優秀な兄、アレな妹(本当にすまん…)
コリン君に何かをされただ指示を従うだけの存在になったシェリーを引きつれ、私達はとりあえずパトロールを中断し、中央司令部に戻った。
そして今、私達は魔法部の取調室で虚ろ眼をして座っているシェリーを囲んでいる。
「(ねえ…コリン君はシェリーに何をしたか検討つく?)」
小声でコリン君やシェリー、ティファニーちゃんに聞こえないようにノアに聞く。
「(恐らく…マインド・ハックかな…。)」
「(そんな呪文聞いたこと無いわよ!?)」
「(軍にいたら知る由も無いよ。闇魔術の禁止呪文だからね。しかも超上級だ。)」
「(!?)」
闇魔術!?禁止呪文!?そして超上級!?なんでそんな呪文が13歳の少年が使えるのよ!?しかも彼は臨時隊員、どうやって知ったの!?
「(効果はどんなものなの!?)」
「(相手の精神を体から引きずり出して、自分の精神世界に閉じ込める。精神を奪われた対象の魂はその人本来の性格や自我、感情を無くして誰のどんな命令も聞き、従うようになってしまう。)」
「(どれぐらい効くの?)」
「(術者と対象の魔力、精神力による。無理やり他人の精神を体から引きずりだして閉じ込めるわけだから、もちろん相手の精神も抵抗して、元の体に戻ろうとする。
ただ…コリン君と彼女の魔力、精神力を考えると…コリン君が彼女の精神を開放しない限り…彼女はずっと自我を失ったままだ。)」
「(!)」
コリン君、ほんとに何者!?
「(そんな禁術をその年で使うなんて…)」
「(…使うなんて?)」
「(やるね!)」
感心しちゃったよ!この人!
「シャーロット三正、たぶん僕が何をしたかもうお気づきでしょうから…彼女の精神を開放しても良いですか?確か取り調べに魔法および自白薬の使用は許可が必要でしたよね?許可がないと証拠にならない。」
急にコリン君が話しかけてきたので少し気後れしたが、こういう時はおちついて…
「そ、そうね。今すぐ開放して!あ、あとでバイオレット特監にも報告するから!」
「落ち着きなよ…。」
ノア、ダマレ。
コリン君が何か呟くと右手に青白い玉、先程の玉が現れシェリーの体に戻った。
「むにゃ…涼しい顔してたのが嘘みたいね…もっと舐めなさい…。…ここどこ!」
シェリーの眼に光が戻って、彼女は自我を取り戻したのだが…何言ってんだこいつ?
「あれ!?私、あなた達をボコボコにしてノアに奉仕させてたところなのに…なんで取調室で縛られてるの!?」
「コリン君…君、精神世界で僕になにさせてたの?」
ノアがジト眼でコリン君をじいっと見つめてそう聞いた。
「えーとですね…精神世界は対象にとって楽しければ…抜け出しにくくなりますから…。すみません…ちょっと…ゴニョゴニョ…。」
ゴニョゴニョの所はノアに耳元でいったので聞き取れなかったが、よっぽど恥ずかしい内容だったのだろうか、初めて顔を赤らめていた。
「コリン君、そういうの、良くない。」
「はーい…すみませーん…。」
そのやり取りはまるで兄弟のようだった。
それを見ていた私とティファニーちゃんはつい、吹き出してしまった。
「「何がおかしいの!?」」
「いや…魔法が使えるだけで…あなた達…結局子供なのよね…ぷぷぷ…。」
「そうでした…二人とも私より年下なんですよね…ぷぷぷ…。」
そうだよね、優秀なのに気後れしちゃうけど、二人ともまだ子供で経験が浅い。私がしっかりしないと。
「それは私達も変わりませんけど…。」
いいんだよ、ティファニーちゃん。
「私、一番年上だからティファニーお姉ちゃん!って言って甘えても良いんですよ?たっくさん甘やかしてあげます!」
「却下。」
「それは…。もう13だし…。」
「…軍だよ?ここ?」
ティファニーちゃん。ふるぼっこ。…19歳の人にお姉ちゃん!って甘えるのは無理あるでしょ。特にノアと私には。
「酷い!私の何がいけないですか!」
「年じゃないの?」
ずっと黙って潜伏してたシェリーがようやく口を開いた。
「そら…19の奴に甘えにいくなんて…誰だって気後れするでしょ。」
うん同感。それを真っ向から言われたティファニーちゃんは顔を真っ赤にして、
「あんた20でしょうが!ロリBBA!」
「い、いいでしょうよ!実年齢よりも若く見えるんだから!」
「あんた、ロリコンにしかもてないでしょう!」
「あんたも同じようなものでしょうが!」
「こ、これから大人びたカッコいい女性になるんです!」
ああ、実に酷い一個違いの争い…。
「それにノア三正のプライド粉々にして奉仕させるとか言ってたけど、返り討ちに会いますよ、ばあか!」
「やってみないと分かんないでしょうが!」
何これ、取調べ?ひでえな。
「シャーロット、そろそろ取調べを始めない?色々と聞きたいことがある。」
ノアがそういってシェリーと反対側の椅子に座った。
「は、取調べに魔法は使えない。せいぜいあなたにできるのは怒鳴ることだけ…。
魔法が使えない軍人なんて怖くもなんともないわ。」
「?誰が魔法を使わないなんていったの?」
「…へ?」
「確かに許可がなければ魔法で引き出した情報は証拠にはならない。だけどその情報から調査して発見したものは証拠になる。…ってジェシー二正が言っていたんだけど…。何か体験してみたい拷問はあるかい?」
ノアはゆっくりと立ち上がり、…笑った。ちょっと待てノアって、こんな顔するの!
「ひっ…。」
先程の攻勢だったシェリーが一転、蛇に睨まれた蛙のように硬直し、怯えた顔になって口を押さえた。そして彼女は泣きながら予想だにしないことを叫び始めた。
「お兄ちゃあああああん!たあすけてええええええ!」
頭絞っての答えがそれかよ!
「誰かああああああ!殺されちゃうよおおおおおお!なんて世の中よおおおおお!」
…なんて奴だよ。こいつ。まじでなんて奴だよ。
ノアも呆れたような顔をして、右手を彼女の頭にかざした。
「ちょっ、ま、頭!頭になんかすんの!やだ!死んじゃう!てか半分私怨入ってるでしょ!」
「シャーロット、この人どうする?いつでも脳に電流流せるけど?」
だめだよ!と答えようとした矢先、取調室のドアが勢い良く開いた。
圧倒される私達を気にせず入ってきたのは工作部の特殊任務様アーマーを着て、目の部分が青いガスマスクをつけた、体格から男性と予想される人だった。
「ああ…お兄ちゃん…やっぱり来てくれたのね…信じてたよ…。」
お兄さん軍の人かよ!しかも顔隠してんのに分かるのかよ!
「さあ、私を助けて!」
それを聞いた。ガスマスクのレンジャーさん、(名前も階級も分からないし工作部の特殊任務様アーマーを着た男性だと長いのでそう呼ぼう。)
「シェリー…お前なにしてんだああああああ!」
ガスマスクをつけていても分かるのほどぶち切れ、椅子に縛られたままのシェリーをグローブを嵌めたままの手で殴り飛ばした。しかも顔。
「ちょ!いきなり可愛い妹になにするのよ!」
「それはこっちの台詞だ!お前こそ何捕まってんだよ!しかも俺の部下…いや後輩に何迷惑かけてんだ!人様に迷惑かけるんじゃない!」
工作部で俺の後輩といってることから、ガスマスクさんはコリン君とティファニーちゃんの上司だろうか。
「迷惑かけてないわよ!ただ、賞金がかけられてるって嘘の理由で襲撃して、ノアを持ち帰ろうとしただけじゃない!」
え…。
つまり、こういうことだったらしい。
①街中を魔女の格好をしてぶらぶらお散歩していたシェリーはパトロールをしていた私たちをたまたま発見。ノアに一目ぼれをしてしまった。
②でも貴族階級出身で恋愛経験がなかったからアプローチの仕方が分からない。
③とりあえず持ち帰っちゃえ!でも家の名に傷はつけられないから賞金稼ぎの振りをして路地裏ででもやっちゃおう!
シェリーの話を要約するとこうなる。いってる自分でもわけが分からない。特に③。
「てか…あなた貴族階級だったの…。なのになにしてんのよ…。」
貴族は国の運営にも関わるのだからもっとしっかりして欲しいものだ。
「というより貴族の女性は魔法を学ぶ機会なんて無いでしょう…。なのに良く新米とはいえ軍の人間に喧嘩売りましたね…。」
コリン君もだいぶ呆れていた。ティファニーちゃんなんか…もう黙ってる。
「なんか…好きな子にちょっかいかける子供の心理みたいです。」
コリン君、君も子供。
「うるさーい!あなたもガキでしょうが!全員ガキだからいけると思ったのよ!それに魔法はお兄ちゃんから教えてもらったから!お兄ちゃんは凄く強いのよ!」
…おい、ガスマスクさん。どういうことだ。
ガスマスクさんは顔を隠しても分かるほどのどんよりとしたオーラを出していた。
「…すまん。こいつがまだ小さかった頃に魔法を教えてとせがんでくるものでな…。
仕方なく教えていたんだがシェリーは思ったより飲み込みが早くてな…中級魔法程度ならほとんどマスターしてしまっている。それが自信になってしまったのだろう…。
本当にすまん…。」
ガスマスクさんはガスマスクを外しー、…え?
「改めて詫びる。妹が本当に申し訳ないことをした。俺はハンク・スターリング。
工作部所属で階級は一正だ。改めてよろし…おーい大丈夫か?」
ハンクさん。すごい爽やかなブロンドのイケメンやないですけい…。
「注意しなさいよ。そいつもうアラサーよ、29よ。」
シェリーが冷やかすようにそういった。
「20で実家暮らしのニートとどちらがましだよ!」
「う、うるさーい!お兄ちゃんのばかああああ!」
「馬鹿はどっちだあ!」
なにこれ…兄妹喧嘩?なに見せられてるんだ?
「いい加減定職につけええええええ!」
「いい加減彼女作れえええええええ!」
「ぜえぜえ…。」
「はあはあ…。」
沈黙。
「分かったわよ…就きたい職業が一つあるわ…。」
あ、シェリー折れた?
「私、軍に入るわ!私がノアの上官になればノアを好きに出来るってことでしょ!」
何言ってるんのこの子!?世間知らずが酷い!
ハンク一正は「だめだこいつ…。」と言いたげな表情をして一言。
「分かった。入れられるか手配してやるよ。」
「やった!」
お兄さん…甘っ…。
「ただし!条件がある!」
「?なによ?」
シェリーは「今すぐ入りたいから邪魔しないでくれる?」とでも言いたげな表情をして私たちの方を向いた。
「お前がガキだガキだと馬鹿にした奴等。俺の可愛い後輩4人と戦って最低2人に勝て。言っておくけど彼等は経験はまだ浅いけど…強いぞ。」
やだ、ハンク一正素敵!でもそういうのは私たちに同意取れよ!
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