第8話 回想 未来から過去への

 俺は「ある程度である」ことだけを見失わないように生きてきたら、まあある程度は上手くいってきた。

 逆に言えばある程度であるためにやることはシンプルだし、どのくらいのある程度かを設定さえすればやることは見えてきた。

 単純にこういうやり方が俺にあっていただけで、それに早く気づけたことはラッキーだった。


 ある程度の人生のための→ある程度の金、ある程度の女、ある程度の友人→そのための、ある程度の仕事→会社→スーツ→休日→おしゃれカフェ→情報→BBQ→猫→高そな、そしてちょっと高いボールペン→ふかふかのタオル…ま、なんというか『何でも』だ。


 俺の顔はある程度目鼻口があるべき場所にあるし、家系的に頭皮の心配はご無用だったし、ヒールを履いた女の子を嫌がるような身長でもなかった。

 ま。それだけで「ある程度」は、得られそうなもんだけど実はそうじゃなくて、やっぱり俺には「ある程度である」ための明確な設定は必要だった。

上手くいかない奴らというのは、それだけで「ある程度」は得られると思ってて、でもそれさえも持っていない奴らか、ただただ持て余してる奴らだ。


若い頃…もう若い頃、だなんていっても嫌味でも何でもない年齢になってしまった。


みかりは死んでしまった。でもだからこそ俺は俺自身がみかりになるくらいの愛を得た。

 …それまでマイナスに向かないある程度もあったけれど、同じくらいプラスを望まないある程度もあった。あれだ。高望みしないとか、自分をわきまえる、そういう事。そうやってできたある程度貯金をあの時に全て…あの時のためにある程度貯金をしていたのかとさえ思う。

今は穏やかに…わずかにできていた利子分くらいの残りかすででも幸せな余生だ。

…40年近くも前の話だ。

もうみかりままが訪ねてきてオムツを変えたり、延々とみかりの幼少期の思い出を話していくこともなくなった。

死んでしまったから。


本当にみかりはとても上手に俺の身体を此処に連れてきてくれたね。


 今の俺がかわいそうなんてそんなことない。

 今の俺の設定したある程度。

 上手くいっている。

 ずっとうとうとしながらみかりといられる。


40年?本当に?

パタパタと廊下に足音。

みかりままかもしれない。

死んだのだっけ?

少し、背中がゴリゴリするな…。

誰かが来たら

体勢を少しだけ変えてもらおう。

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