パラレル2


「ちょっと、なんで寝てるの?」


 肩を揺すられて、目を開ける。バッと体を起こすと、呆れたように微笑む主人の顔があった。


「あなた? なんでッ!」


 驚いて手を差し伸べた私に、彼が笑ったままその手を握ってくる。


「それはさっき俺が言った。起こしに来たクセに、なんで寝てるの?」


 そう言って、握った手を軽く揺する。


「え?」


 気付けばそこは私達の寝室で、窓からは、レースのカーテン越しに眩しい朝の光が差し込んでいた。


「あ、ごめんなさい。私、なんだか夢を見ていたみたいだわ」


 慌てて立ち上がり、そうだ、フライパンにベーコンを焼いたままだった、とキッチンへと向かう。



 寝室から出る直前、主人を振り返った。



「あなた、そんな青いパジャマ持ってたっけ?」








「今日の君はおかしい」


 朝食の席で、主人が箸を揺らしながら言う。


「おかしくないわ」


 行儀悪い、と顔をしかめる私に構わず、彼は言葉を続けた。


「あのパシャマは、君がこの前、俺に似合いそうだって買ってくれたものじゃないか」



 そうだったかしら? と、首を傾げる。




 何度考えても、思い出せなかった。


「まさか。妊娠のストレスが原因、とか?」


 窺うように上目遣いで見つめてくる主人に、思わず動きが止まる。


「は?」


「妊娠? 誰が?」


 私のその言葉に、今度は彼がむせ始める。


「誰が……って、君が」


「私?」


 怪訝に見つめ合い、時計を見上げた主人が慌てて食事を再開した。


「とにかく、今日もなるべく早く帰ってくるから」


「はいはい」


 等閑に答えて、一応確認する。


「何時頃なの?」


 早く帰ると言って、十一時までに帰って来た試しがないのだ。


「ん? 今日も七時までには帰れると思うよ」


「うそぉッ!」


「ほんとだよ。信用ないなぁ」


 クスリと笑って、彼が呟いた。


「いつもちゃんと帰って来てるのに」







「気をつけてね」


 彼のネクタイを整え、玄関まで見送る。これは毎日の日課だ。




 だけど今日は――。




「君もね」


 そう言って、彼が私のお腹を撫でてくるのが加わった。




 その仕草は、とても冗談でやっているようには見えない。


「私、本当に妊娠してるの?」


 呟くと、少し笑った彼が返してきた。


「当たり前」


 玄関を開け、彼が手を振りながら出て行く。


「行ってらっしゃい」


 手を振り返しながら、私は思わず目を剥いた。





 ――お向かいさんの赤い屋根が、緑色になっているのだ。





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