第6話

 コイツは気付いていないのかもしれなかった。

 それに乗じて、悪夢の続きだったんだと告げるとまた笑った。

 どうして、どうして包丁で切られたのに、平然と片付けてしまうのかわからない。

 本当にお前は、殺し屋なのか。

 ひとおもいに殺してはくれないのか。

 それが伝わった時には、やっと心臓か首でもいい、刺しにくるんだろうか。

 死んだ娘に会えるなら、言い訳をしなければいけない。

 これは仕事であって、好きでコイツと一緒にいるんじゃないってことを。

 コイツが娘を殺したなら、俺はコイツを殺さないと。

 復讐しないといけないのに、何も、何もかもが、感じられなく……。

 赤い液体が頭を濡らしてきた。

 見上げると空になったワインの瓶。

 それを振り上げられて、殺気もないのに慌てた。

 転がって避ければガシャンと音を立てて砕ける。

 殺意もない目。

 殺気のない、行為。

 確かな足取りでその割れた瓶を持ったまま近付いてくる。

 壁に背中がついた時に瓶を真っ直ぐと目の前に差し出してきて告げられる一言。

 今日は、心中の日ではないけれど、とても死ぬには最適な一日だね。とだけ。

 何かの冗談なのかもしれないなんて思えた方が凄い。

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