第6話 許容

「みかり!どうしよう!何をしようか!」

「サチ君落ち着いて…」

 みかりの髪の毛をゆっくり撫でる。するすると気持ちがいい。

 俺はこの手触りだけで…あ、んー…もちろんみかりが死んじゃったことは嫌だよ?でもこの手触りだけでなんか良かったっていうか安心っていうか生きててよかったっていうか、幸せだなってちょっと目を細めて微笑む的な感じになった。

「俺さ本当にみかりが好きなんだよ。あんまりうまく言えないし…伝えるのも俺、詩人とかゲージュツカとかミュージシャンじゃないし…何かね、今があるのが嬉しいの。みかりが生まれて俺といたのが嬉しい。で、ちょっととんだけどまたこうしている今がね、あー俺言いながらこれ言わないほうが良かったのかなって思ってきたけど、でも嬉しい。いまみかりといれるのが。違うよ。死んだことはどうでもいいくらい今みかりといれるのが嬉しくて幸せなんだよ」

「んふふ…サチ君、何言ってんのか分かんないよ?でもね、嬉しい」

 みかりの両手がぱっとひらいて俺の顔を包むように…ちょっと首をかしげた上目遣いで、こいつ分かってやってんな?と思いつつくそかわいい。そしてこれは俺の愛してたみかりだって強く思う。一緒に住み始めてめんどくせーことをグダグダいうようになったみかりではない、絶頂期のみかり。そうかこうしていい思い出で締めくくることでちょっとしたなんつか嫌な感情もナシってことになるのかもね。最高じゃんVR。簡単に言えば『いいお化け』、いいじゃん子供にもわかりやすい素敵な表現。

 が。

 ぐちゃ。

 俺の、耳の下のあたりが!

 ヒッ!なんだ今の?

 俺の反応にみかりもビクッとする。

「え?な。なあに?」

 少し透けているみかり。

 先端に近付くほど透明度は高い。だからすぐに気がつかなかった。

 頬にあたったオゾマしい感覚、みかりの左手を見る‥小指が欠けてぐずぐずになっている。

 ホラー映画ならそのぐずぐずの指先から虫がウワーっと‥あ、知ってるわ、このパズル。関君が歯磨きの泡の中から拾い上げた欠片、あれだ‥そうそう俺の口の中にしばらくいらしたあの‥。

「ちょ、ごめ、トイレ」

 うげ、う。妙な色の液体がびしゃしゃと一口分。コーヒーか。そう言えば何も‥食べることを忘れてたな。

「ねぇ?どうしたの?大丈夫‥?」

 みかりがドアの前にいる。音がしないようにゆっくり鍵を回して施錠した。

「うん、大丈夫!そっちでまってて」

 みかりは気づいていないのか?呼吸が苦しい。どうして?あの欠片、関君が丁寧に包んで‥どうしたっけ?どうして?他の部分は普通にみかりなのに?

 まじキモい。なんじゃあれ?

 あのきもい部分なくしてさっさといちゃつきたい。

 せっかくさあ、絶頂期のみかりといい思い出で上書きして気持ち的に再スタートの準備できるって時に何なのさ!

 俺は臆病で弱いしすぐ逃げたい。

 自分のある程度最低な感情と立位置をわかった上でどうしよ?


 そんな時は!この数分完璧忘れていた王子様関君!を、召喚、とまではいかなくても名刺というアイテムでテレフォンができるはず!玄関先の放置のトートバッグにお名刺が、ある!はず!


 たぶん

 みかりは分かっていない&指以外はみかり→とりあえず今の状況ごまかすというかふわっとさせとく(分かったとたんに覚醒とかされたら恐怖)

 →で、その間に上手いこと関君名刺を使って支持を仰ぐ…オッケ、この作戦でいくぜ

 かちゃり。

「ごめ、さっき送ってくれた関君ね、運転荒くてちょちょっと車酔いってて…んでさ、そういや関君の書類あずかりっぱ思い出してヤベえから、関君に連絡して、すぐ取れるようにオートロックの外の郵便ポストとか入れとく的な?感じにするから、ちょっと連絡して下行ってたぶんソッコー戻る」

 はてなとたぶんと感じと的なでバンドやってまーす、俺の名前~オンヴォーカルう、サチ~!!!きゃー!…ってなんだよ、ソレ。

 バッグとスマホをもって玄関のドアを閉める前に

「ええ?そっこう、だよ?」

 ってえ、ぺたぺた歩いてきたみかりにウインクする。俺、なかなかやりおる。


 エレベーターがくるまで3メートル先の俺の部屋がバアンと開いてぐっずぐっずになったみかりが斧とか掲げてキッシャああああああとか向かってきたらどうしようと思ったけど、フツーにエレベーターは開いて、フツーに乗れた。密室だ!イエイ!とズザーとエレベーターの中でトートバッグを逆さにすると書類がばさー、あー名刺挟まったかなと思う間もなくペーパタオルに包まれた…!お指様!あ!コレ!いけんじゃね?元の場所に戻せば元通り的な?開くのこえーけど。おし!ソレを一番取り出しやすいケツポケット1(右)にいれる、で、スマホはケツポケ2、…やべ、行先押さないで下に呼ばれて…まあいいか1階まで行って…散らばった書類をしまうといい感じに関君の名刺が出てきた、1階のエントランス、俺はもう交代で乗ってきた OLにこんばんわなんて微笑む余裕さえあるぜ、何階の娘さんじゃろ?やりとげた感すらあって意味なく外に出て空を見上げたりする。

「ふう」

 ま、一応、名刺をスキャン。関君の携帯とVR社の住所、電話番号が登録される。

 ああーびびった、これたぶんぴたっとはめれば万事解決だわ。


 なんてね

 何でかな?

 そうおもっちゃたんだよ。


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