言だけ…ただ強くて怖い…。」

「それだけ?」

ああ…ノアは致命的に何かが足りない。上手くはいえないが。


「ちょっと待って~今連絡を…。」

「「「すみませんでしたー!」」」

私、コリン君、そしてティファニーちゃんが見事なまでに声と頭を揃えてジェシー二正に謝った。…ノアも同じ隊なら謝れよ。

「分かればよろしい。シャーロット、お前は隊員の悪口を言わない。他の三人はシャーロットに不満をぶつけない。それだけでいいんだぞ。簡単だろう?

じゃ、パトロール頑張れよ!」

「「「はいっ!」」」

ノア!お前も返事しろよっ!



まあ、そんな風に出来た結束は一時的なもので、

「ううう…研究したい…実験したい…帰りたい…。」

特に先程同じ行動をしなかったノアはさっきからずっとこの調子だ。

「パトロールが終わるまでは我慢することね。」

「でも…これは退屈だよ…。」

それにはノアに同感する。ジェシー二正は軍人がパトロールをするとトラブルに会いやすいと言っていたが、それは建国から間もない過去の話では無いだろうか?


「ノア三正に同感しますね…これなら研究員の人達と一緒に研究したいです…。」

「ははは…コリン君、僕のラボに来る?」

「いいですね…。後で向かいまー!シャーロットさん!リチャージ・シールドを!」

先程まで普通に喋っていたコリン君が急に凄い剣幕で叫んだものだから、私は少し気後れしてしまった。

「何してるんですか!早く!」

「え、あ、はい!」

胸ポケットから円柱状の物体を取り出し、地面に投げつける。

そこから青白い光の柱ができ、それを中心として半径20メートルほどのドーム上のシールドが展開されて、私達を包んだ。


「これは市街地で戦闘するときに回りに被害を及ぼさないために、対象を捕らえる物だけど…なんのつもりなの?」

叫んで息が上がっているコリン君に聞いた。そして彼は一言。

「その対象を捕らえたんですよ…。」

そういって彼の指差す先には、黒くてつばの広い三角帽子を被り、黒いマントを羽織ったピンク髪セミロングの少女が薄ら笑いを浮かべて立っていた。

「そんな格好の魔女、おとぎ話の中だと思ってましたよ…。」

それを聞いた少女はくくくと笑い、

「それがどうもいるのよね…例えばあなたの目の前に…。黒髪のガキに茶髪のチビ…金髪のアホに白髪のノッポ…特徴は大体あってるわね…。」


「ち、チビってあなたも同じ様な身長じゃない!」

「い、良いんだよ!これから伸びるから!」

それを聞いたノアはただ一言、

「?20歳なのに?」

「「え?」」

ピンク髪の少女(なのか?)と私の声が見事なハーモニーを重ねた。

「な、なんで私の年を…。」

「スキャン関係の魔法を使って魔力を見れば大体の年の見当はつきます。にしても…20で…そのカッコ…ぷぷぷ…。」

いいぞ!ノア!もっとやれ!

「僕と同い年くらいかな?と、思ったけれど…ロリBBA?」

コリン君!そんなこと言っちゃだめ!


それを聞いていたピンク髪は顔を真っ赤にして涙目で、

「うるせー!人は外見じゃない!特にノア!お前は最後にいたぶって、たっっっっっくさん私にこの場で奉仕させて、プライド粉々にして持ち帰ってやる!

ここだけの話、ノア、コリン、ティファニーには賞金がかかってるのよ!

まあ、私はやさしいから?お前らの有り金とノアのプライドと貞操で満足してやるけどね!私の名前はシェリー・スターリング!さあかかってきなさー、」

「ながい。」

「くどい。」

ノアとコリン君がそういってシェリーに手をかざした。その瞬間巨大な爆発音と同時にもの凄いスピードでシェリーが吹っ飛ばされ、地面の砂が舞い上がった。彼女の体は勢いを弱めず、シールドに激突した。


「ちょっと…相手を殺す気?コリン君。」

「合わさっちゃいましたね…ちょうどおんなじこと考えてたみたいですね…。」

「…エアー・プッシュって…。」

「人がこんなに吹き飛ぶんですね…。」

おーい!二人で明後日の方角を見るんじゃなーい!


シールドにもたれかかるようにぐったりと寝転んでいるシェリーにノアとコリン君が近づき、体のありとあらゆる所をチェック…そこもチェックするの!?

「まずいな…内臓のいくつかが破裂してて、大動脈も切れてて、おまけに首の骨が折れてる…。」

「ちょっと待って!ノア!それって…!」

「うん、死んでる。」

…なんてことよ。パトロールでまだ何もしてない人間を死なせるなんて…。


「あわわ…わ、私、蘇生魔法使えますっ!」

不安!ティファニーちゃんの蘇生魔法!不安!だって足ガックガクだし、冷や汗だらだらかいてるし…。それにやってもらうなら…

「ノアの方が適任ね。」

「?助けるの?」

「当たり前でしょーがー!」


ノアは心底やだやだといいたげな表情だったが、私の眼圧で無理やりやらせた。

ノアが何か呟くと彼の両手に野球ボール程の緑の光が現れた。

「とりあえず…回復魔法で臓器と血管…骨を修復しよう。」

「?回復魔法?死んでる人なのに?」

ノアはシェリーの体(遺体?)の首、腹…これ以外は彼女の名誉に関わることなので言わないでおこう。犯罪者でも人権はある。…まず彼女何もして無いし。

とにかく、体のいたるところを触って怪我の状況を調べながら、緑の光で怪我を回復させていた。その作業をしながらノアは、

「まだ死んでから時間が経ってないから蘇生魔法を使う必要は無いと思う。

今は肉体の損傷が激しすぎて、彼女の魂が肉体から出てる状態だ。

ただ、肉体と魂は簡単には離れないからね。体さえ治れば…。」


ぶっは!ごほっ!ごほっ!

突然死んでいたシェリーが息を吹き返した。

「こんな風に勝手に魂が肉体に戻って生き返る。」

「…闇魔術じゃないでしょね…。」

「これはただの回復魔法。魔法医なら誰だって出来るよ。おーい分かるかい?」

ノアはそういってシェリーと名乗っていた女性(少女ではない)に手を振りながら声をかけた。

「あれ…私…生きてる…。」

「そうだよ、僕が生きかえー、」

「さすが私ね!あんな攻撃を受けて死なないなんて!きっと上手く防御したのね!

うん!体も五体満足どころかいつもよりピンピンしてるわ!さあ、続けましょう!」

「「「「・・・。」」」」

たぶんだけど私だけじゃなく、シェリー以外の全員がこう思ったと思う…。

『ああ、こいつ馬鹿だ…。』と。


「・・・。」

コリン君が呆れたような顔をして何かを唱え、シェリーに右手を差し伸べた。

「?立ち上がらせてくれるの?」

そんなわけ…いや、コリン君は良い人だからやってしまいそうだ。

「違うね。」

コリン君がそういって、シェリーが「はあ?」というような表情をした後、思わぬ事が起こった。シェリーの胸から青白い小さな玉が出てきて、コリン君の右手に収まった。青白い玉をコリン君に抜かれたシェリーの体は魂を抜かれた様に、力なく両膝を

地面についた。

コリン君はその後、青白い玉をそのまま握った。光がどんどん小さくなり、青白い玉は最終的に消えてしまった。


「シャーロット三正、とりあえずこいつを連行して、詳しい話は軍で聞きましょうよ。相手にしてたら埒が明かない。」

確かにコリン君の言う通りだ。馬鹿に付き合うのは埒が明かない。だけど…

「彼女が簡単に言う事聞くと思う?」

「聞きますよ。立って。」

コリン君がシェリーの方を向きそう言った。…そんなわけ。


「は、はい。」

シェリーの声に驚いて彼女の方を見た。彼女は少しよろつきながらゆっくりと立ち上がった。…どうやって!?

「じゃあ、僕たちの方まで来て。」

「はい…。」

彼女はまるで従順な犬のように、コリン君の指示に従って私達の方に来た。先程の彼女からは考えられない反応だった。シェリーはゆっくりと歩きわたし達の方に近づいてきた。そして、気がついた。彼女の明らかな異変に。


「目が…死んでる。」

彼女の綺麗な琥珀色の瞳からは光沢が消え、焦点が合わず虚ろな眼になっていた。

数ヶ月前これに似たことを見たことがある。ジェシー二正が三正だったころ、罰として精神年齢が10歳になる催眠術をメイソン一正にかけられたことがあった。

その時もジェシー二正は死んだ魚のような目をしていた…が…。

「もっと酷い…あの時よりも…。」

コリン君…何者?


「…化け物とでも。」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る