勝った人、負けた人(なお相手にされて無い模様)

「シャーロットさん…?体が上手く動かないんだけど…。」

「もっと動けないようにしてやろうか…。」

昨日、眠っていたところを起こされてからずっとシャーロットさんはこの様子だ。

いや…人のベットを勝手に使っていた僕も悪いけどさ…ありゃないよ…。


恐らく僕が昨日かけられた魔法は「チェーン・ショック」あたりだろう。

体に高電圧の電流を流して、運動神経を麻痺させる呪文だ。意識混濁を防いで体だけ麻痺させることが出来るから、尋問に効果的とかどこかの本に書いてあったな…。


「眠い…痛い…。」

「永久に眠らせてあげようか?」

「…黙ります。」


体は動かないし、あの後常に電流流されっぱなしだったから、まともに眠れては無いけど…なんとかなるか。

寝巻きのズボンのポケットから小さな試験管を取り出す。

「えーと…『スーツ』、『黒衣』…あったあった、『研究用白衣』!」

そう書かれたラベルが貼られた試験管を片手に握り、魔力を注入する。

すると試験管が強い太陽の光のように赤く光り始めた。

程なくして試験管のコルクは外れ、真紅の光が僕を包んだ。


「ホント便利なんだよね…。」

光が収まると僕の服は寝巻きから、薬の調合や魔法の研究時に使う研究用の白衣に変わっていた。

「なに…それ…?」

一通りの光景を見ていたシャーロットさんはかなり驚いた様子で僕の方を見ていた。

「僕の着換え風景~♪」




ドンドンドン!激しく私の部屋のドアがノックされた。

「シャーロットー、ノアー。いるかー。」

この声はクソア…じゃないジェシー三正だ。朝も早くなんだっていうのよ…。

ことちらまともに眠れて無いし…たった今驚かされたばかりなのよ。酷い日だわ…。

「ノアは今日から着任だからバイオレット特監の所にいって着任部とか階級とか聞いて書類とか受け取ってくれ~詳しくはしらーん。」

ドア越しにジェシー三正がそういった。相変わらず適当なことで…。


「あとシャーロットも特監の所に向かってくれ。」

?なんで私まで?

「何でも昇進って話だ。」




撤回しよう。今日はとてもいい日だ。

「昇進程度で大げさな…。」

「大げさじゃないわよ!」

本当にこのノアって奴は話していてイライラする。本人に悪気が無いのも相まって。

しかも私より強いかもしらないのも気に食わない。

年下のくせに。

でも…ノアが軍の人間になるということは…勝てる点が一つ出来ることになる。


「敬語。」

「はい?」

「敬語使いなさいよ、上の階級の人には。」

そう、軍は階級が全てなのだ。階級が上の人間には敬語を使わないといけないし、上からの命令は絶対だ。


「…分かりました。シャーロットさん。」

「階級で呼びなさい!」

「…分かりました。シャーロット…階級なんでしたっけ?」

「士長よ!士・長!それにこれから昇進するから三正よ!」

ノアは少しうなった末、一言。


「どれくらい偉いのか分かりません。」

「あんたみたいな新人をまとめる階級よ!分隊長クラスよ!そして最年少入隊者よ!私!敬いなさいよね!」

「あー…分かりやすい。でも最年少の方は更新されそうですね。」

「なんで!?」

「僕、15歳です。」

「・・・。」

2歳…年下だったなあ…。




プライドをズタズタにされながら到着した特監室。

「どうしたの?シャーロット士長?プライドをズタズタにされたような顔をして?」

「…されました。」

「…深くは聞かないでおくわ。それよりシャーロット士長。あなたに良い知らせよ。

シャーロット・キャッスル士長。ノア・セイントを軍に引き抜いた功績を称えて、あなたを三正に任命するわ!」

やったあああああ!評価された功績は納得いかないけどやったあああああ!


「おめでとう!最年少三正よ!」

「へ?」

「次にノア君ね。ノア君は魔法部と研究開発部を兼任してもらうわ。」

いやまて…なんていった?

「で、肝心の階級だけど…。」

待て、そこから先は聞きたくない。一つの予感が的中してしまう。

「ノア・セイント君、実力や入隊前の協力を評価しあなたを三正に任命するわ!過去最高記録ね!」

「はあああああ!?」

バイオレット特監に飛び掛った。


「ちょっと待って…あいつは…犯罪者ですよ!なのに何でいきなり分隊長ポジションで始めさせるんですか!」

「?逆にあの子が黒魔術使ってなかったら一正から始めさせる意見もあったわよ?

一部の保守的な人に止められたけど。」

「そうじゃなくて!皆、納得しませんよ!15歳で三正なんて!」

「ここだけの話、会議の時『一正はやりすぎだが二正、三正あたりなら妥当だ。」て言う意見で万条一致だったわよ。それだけノア君の実力は確かってことよ。」

「でも…でも!」

「ちなみに二人は年も近いし階級も同じだからペアで仕事してもらうわよ。

仲良くね~。」


絶望する私の後ろでくすりと笑い声が聞こえた。

「よろしくね。。」

「…よろしく…。」




その日のカフェテリア


「な・ん・で・私がこんな目に!」

「あの~…僕…ただの臨時隊員だし…まだ全然子供なんですけど…。」

心も体も疲労した時はこの少年に愚痴を聞いてもらうことにしてる。

黒髪で少年のあどけなさが残りながらも、賢そうな印象と安心感を周囲に与える。

それでかつ仕事も要領よく出来るので女性陣から可愛がられてる。

そして今、私の愚痴を永遠と聞いてもらっている黒いトレンチコートを身にまとった少年の名前はコリン・ナイトレイ臨時隊員(13)だ。

彼は工作部に所属しているが、なにせ本入隊していない臨時隊員なので、諜報などの活動はせず事務仕事やパトロールなどをメインとしているようだ。


「ありえないでしょ~逮捕した人とされた人がコンビで仕事するなんて~。」

「ははは…でも年の近い人なら話しやすいんじゃないですか?…第一印象が最悪でも上手くいった例はいくらでもあるでしょう?頑張ってください!」

「君…いい子だね…社会の汚れを知らないのはいいことだよ…。」

もうショタコンでいいや…私。


「同じ年の近い人なら君と仕事したいよ…。ねーえ、移動願いだしてよ~。」

「あー…でもあいにくコンビは既に組んでいるんですよね…。」


あー!いたー!コリン一正~!

息も絶え絶えに金髪ロングの美少女が私達が座っているテーブルにすっ飛んできた。

「探し…ましたよ…どこ…いってたんですか…。」

「えーと…ご飯食べに来てただけだよ…。」

「私と…一緒に行動…しろと…言われてるでしょうに…。」


先ほどすっ飛んできた金髪ロングでコリン君より少し背の高いこの美少女の名前は、コリン君と同じく工作部所属のティファニー・ルース臨時隊員(19)。

彼女はコリン君と同時期に臨時入隊した人なのだが…正直…コリン君の方がよっぽど

優秀だ。ありとあらゆる意味で。

『シャーロット士長お~。助けてくださあい~。』

今月に入ってこの台詞を13回言われた。まだ月の初頭だというのに。

だが改善しようとする努力は認める…だから救いようがないのだが…。


「…ごめんなさい。」

「分かってください…。」

ここで私は強力な違和感を覚えた。


「なんで…ティファニーちゃんは…コリン君を…って呼ぶの?それになんで階級も同じなのに年下のコリン君に敬語を使うの?」


ティファニーちゃんは少しきょとんとした顔で私を見つめた。少したったあと彼女は「やってしまった!」と言わんばかりの表情をし、大慌てで私に、

「えっとですね!あの、あれですよ!私敬語使うのが癖になってまして!そう癖なんですよ!あとコリン君に一正を使うのは…一正になれるほど優秀だという意味で!」

すごい冷や汗かいているけど大丈夫かな…。

「そう言えば…ジェシー三正もコリン君に一正を使っていたな…。何かあるの?」

ああ…だめだ…ティファニーちゃん、顔真っ赤で思考回路がショートしてる。これ以上聞いても何も聞き出せないだろう。


「あ、ここにいましたか。」

声に反応に振り返るとそこにはノアが立っていた。

「あー…あなたがノア三正ですか?」

コリン君が興味津々と言った顔でノアに聞く。

「そうだよ。まあまだ子供だしノアでいいよ。君は?」

「コリン臨時隊員です。13歳です。よろしくお願いします。」


それを聞いたノアは少しおや?といった様な顔をして私の方を見た。

「シャーロット。君、最年少入隊者って言ってたけど…この子が最年少なんじゃないの?詐欺?嘘?見栄?」

頭にくる言い方だな!

「コリン君は臨時隊員なの!本入隊してるわけじゃないの!私が言ってるのは本入隊の中で最年少ってことなの!」


(仮入隊後の入隊試験の際、能力、体力、年齢などが全体的に見て条件を満たしていないが、将来的に見込みがあると判断された人は臨時入隊することが可能。

基本、臨時入隊で5年間勤めると自動的に本入隊が可能。臨時入隊中も給料は出る。

コリンは臨時入隊1年目、ティファニーは臨時入隊3年目。

ちなみにシャーロットは入隊してから半年ほど。つまりティファニーは軍経験が自分より浅い人に頼ってしまっているわけで…。)


「まあ、僕に更新されたけどね。」

「だまらっしゃい!」

それを見ていたコリン君、ティファニーちゃん。

「「仲良しですね~。」」

仲良く無いよおおおお!


「君がコリン君か…てことは君はティファニーさんであってるかな?」

そう言ってノアはティファニーちゃんを指差した。…何で分かったんだ?

「え…あ、はい、そうです…。…何で分かったんですか?」

私も気になる。なんで分かったのだろうか?

「ジェシーさん、いや三正に君達を探すように言われてさ…特徴を聞いたんだけど、

『金髪ロリと黒髪トレンチコートのおねショタを探せ。』って言われて、で条件にあったのが君達だったから。」

言い方ってもんがあるでしょうがあああああ!そしてあの先輩オンナ、部下をなんて目で見てんだ!もう同じ階級になったし、文句言ってやろう!


「あ、間違えた。ジェシーさん三正じゃなくてに昇進してたんだった。」

「なぜだぜ!なんであんな適当な人が昇進できるのよ!」

「僕に言われてもな…。で、ジェシー二正からの指令なんだけ…ど?」

そこで私達は二人の可愛い部下の異変に気がついた。

二人ともうつむいて…禍々しいオーラを滲み出していた。

「・・・。」

「・・・。」

うわあ…二人とも黙っちゃってるよ…。

「あ、あのね…あの馬鹿二正(ジェシー二正)のことはね…気にしないでいいから…元気だそうよ…ね?」

「そ、そうだよ!別におねショタは悪いことじゃないよ!」

ノア、フォローになって無いから黙れ。


「僕たちって…。」

「そんな風に思われてるんですね…。」

「ははは…。」

「ふふふ…。」

ああ…。手のつけようが無い。そして…ごめんなさい。


私も二人がそういう関係だと思っていたことを許してください。

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