17.表彰


 体育館の中は主に二つの音で満ちていた。ステージ上で講話している校長の声と、外で降りしきる小雨の響き。夏希は後者に耳を傾け、校長には義務的な眼差しを送っていた。

 こうした全校集会は、この学校では隔週ペースで、朝に行われている。

 全校生徒が体育館に集まり、校長の長話を退屈そうに聞く。基本的には体育座りの生徒が多いが、男子はあぐらをかいている者も多い。


 夏希は体育座りをしていた。彼は出席番号が一番になることが多いため、こうした集会で整列する際は大抵、最前列で目立つ位置になることが多い。

 二年に上がってからは一年生の後ろに並ぶため、目の前にすぐステージということはなかった。夏希の少し前には、一年生たちがずらりと列をなしている。

 六月も下旬に差しかかったこの頃では、すべての生徒が衣替えを済ませ、夏服となっていた。

 この学校では制服のオプションにポロシャツがあり、それも紺と白の二色から選べる。もちろんワイシャツもあり、それも三色から選べるため、一口に夏服と言っても、組み合わせは多岐に渡る。特に女子は、スカートの柄も三種類から選択できる。こうして全校生徒が一堂に会すると、同じ学校の制服と思えないほどの多様性が殊更に顕著となるようだった。


「続きまして、表彰です」


 集会がつつがなく過ぎていったのち、進行役の教師が告げた。


「先日行われた各部の高校総体予選の結果から、入賞以上の生徒を表彰します。呼ばれた生徒は、返事をしてその場に起立し、ステージ前に並んでください」


 そうして教師が、部活動名や成績とセットにして、該当生徒の名前を読み上げていく。その度に様々な声色の返事が立ち上がり、続々とステージ前に集まり始める。

 この学校の伝統か、部活動生はポロシャツを着ている者が多い傾向にある。実際、ステージ前に集まっている生徒はみなポロシャツ姿だった。


「次、女子水泳部。二百メートル背泳ぎ三位。一年E組、南波秋穂」

「はいっ」


 一年の群れの中から、秋穂が立ち上がる。彼女は白いポロシャツを着ていて、ステージへ向かう時の表情も明るかった。


「同じく二百メートル背泳ぎ、七位入賞。二年A組、西城千春」

「はい」


 後ろの方で、千春の声が小さく響いた。しばらくするとステージへ向かう彼女の姿が確認できて、夏希は目を眇めた。


「お、西城さんじゃん」


 夏希の背後に並んでいる健太が、背中を小突いてくる。


「ああやって並ぶと、やっぱ西城さんって小柄だよな。となりの一年がスタイルいいから、余計にそう見えるかもしんないけど」

「まあ、そうだな」


 夏希は曖昧に相槌を打つ。


「あ、それと東江」

「ん?」

「お前、お粥とか作ったことある?」


 夏希は少しだけ考え、


「あるけど」

「簡単?」

「ご飯さえあれば、そんなに難しくないと思う」

「教室戻ってからでいいから、どんな感じで作るか教えてくんない?」


 小声での頼みに、夏希は小さく頷いた。

 該当生徒の表彰が終わると、次は全国大会などに進む生徒の名前が紹介された。女子水泳部で呼ばれたのは一人だけだった。


「以上で、表彰を終わります。礼」


 進行役の教師が言うと、ステージ前に並んでいた生徒が一斉に頭を下げる。すると、ほどよく束ねられた拍手の音が館内に響いた。

 紺色のポロシャツを着た千春は、秋穂のとなりでぎこちなくはにかんでいた。





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