第7話 留まる。超スピードで

 ん、思っちゃった。 

 おし、これで解決する!とね。

 でも解決しなかったんだ。

 それももうすっげ長い間。


 みかり、手ぇ出して?いや、あのさ設定的?に、ね?みかりにはハテナ?ナニシテルノ?だろうけど必要な事でね?小指ごとペーパータオルに包むようにしてピタリとくっつく位置を探す。直視、できんもん。でももうぐずぐずの感覚がキモくて俺は泣きたい。なんだよ?くっつかねぇよ?どこだよ?じんわりとペーパータオルが沁みてきている。どうして?

 あーこんなんあったよなあ、ちょろっと女とイイ感じになってさあ、酔っ払ってふにゃふにゃで全然たたなくてでも突っ込みたくて、ここ?ここ?でも上手く入っていかんで、おめーがガバガバだからすぐ抜けんだよってえキレたら

 アンタさっきから太ももの間にこれぐにぐに押し付けてさあ?(つって女は右手を後ろに回すと化粧ポーチからマスカラ?を探り当てその先でひょいとチンコを持ち上げた)入れる場所違うとか以前の話よ??届いてねえしこの祖チンがバーカバーカ!

 …みたいなさあ。

 そういういい方はねえよなあって思い出しイラりとしたときに欠片がぐっとみかりの指に入った感覚があった。

 わ!ありがとう!いつかのユルマンの女!何かついでに過去を乗り越えた気分だぜ。つうか、結局入れてないから緩くないかもよね、うん、あんときも足組んで太もも締めてくれてたんだよね、ごめんね!

 なんて調子に乗ったけどペーパータオルはぐっしょりしてきて

 きも!俺は思わず手を放して一瞬ペーパータオルはみかりの手に張り付いていたけど、重みで落ちた。

 そいでさらにはそれを追いかけるようにあの破片がさあ、もうさ、破片って意識するたびに口の中がぶにゅりとするようでさあ、ぼとってえ落ちて、キモいより俺は怒りを感じた。何だよまじ死ね。いやいやみかりじゃなくてっていうかみかりは死んでいるのだし、欠片じゃなくて、もちろん俺にじゃなくてこの状況に。おや?でも怒りという感情は気持ち悪いよう~って俺の弱さを凌駕するようにふわりとねちょっといつもより上の次元でもの考えられるような気分?怒ってる部分と考えてる部分が別になりつつお互いがめっちゃ早い、みたいな?あれだよね?マンガで殴り合いながらその中に右、左、ちょっと引いて右回し蹴り、おっと敵のパンチが来る、肩で流して…からのカウンター!とかやりつつもなぜか俺は海辺のあの街で…とか詳細な子供時代回想シーン始まっちゃうみたいなね。

 なんというか俺①は怒りに燃えながらもうペーパータオル越しとか見ないようにとかがなんつかしゃらくせえ!みたいになってかけらを拾い上げるとみかりの手首を掴んだ。あれ?これ指輪はめるみたいだね、みかり。俺②は情報を探す。さっきぶちまけた伊勢丹に袋の中身何か引っかかる?関君の名刺?いや、多分即効性はないし、何だろうあのカードを使う機会はなんか確実に逃したのだという気がするし、と言いつつ本当に見放されたらどうしようというか、まだ最後の最後に可能性を残しておきたいような、うん、何かあれは違うと俺は思う!何か見落としている情報、情報…。みかりの指を俺①が見る。さらにひどい、さっき欠片を無理にめり込ませたせいだろう。俺②はマンガで言えば見開き、真っ白とか真っ黒なページ。あれはさ?俺分かったぜ?これで原稿料2ページ分っていいよなあ?じゃあないんだぜ?白い文字やら黒い文字がびっしりで結果埋め尽くされてあんなページになってんだぜ?…いやいや~んなわけないけど~。うんでもそうだとしてね、そんくらいの超スピードの超文字数で俺は考えて。読まされた書類、超記憶力で引っ張り出して。

 すとん、と俺は冷静になって?冷静かな?エスカレーターを上下するパントマイムみたいにすーっと身体とか意識とかの上のほうだけ動いてるような感覚だったけど、「みかり、俺間違えちゃってた。ごめんね。でももう分かった」

19:47。間に合う!

電話をかける。

「ちょうど近くですぐ来れるって。俺、取り乱してさ、みかり、びっくりしたよね?」

 急いで準備をして…インターフォンが鳴る。

「集荷でー。はい、都内…え?これ?」

「いいの。お願いね、おつりいらない今忙しくて、ジュースでも飲んで、お兄さん♡」

「え?」

 宅配のお兄さんを締め出す

 そのままエンジン音が鳴り小さくなるのを想像する。(締め切った窓の外で聞こえないからね)

 ドアの前に膝をつきそうになる。背中にみかりの視線を感じる。大丈夫。みかりのかけらはトラックに乗ってどんどん離れていくだろう。

振り向くのがちょっと怖いかなと思いつつ、ドア前だし何とかなるしと奮い立たせて、にっこりの顔を作ってから体ごと向き直る。

みかり、きょとんとしてる。かわいい!

で。

チラリ…。

おっし、やったね!

 くっつけるじゃなくて離すのが正解だった。

 ほらみかりの指は色を取り戻し…。

 ね♡

 良かった。俺とみかり、やっと普通に始まる。残りの時間。

「ねえみかり、ベッドが無人島ごっこしようよ」

「あはは懐いね!」

「俺、水もってこーっと」

「サチくん、大変!サメがきちゃう!」

「早く上陸しよ!」

あは!あはは!みかりの手を取ってベッドにもつれこむ。

こんなアホみたいな事、生きてたら一生しなかったくせに。

 ぺたんとベットにすわって手をばってんにしてワンピースを脱ぐみかり。おなかをきゅっとひっこめてるのがいじらしい。そういやVRの服ってどうなってるんだろうと思ったとたん、肌と布の境目があやふやになる。でも俺はもう細かいことはどうでもいい。でかいことをやり遂げたんだから…。

「その水着、かーわい♥️」

言ったとたん下着が水着に見えてくるかな?と思ったがちょっと分からない。俺の想像力の問題かもしれない。

でもこれは俺が一番夢中だった頃のみかり。もう会えないと思ってたみかりに死んでから会えるなんて…ありがとう、科学!化学!

 この絶頂期のみかりと残り時間を過ごせるなんて、夢みたい。

「ふふ…「ピザ食いてえ」」

「なんだっけ?みかりそれなんの映画だっけ?」

「ピザ屋さん来たら起きれるでしょ?それまでちょっと眠ったほうがいいよ。そして起きたらご飯あるって…」

「うん最高」

 こういう気づかいができるみかり、最高。うん、俺なによりもちょっとだけ寝たい。リセットしたい。リセットできないことは多々、せめて俺の精神力だけでも。

「電話しといてあげるね」

 みかりを抱きしめ横になりすぐにうとうとする、「…んと…みみがカリカリの方で…」電話しているみかりの声がかわいい。少し手を伸ばして電話中のみかりにいたずらしたい。眠い。背中をなでる。こんな手触りだったかな、みかり。ああ、そっか本物じゃあないし。何か爪の先にひっかかる、みたいな。ま、いいや。眠い。ちょっと。ピザ屋が来るなら安心してちょっとだけ寝れる。起きたら後は全力でみかりと過ごそう。

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