外伝1 「2人の神の雑談」

真っ白な空間に一人の翁が立っていた。ここは「神界」と呼ばれる神々の世界の一室、翔がこの翁に会った際使われた部屋である。その時は完全な暗闇になっていたが、それもこの翁による演出であり、実際は広大で白い部屋であった


「………よし、精神転移術は完了じゃな。あとは受け入れ術式じゃが……あやつがこの術制御を最後に失敗したのはいつじゃったかな?」


 翁は笑みを浮かべ、部屋を出る。神界においての個室とは、その神が管理する世界の中枢であり、本人以外の神が立ち入ることは出来ない。この翁も普段は翔が居た世界を監視し、時には管理する為にこの個室に篭っている。


 しかし神も無感情ではなく、時には友人ならぬ友神と語り合い、遊戯に興じる事もある。その為に交流室と呼ばれる部屋が多数あり、その一室に翁は入った。


 この部屋は翁がよく使う部屋で、中には先客が居た。それは若い女神であり、翁の長年の友神である。翁が女神に声をかける。


「もう来ておったか」


「当たり前じゃない。この遊びを見逃すなんてありえないわ」


 女神が笑う。


「受け入れ術式は終了済み。あなたの術式の癖に合わせてるから、失敗はまずありえないわね」


「それでは見続けるかの。我らが選びし子の行く末を」


 翁と女神の言う「遊び」、それは翁の世界で不慮の死を遂げた魂を、女神の世界に転生・転移させ、そこで何をするかを見るというものだ。

 不思議な事に翁の管理する世界は、女神の管理する世界に対して一方的に相性が良く、魂を移動させることができた。それを利用して、この2神は時折こうして遊びに興じている。


「それにしてもこれで何人目じゃったかのう」


「覚えてないわね。でも面白いから良いじゃない」


 この2神の間にはテーブルがあり、その表面には紅い髪の女性が映っている。


「それで、今回は転生ではなく精神転移じゃったの。転移先の嬢ちゃんの名前は何かの?」


「今回ここに映っているターゲットの名前はクレアよ。それにしても、あなたも面白い事するわね。女性の身体に男性の魂を入れるなんて初めてじゃない?」


「見繕えた魂が偶然男じゃっただけじゃよ。転生はともかく、精神転移で同性同士じゃないといけない理由もあるまいて」


 翁が笑う。ひとしきり笑った翁はふと真面目な顔になり、女神に問う。


「さて、今回この女子を選んだ理由は何かの?」


 女神も簡単に人の望みを叶える訳ではない。女神が面白くなり得ると思う、それこそが神の奇跡を享受する基準なのだから。


「この子はね、魔族に色んな人を殺されてる。そのせいで一度記憶を失い、それでも前を向き、そして最近、また魔族によって自分の全てに等しかった理解者を失った。彼女にとって、一回目の魔族による殺戮は覚えてない。でもその内心の憎しみは、私に面白いと思わせたの」


「ほほう、魔族による殺しの被害者かの」


「そうよ。魔族も最近活発でね、それも考えると面白くなりそうなのよ」


「なるほどのう……。では、ワシらはこの女子の行く末を、愉しませてもらうとしようかの」


 そう言って翁と女神は会話を打ち切り、テーブルに映る女性の行動を2神で観察し始めた。

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