第19話 一緒
(ずーっと一緒だよ?)
そうだね、みかり。
To.俺の家へ
From.俺の家から
だいぶ未来の日付指定をしたはずっだったけどそうでもなかったな。
みかりの指。
小さくなっちゃったなあ。
「ジップロック、入れてたのになあ」
ビニールの内側に貼り付いている淀んだ液体だったものは乾いて少し粉になって角に溜まっている。
開けると凄い匂いがするんじゃないかと思ったが、うん、そうでもない。気がする。
口に含み舌で転がす。
みかりの爪と俺の歯がカチカチ音を立てる。
すっかり乾燥しているかと思ったが俺の唾液を含んで少しずつ柔らかく、そして中央にはまだ閉じ込められていた水分があったのか急に口の中に味が広がった。
これは感動なのかな?
爪の裏あたりに段差を舌の先で感じてまさぐると、そこから爪がはがれた感覚があった。
どんどん小さくなるなあ。分離していく塊を追うことに集中できない。気を抜くと少し力を入れてしまっていて爪を噛んでしまった。脆く、崩れた感じ。ああ、寂しいなあ。ぷちりと潰れる部分。1滴の何十分の一かの水分がぶわっと広がる、不思議だけれど。ふと思う、虫が湧くって何だろうな?どっかから卵が来るのかな?空気中に卵があって蜂が花にとまるように水分にとまるのかな?うん、違うし、どうでもいいか。味の変化は口腔内ですぐになじみ、舌を回して大きな塊を見つけようとするが時々細かくなった爪の欠片がちくりと当たる程度だ。爪の欠片、妻の欠片、あはは。
ペットボトルの水を飲もうとしたが、上手く開けられず、女子かよ、俺。
「ね、開けて?」って上目使いのみかりを思い出し…涙が出そうになるが、あ、ちげえや、アレは会社の女の子だったわ。
ふっと笑いそうになったとたんキャップが開いて、コクリ。ゴク。ゴク。嚥下する喉の音が少し変な感じで聞こえる気がする。
ごうん、ごうん。洗濯機の音。段ボールも纏めないとな。充電が終わったら会社に電話して。
久しぶりに窓を開ける。
救急車の音。
うるせえなあ。
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