第3話
男が目を覚ましたのは、もう真昼間だった。
いつでも殺せるから、殺さない。
殺せない時に、刃を突き立てて言いたいことがある。
きっと、殺されるかもしれない。
その時に。
カランッと氷がガラスのコップを回った。
液体の入っていないガラスの内側で、傾けられる方向にされるがまま。
まるで、この男のようだ。
操られていることに気付かない。
気温が汗をかかせるわけがないのに、ポタリポタリと床に落ちた水の玉にやっと気が付いた。
男に水をかけられたことに。
なんでそんなことをするのか、聞く気もなかった。
この微妙な季節じゃぁ、ちょっと濡れただけでも寒くて、空気に触れてスースーする。
おはよう、と笑ってやるけどその真面目くさった顔が手を伸ばしてくる。
直感だ。
殺される。
殺気が僅かに跳ね上がった。
殺意が据わった目に現れている。
ガラスが床で飛び散ったのも、その音でさえ、とても痛かった。
呼吸が空回りして音を立てている。
別の液体が落ちていく。
ほらね。
男は、相手に致命傷を与える術を知らない。
ちょっと血と、ちょっとの演技で、勘違いする。
致命傷を逃れる方法なんていくらでもある。
倒れ込む時に、突っかかりないようにしっかりと、脱力する。
目を細めてやって、意識を見せない。
男がどうして殺せるだろうか。
いや、殺せない。
無駄な抵抗はしない方がいい。
上の方で声が誰かに語りかけている。
まだ、殺せる。
息を殺して、男の片足に手を伸ばした。
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