第5話
どうしてやろうか、少し迷った。
これから、解放すれば今度こそ殺される。
でもそれじゃぁ、ダメで。
偽らせて欲しい。
両手でその頬を包んで、おはよう、と言う。
まだ、寝ぼけてるなら早く起きてね。
そんな見当違いに甘えて欲しい。
殺せなくなってから、殺されたい。
男の目が見開いていて、瞳が揺れる。
ズキズキと首が傷んだ。
スースーする。
血と水が空気を掠めて、寒い。
膝を浮かせても、男は動かなかった。
割れたガラスの破片を拾って、新聞紙の上に置いていく。
男はガラスがカチャリと音を立てる数だけ、落ち着きを取り戻していくみたいに、ゆっくり、ゆっくりと深呼吸をする。
ほら、もう、殺されない。
謝る声と一緒に気配がカーテンを開けようとした。
いつも通りの流れにそう為に、男はこの偽りに甘えてしまった。
今すぐにでも振り返って殺そうとすれば、殺せる相手だってわかっていながら、いいや、それに気付いていない。
新聞紙がクシャと音を立てただけで男は怯えた顔をして振り返ってきた。
悪夢でも見たの?と笑ってやる。
安心しておやすみ。
景色が音が味が何のかもが蝕まれていくのにも、抵抗しないお馬鹿さん。
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