パラレル1【現代ファンタジー】


 ああ、今が夢ならいいのに……。




 そう思うのは、これで何度目だろう。


 目の前で眠る主人の顔を、ジッと見つめる。


 私よりも、ずっと顔色がいい。


 きっと、二十四時間絶え間なく流れ込む点滴のお陰だろう。咽喉元に付けられた『人口呼吸器』のチカラを借りて、この人は今、生きている。


 悪夢のような状態。


 私達はまだ、新婚だった。


 子供だって、授かってもいないのに。


 誰がこの人を、こんなふうにしてしまったの?


 ぼんやりと、頭を下げていた男の姿が蘇る。自分も額に包帯を巻いているのに、何度も何度も頭を下げていた。


「そんなに頭を縦に振ったら、血が出ますよ」


 ほら現に、薄っすらと包帯に血が滲んできてる。


 私が微笑むと、男はまるで自分が被害者であるように、怯えた瞳を私に向けた。真っ赤に泣き腫らした、その瞳で。

 


 ねぇ、あなた。


 私は、誰を怨めばいいの?


 あの、あなたを轢いたトラックの運転手?



 それとも、居眠り運転をさせる程、あの運転手を働かせた、トラック会社?


 それとも、あなたを夜中まで残業させた、会社の部長?


 それとも、帰りが遅いと拗ねて、あなたを急がせた私なの?


 それとも……。

 




 答えなんて出ない。



 怨むのは、いつも神様の事。


 こうしているのは、もう三日目? 五日だったかしら? 一週間?



 白い天井を見上げて、私はいつからこのパイプ椅子に座っていたかしら、と考える。



 ずっとのような気もするし、さっき来て座ったばかりのような気もする。


 考えがまとまらなくて、視線を主人へと戻した。




「……あなた、よく眠るわね?」


 返事のないのが判っているのに、話しかけた。


『もうちょっとで、起きるから』


 懐かしい声が、頭に響く。



 朝が苦手で、何度も起こしに行く私に、あなたは寝惚けた声でいつもそう答えた。



 毎朝の、幸せな日常。



「ねぇ、そろそろ起きて」


 いつものように声をかけて、体を揺さぶる。だけど、いつもの声が、聞こえない。


「……ねぇ、ほんと起きてよ」


 そう呟いて、私はシーツへと顔をうつ伏せた。


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