第4話 do live

 VR

[Vacant]

 中身のない、空虚な 

[Reanimate]

 元気づける、再生する

 リアニメイト


 魂をとらえる技術、

 36時間故人との時間を共有でき、

 起動の優先順位は遺産相続と同様に家族から始まり、

 故人の身体と故人のVRを同じ空間に置くことはできず、

 VRの起動場所は自宅を推奨、

 起動場所から1kmを行動範囲とし、


「その線引いてあるところを読んでいただいて…」

 関君が車をコンビニの駐車場に入れる。

「ちょっと、コーヒー買ってきますね。河下さん、お砂糖とか?」

「あ、えとミルクだけ」

 関君に名前を呼ばれて意味なく動揺する。渡された書類から目を離し見るともなく外を見る。


 無事に例の袋を外してもらった俺は、みかりままに頭を下げ

「VR、みかりままに…」

 でもみかりままはぎゅっと俺の両手を握って

「みいが最後に選んだのはサチ君なのよ。あの子にとってそうすることが一番嬉しいわ。あの子が嬉しいことなら私も嬉しいのよ。サチ君が今一番辛いでしょ。いいのよ、気を使わないで」

 みかりが俺をえらんだ?俺がツラい?気を使ってる?

 どれもピンとこなかった。

「VRをゆずるなんてそんなことを言わないで。逆に誰にも渡したくない!くらいでいてくれなきゃ悲しいわ。サチ君はみいの旦那さんなんだから」

 重い。苦しい。もう一回倒れて40時間後とかだったらすべては解決してるのか?

 関君は俺とみかりママの重ねた両手をさらに包み込んで

「大丈夫です。ここから幸せになる一歩は僕が保証します。河下さんはみかりさんを誰よりも幸せにしますよ」

 僕、かあ。マダム相手には。やっぱり関君すごいなあ。

「けれども時間がないのは本当で」

 するりと俺とみかりままの手を引き剥がす。

「僕はこれから河下さんを連れて行ってしまいます。が。河下さんは、みかりさんとの新しい思い出とともにお返ししますね」

 ほー…と感心して関君をみると、

 ちょうど前髪から流れた水滴が眉のとこで少し角度を変え少し伏した睫の上を滑り少し跳ねてスーツの袖口に吸い込まれた。

 奇跡を見たような気がした。

 そして、俺は病院から出ることに成功した。


 両手にコンビニコーヒーを持って関君が戻る。

「30分くらいここに停めても大丈夫らしいです」

 コンビニのレジで女の子がひらひらと手を振っている。この人たらしめ!

「時間ないといいましたが、あーいや嘘じゃないんですけど…タイムスケジュールとしては30分ここで、河下さんのお家まで20分、まあ、納得いかなければ開始までそこから1.2時間は余裕、あるかな。…キャンセルもギリギリまで大丈夫…ってあまり私が言う事じゃあないんですけど

 …譲っても怒らないと思いますよ、お義母さまも。一回あきらめた娘と過ごせる時間がプレゼントされるのですから」

「…そうかあ…みかりはさ、みかりままといるのがいいんじゃあないのかな?って俺さ。そもそも俺、みかりに会いたいのかな?」

 コーヒーが暖かくて俺は自分の手の冷たさに気づく。みかりママに手を握られたときは何も思わなかったのに。

「ちょっと、始めますね。実は他にも事情がありまして」

 するすると関君の指が何かしらの機械のキーボード的な上をなでるように動く。

「みかりさん、死の形が特殊だったもので魂の破損の可能性もありまして…余程のことがなければ支障はないはずなんですが…」

「俺さあ…みかりにちょっと苛ついてひどいこと言っちゃったんだよ…直前に。みかりは俺を恨んでいるのかもしれない。俺はそれが怖いのかもしれない。だからみかりままに丸投げしたいのかもしれない。そうかあ俺、何もなかったことにしたい」

 関君が何らかの作業をしているから、俺はするすると言葉がでてくる。関君の指は直接俺の言葉が生まれる場所をなでているんじゃないか?するする、するすると。

「3年付き合って、4か月くらい前から同棲して、一緒に住むとやっぱりさあ…でもこの日に籍入れようってみかりが言うからさあ…俺さあ愛していたのかなあ?…うん愛していたけどさあ…みかりままのほうがみかりのこと愛してたんじゃないのかなあ」

「あの…まあ、これ言ってっていいのかグレーですけど…みかりさんのVRは河下さんを恨むことはありませんよ。

 なんというか…VRはある程度契約者様が望んだ魂の部分でできているんです。例えば嫁姑で争いが絶えなくともお義母さん優しいとこもあったわあって契約者が思えばそこがクローズアップされるというか…」

「俺が望んだみかりの部分…?」

「んー、だめだったかなあやっぱ言っちゃって。でも河下さん、VRに呪い殺されるんじゃないかっておびえてるみたいで可哀そうで、何というかさっきの囚われのお姫様が今度は呪いをかけられるっていう…ふふ」

「なんだよ」

 窓のほうを向くが窓に反射して関君が肩を震わせて笑っているのが分かる。

「みかりは覚えているのかな?俺が冷たくしたこと」

「そうしたら謝るチャンスができるってことじゃないですか」

 おーなるほど。

「うん。初期設定、終了です。河下さん、ちゃんと書類読んでます?」

 いくつか関君に質問して、関君が回答をくれる。あ、それはですね。と関君が俺の持つ書類をめくった時、関君から、整髪料かなにかのいい香りがふっと漂って、俺はドキリとした。は?俺なんか目覚めた?本気でお姫様になっちゃう?いやいや違う。

 そうか、温度や匂い。俺は回復してきているのだな。

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